慢性活動性EBウイルス感染症の発症機構解明と新規治療法開発に関する研究

文献情報

文献番号
201324084A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性活動性EBウイルス感染症の発症機構解明と新規治療法開発に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-046
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 成悦(独立行政法人国立成育医療研究センター 母児感染研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森尾友宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 清水則夫(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 新井文子(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 木村宏(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 児玉栄一(東北大学大学院宮城地域医療)
  • 今留謙一(独立行政法人国立成育医療研究センター 母児感染研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性活動性EBウイルス(EBV)感染症(CAEBV)はEBV感染T或いはNK細胞の増殖を病態の特徴とし、遷延するあるいは再発を繰り返す伝染性単核症様症状を呈する。現在のところ造血幹細胞移植以外に根治的治療法はない。患者の免疫能の詳細な解析結果や分類不能型免疫不全症との合併例の存在から、CAEBV発症の背景には遺伝子の異常に基づく微細な免疫不全が存在すると推測されている。本研究ではCAEBVの発症機構解明と新規治療法の確立を最終目標とし、エクソーム解析による原因遺伝子探索、EBV感染T細胞・NK細胞の増殖メカニズム解析を通じた新規治療標的分子の探索など多角的な研究を進めた。
研究方法
1. CAEBV発症の背景となる遺伝子の探索
 患者および両親の唾液よりDNAを抽出し、次世代シークエンサーによる全エクソン配列決定を行った。
2. EBVによる遺伝子発現変化の解析
 CAEBV患者末梢血リンパ球、患者由来EBV感染細胞株、およびin vitroでEBVを感染させたヒトT細胞株を用いて、RT-PCR法などにより解析した。
3. 新しいタイプのEBV関連T/NKリンパ増殖性疾患モデルマウスの作成
 EBV感染NK細胞株SNK6を免疫不全マウス(NOGマウス)に移植して作製した。
結果と考察
1. CAEBV患者および両親のエクソーム解析
 患者2名およびその家族1名、計3名のエクソーム解析を終了した。2名の患者に共通の変異は認められなかったが、それぞれの患者から免疫関連遺伝子のvariationが見つかった。その後新たに9名の患者とその家族15名、合計24名より唾液DNAを採取し、現在解析を行っている。
2. 免疫不全症に合併する慢性EBV感染症の遺伝子解析
 IgG2サブクラス欠損症で、EBV陽性のリンパ節腫大をともなう患者について候補遺伝子解析を行ったところ、PIK3CD遺伝子のE1021K変異が証明され、いわゆるactivated PIK3CD syndromeであることが判明した。
3. 新しいタイプのEBV関連T/NKリンパ増殖性疾患モデルマウスの作成
 節外性NK/T細胞性リンパ腫由来のNK細胞株SNK6は皮下接種により生着し、腫瘍を形成した。腫瘍は血行性、リンパ行性にリンパ節・脾臓・腎臓および肝臓に転移した。
4. EBVによるT細胞・NK細胞遺伝子発現の変化
 EBV感染によりactivation-induced cytidine deaminase (AID)の発現が誘導され、c-Myc遺伝子に変異が誘発された。EBV感染細胞には制御性T細胞マーカーFoxP3が発現され、制御性T細胞様の機能を有することが示唆された。
5. CAEBV治療薬候補の検討
HSP90阻害薬の17AAGとradicicolや脂質合成阻害薬symvastatinのEBV感染T/NK細胞に対する増殖抑制効果が明らかにされた。また、EBVがコードするチミジンキナーゼによりリン酸化されて細胞毒性を獲得するS-FMAUのEBV感染T/NK細胞に対する増殖抑制効果がモデルマウスで認められた。
結論
①CAEBV患者2名およびその家族1名、計3名でエクソーム解析を終了した。検出された免疫関連遺伝子のvariationについて、さらに多くの患者DNAを用いて解析を続けている。②EBV陽性のBリンパ球増殖を示すIgG2サブクラス欠損症の患者でPIK3CD遺伝子のE1021K変異が証明され、activated PIK3CD syndromeであることが判明した。③EBV陽性NK細胞株SNK6をNOGマウスに移植し新しいEBV関連T/NKリンパ増殖性疾患モデルマウスを確立した。④CAEBV患者のEBV感染T/NK細胞では制御性T細胞のマーカーであるFOXP3が発現され、この細胞と共培養するとレスポンダーT細胞が減少した。④T細胞にEBVが感染するとAID遺伝子の発現が誘導され、c-Myc遺伝子に変異が導入されることが分かった。④分子シャペロンの1つHSP90を阻害する17AAGおよびradicicolがin vitroとin vivoの両者においてEBV感染T/NK細胞株の増殖を抑制することが示された。⑤脂質合成阻害薬symvastatinはEBV感染T/NK細胞の増殖をin vitroおよびモデルマウスの両方で阻害することが示された。⑥CAEBV治療薬候補S-FMAUをモデルマウスで評価したところ、末梢血および臓器中EBV DNA量の低下、体重減少の阻止などの効果が認められた。⑦CAEBV診断の必須ステップであるリアルタイムPCR法を簡便・迅速化するために固相化試薬キットを試作し良好な結果を得た。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324084B
報告書区分
総合
研究課題名
慢性活動性EBウイルス感染症の発症機構解明と新規治療法開発に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-046
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 成悦(独立行政法人国立成育医療研究センター 母児感染研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森尾友宏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 清水則夫(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 新井文子(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 木村宏(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 児玉栄一(東北大学大学院宮城地域医療支援寄附講座)
  • 今留謙一(独立行政法人国立成育医療研究センター 母児感染研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性活動性EBウイルス(EBV)感染症(CAEBV)は遷延する伝染性単核症様症状と末梢血EBV DNA量の増加を特徴とする予後不良の疾患である。CAEBVの病因は不明であるが、背景に軽度の免疫不全が存在し、そのためにEBV感染TあるいはNK細胞が免疫監視機構から逃れて増殖すると推測されている。本研究では、この発症の背景となる免疫不全の原因となる遺伝子を同定し発症機構を明らかにすることを目標とする。また、EBV感染T細胞・NK細胞の増殖メカニズムを解析し治療の標的分子を同定すること、EBVがコードするmicroRNAのバイオマーカーとしての応用を検討すること、CAEBV治療薬候補をモデルマウスを用いて評価することなどを目的とする。 
研究方法
1. CAEBV背景遺伝子の探索
 患者およびその家族の唾液からDNAを精製し、次世代シークエンサーにより全エクソン配列を決定した。
2. CAEBV治療薬候補のスクリーニング
 EBVがコードするチミジンキナーゼ(EBV-TK)あるいは蛋白質フォスフォトランスフェラーゼ(EBV-PT)、あるいはヒトがコードするTKを発現する細胞株を作成し、EBV-TKあるいはEBV-PTを発現する細胞のみに毒性を示す薬物を候補物ライブラリから選択した。
3. 血漿中EBV microRNAのバイオマーカーとしての検討
 CAEBV患者および対照者(伝染性単核症患者と健常者)から血漿を採取し、12種類のEBV miRNAの量をリアルタイムPCR法により測定した。
4. 新しいタイプのEBV関連T/NKリンパ増殖性疾患モデルマウスの作成
 節外性NK/Tリンパ腫由来のEBV陽性NK細胞株SNK6を、NOGマウスの皮下に接種して作製した。
結果と考察
1. CAEBV背景遺伝子の探索
CAEBV患者2名、家族1名のエクソーム解析が終了した。1名の患者で見つかったhomozygous variantについてさらに多くの患者で検討している。また、IgG2サブクラス欠損症でEBV陽性のリンパ節腫大を呈する患者で候補遺伝子解析を行ったところ、PIK3CD遺伝子のE1021K変異が証明され、いわゆるactivated PIK3CD syndromeであることが判明した。
2. CAEBV患者における血漿中EBV miRNAの特徴
 伝染性単核症患者ではmiR-BHRF1-1とmiR-BHRF1-2が有意に高発現していた。CAEBV患者ではmiR-BART2-5pと miR-BART5が有意に高発現していた。
3. 新しいタイプのEBV関連T/NKリンパ増殖性疾患モデルマウス
 SNK6は皮下接種により生着し腫瘍を形成した。また血行性、リンパ行性に遠隔臓器に転移した。
4. EBV感染T細胞・NK細胞の増殖機構解析
 EBV感染による転写因子NF-kappaBの活性化、activation induced cytidine deaminase (AID)発現の誘導、EBV miRNAの一つmiR-BART9の発現が、感染細胞の増殖誘発や悪性化に関わることが示唆された。
5. 新規CAEBV治療薬候補の検討
 HSP阻害薬の17AAGとradicicolやEBVがコードするTKによりリン酸化されて細胞毒性を獲得する新規ヌクレオシドS-FMAUが、EBV感染T/NK細胞に対して増殖抑制効果をもつことがin vitroおよびin vivo(モデルマウス)において示された。
結論
CAEBV患者2名およびその家族1名のエクソーム解析が終了し、複数の免疫関連遺伝子においてvariationが見つかった。EBV陽性のBリンパ球増殖を示すIgG2サブクラス欠損症の患者でPIK3CD遺伝子のE1021K変異が証明された。CAEBV患者血漿中ではEBVがコードするmicroRNAであるmiR-BART2-5pと miR-BART5が増加しており、バイオマーカーとしての応用の可能性が考えられる。EBV感染T/NK細胞の増殖において、NF-κB, AID, EBV miR-BART9などが重要な役割を果たすことが示された。HSP90阻害薬の17AAGとradicicol 、HMG-CoA還元酵素阻害剤Simvastatin、核酸誘導体S-FMAU、NF-κB阻害剤bortezomibなどはEBV感染T/NK細胞の増殖を阻害することから、CAEBV治療薬候補として有望であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324084C

成果

専門的・学術的観点からの成果
CAEBV患者2名のエクソーム解析を終了し、原因遺伝子候補の絞り込みを行っている。EBV陽性Bリンパ球増殖を示すIgG2欠損症の患者でPIK3CD遺伝子のE1021K変異が証明された。EBV miR-BART2-5pがCAEBVの血中バイオマーカーとなる可能性が示された。AID及びEBV miR-BART9がEBV感染T/NK細胞の増殖に重要な役割を果たすことが示された。17AAG、Simvastatin、S-FMAU、bortezomibなどの薬物はEBV感染T/NK細胞の増殖を抑制した。
臨床的観点からの成果
造血幹細胞移植を受けたCAEBVの7症例を後方視的に検証したところ、移植時に病勢が活動性であった5例は全例死亡し、非活動性であった2例は生存していることから、移植時の病勢が移植の成績に大きく影響すると考えられた。EBVがコードするmicroRNAであるmiR-BART2-5pと miR-BART5は、CAEBVのバイオマーカーとして、その診断や病勢判定に有用である可能性が示された。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
CAEBV患者会SHAKEと連携し、リアルタイムPCR法によるEBV DNA定量検査の保険収載の必要性について情報提供を行った。
その他のインパクト
平成24年10月20日と平成25年11月17日の2回にわたり、CAEBV患者会との交流会を開催し、最新の研究成果などの情報提供を行った。また患者会メンバーからは、CAEBV診療に関する患者の視点から見た問題点の指摘を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Arai A, Nogami A, Imadome K et al.
Sequential monitoring of serum IL-6, TNF-α, and IFN-γ levels in a CAEBV patient treated by plasma exchange and immunochemotherapy.
Int J Hematol , 96 (5) , 669-673  (2012)
原著論文2
Fujiwara S, Matsuda G, and Imadome K.
Humanized mouse models of Epstein-Barr virus infection and associated diseases.
pathogens , 2 , 153-176  (2013)
原著論文3
Fujiwara S.
Reproduction of Epstein-Barr virus infection and pathogenesis in humanized mice.
Immune Network , 14 , 1-6  (2013)
原著論文4
Fujiwara S, Kimura H, Imadome K et al.
Current research on chronic active Epstein-Barr virus infection in Japan. Pediatrics International
Pediatrics International , 56 , 159-166  (2014)
原著論文5
Siddiquey M, Nakagawa H, Iwata S et al.
Anti-tumor effects of suberoylanilide hydroxamic acid on Epstein–Barr virus-associated T cell and natural killer cell lymphoma
Cancer Sci , 105 , 713-722  (2014)
原著論文6
Yoshimori M, Takada H, Imadome K et al.
P-glycoprotein is expressed and causes resistance to chemotherapy in EBV-positive T-cell lymphoproliferative diseases
Cancer Med , 4 (10) , 1494-1504  (2015)
原著論文7
Fujiwara S.
Modeling EBV infection and pathogenesis in new-generation humanized mice
Exp Mol Med , 47 , e135-e135  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201324084Z