ストレス応答の加齢変化に関する研究

文献情報

文献番号
199800271A
報告書区分
総括
研究課題名
ストレス応答の加齢変化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
城川 哲也(国立療養所中部病院長寿医療研究センター老化機構研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮石理(国立療養所中部病院長寿医療研究センター老化機構研究部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ストレスがどのような機序によって脳に受容され、それが脳の老化に対してどのように働くのかについては不明である。本研究では、1)中枢ノルアドレナリン系の加齢変化を定量的に捉え、2)様々なストレスがその加齢変化にどのような影響を与えるのかについて検討し、3)中枢ノルアドレナリン系のストレス受容の機序の解析を行うことを目的とする。
一方、コラーゲン合成系が老化に伴いどのように変化するかを明らかにすることを目的とした研究では、コラーゲンに含まれるリジン残基の修飾酵素であるリジルハイドロキシラーゼ、リジルオキシダーゼの発現そのものと、これら酵素の活性が阻害されたときの誘導を蛋白、m-RNAレベルで検索する。
研究方法
ウレタン麻酔下のF344雄ラット(7 - 27カ月齢)青斑核より約60個の単一ニューロンを細胞外記録した。青斑核からの投射密度を知るために、大脳皮質および海馬歯状回の電気刺激に対して逆向性応答するニューロンの出現頻度(逆向性応答を示したニューロン数/記録したニューロン数)を求めた。また青斑核ニューロンの軸索終末分岐の程度を知るために、複数の逆向性スパイクを出すニューロンの出現頻度(複数の逆向性スパイクを出すニューロン数/逆向性応答を示したニューロン数)を求めた。青斑核からのノルアドレナリン線維を同定するために、ドーパミン→ノルアドレナリン変換酵素である dopamine-β-hydroxylase の抗体による免疫組織化学的検索を行った。大脳皮質および海馬歯状回におけるノルアドレナリン線維に特徴的な varicosity の密度を計測し、その加齢変化を比較した。
ヒト培養線維芽細胞を用い、リジルハイドロキシラーゼ、リジルオキシダーゼについて、発現、誘導の老化に伴う変化を検索した。
1) ヒト培養線維芽細胞(TIG -1)を継代し、PDL (Population Doubling Lenel) の異なった細胞を得た。
2) ヒトリジルハイドロキシラーゼ、リジルオキシダーゼのcDNA probe を、ヒト線維芽細胞のtotal RNAをtemplateして、RT-PCR法にて調製した。
3) 老若それぞれの細胞群を a) beta-aminopropionitrile b) 2,2'-dipyridyl で処理し、これらの処理を施した細胞でのmRNAの発現量を調べた。
4) 各細胞群にリジルハイドロキシラーゼ、リジルオキシダーゼの antisense-DNA を加え、各々の発現の阻害が細胞にどのような影響を与えるか検索した。
結果と考察
青斑核からの投射密度は、大脳皮質では加齢に伴い減少した。海馬歯状回では、15カ月齢までは減少したが、その後27カ月齢まで投射密度は維持された。一方、複数の逆向性スパイクを出すニューロンの出現頻度は、大脳皮質では15カ月齢と17カ月齢の間で顕著に増加し、24カ月齢でピークが見られた。海馬歯状回では15カ月齢以降24カ月齢にかけて徐々に増加した。複数の逆向性スパイクを出すニューロンの出現頻度はいずれの部位でも27カ月齢で減少した。ノルアドレナリン線維の varicosity 密度は、大脳皮質では加齢変化に対応した減少が見られた。それに対して海馬歯状回では、多形細胞層では19カ月齢で急激な減少が見られたのに対して、神経線維層および顆粒細胞層では7カ月齢から27カ月齢にかけて徐々に減少し、層特異的な変化が見られた。
老化した細胞ではすでに定常的状態での発現量が両酵素とも若い細胞よりも高いことが判明した。リジルハイドロキシラーゼ活性を2,2'-dipyridyl で阻害すると発現量は上昇したが、上昇の程度は若い細胞の方が著しかった。同様にリジルオキシダーゼについてはbeta-aminopro pionitrile (BAPN)、2,2'-dipyridyl (dP) により活性を阻害したところ BAPN では若い細胞、老化細胞でともに発現低下、dP では発現上昇したが細胞の発現量の変化は両細胞でほぼ等しかった。尚、抗体作製を試みたが免疫沈降法に使用できるものは得られなかった。また antisense-DNA を用いた発現阻害実験でも有意な結果は得られなかった。
青斑核から大脳皮質および海馬歯状回への投射が加齢に伴い減少すると同時に終末部位での分岐・発芽がおこっていることが示唆された。この加齢変化の機序は不明であるが、この変化の時間経過が部位および層で異なることから、投射部位に特異的に存在する神経栄養因子などが関与する可能性がある。また青斑核にはグルココルチコイド受容体が高密度に存在すること、ストレス負荷により青斑核ニューロン終末部位での分岐・発芽が起こることから、今後は青斑核投射の加齢変化とストレス受容に共通の機序が存在する可能性について検討する。
老化による線維芽細胞の機能の変化はコラーゲン合成系に限っても強く現われるものから比較的軽微なものまで一様ではなかった。今後は、1) 細胞老化の過程では脱落する細胞が存在すると見込まれるが、この脱落が細胞集団としての機能変化にどのように寄与しているかを解明する、2) 三次元培養のようなより複雑な系を老若の細胞で構築したときの差がどのような機能変化に基づくかを検索する、3) 細胞老化における変化は基本的には遺伝子の異常によるという仮定し、各遺伝子の変化の方面から追及する等の方法が考えられる。
結論
大脳皮質および海馬歯状回では青斑核からのノルアドレナリン投射が加齢に伴って減少するものの、その線維終末部位では分岐・発芽がおこっていることが明らかになった。この可塑的変化は、加齢に伴うノルアドレナリン投射の減少を補償していると結論された。
老化による線維芽細胞の機能の変化はコラーゲン合成系に限っても強く現われるものから比較的軽微なものまであり、決して一様ではないと結論された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-