文献情報
文献番号
201324083A
報告書区分
総括
研究課題名
シトリン欠損症患者における臨床像の多様性の解明と致死的脳症の発症予防法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-難治等(難)-一般-045
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
池田 修一(国立大学法人信州大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 呉 繁夫(国立大学法人東北大学大学院医学研究科)
- 栗山 進一(国立大学法人東北大学災害科学国際研究所)
- 早坂 清(国立大学法人 山形大学医学部)
- 小松 通治(国立大学法人 信州大学医学部)
- 長船 健二(国立大学法人 京都大学iPS細胞研究所)
- 佐伯 武頼(国立大学法人 熊本大学生命資源研究)
- 乾 明夫(国立大学法人 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1
シトリン欠損症は、小児期に新生児肝炎(NICCD)を引き起こし、その後、一見健康な状態期を経て、致死性脳症である成人型シトルリン血症(CTLN2)を引き起こす常染色体劣性遺伝病である。従来NICCD、CTLN2の病像については明らかされてきたが、両疾患を繋ぐ期間(無-脳症期)の病態については不明な点が多い。最近、無-脳症期にも思春期食思不振症、成長障害、若年性膵炎、脂肪肝炎など、多彩な臨床像を呈することが明らかにされている。また、学校給食による偏食の矯正や飲酒の強要がCTLN2の発症誘因となった患者もおり、無-脳症期患者の正確な診断、生活指導・適切な治療がCTLN2発症予防に繋がる可能性がある。一方、70歳代発症のCTLN2患者も確認されており、高齢発症患者の詳細な病態把握により、CTLN2の発症抑制因子を明らかにできると考えられる。本研究の目的は、無-脳症期の臨床像の多様性を検索することで疾患の全容解明を行い、CTLN2の発症機序の解明と予防法を確立する。
シトリン欠損症は、小児期に新生児肝炎(NICCD)を引き起こし、その後、一見健康な状態期を経て、致死性脳症である成人型シトルリン血症(CTLN2)を引き起こす常染色体劣性遺伝病である。従来NICCD、CTLN2の病像については明らかされてきたが、両疾患を繋ぐ期間(無-脳症期)の病態については不明な点が多い。最近、無-脳症期にも思春期食思不振症、成長障害、若年性膵炎、脂肪肝炎など、多彩な臨床像を呈することが明らかにされている。また、学校給食による偏食の矯正や飲酒の強要がCTLN2の発症誘因となった患者もおり、無-脳症期患者の正確な診断、生活指導・適切な治療がCTLN2発症予防に繋がる可能性がある。一方、70歳代発症のCTLN2患者も確認されており、高齢発症患者の詳細な病態把握により、CTLN2の発症抑制因子を明らかにできると考えられる。本研究の目的は、無-脳症期の臨床像の多様性を検索することで疾患の全容解明を行い、CTLN2の発症機序の解明と予防法を確立する。
研究方法
2
以下の項目について研究を行った。
1)シトリン欠損症患者の臨床像の多様性の検討 2)シトリン欠損症患者の診断法の確立
i)高頻度変異スクリーニングの有効性について ii)学童期シトリン欠損症患者の食嗜好アンケートを用いたスクリーニング法の確立 3) シトリン欠損症の治療戦略の確立
i)中鎖脂肪酸(MCT)療法 ii)低炭水化物食と経口ピルビン酸投与の有効性の確立 iii)脂肪肝炎発症機構の解明 iiii)疾患修飾遺伝子の解明 4) 疾患モデルの確立とCTLN2発症機構の解明
i)シトリン欠損マウスを用いた糖質忌避の機構解析 ii)モデルマウスを用いる新化学診断法 iii)シトリン欠損症iPS細胞の樹立
以下の項目について研究を行った。
1)シトリン欠損症患者の臨床像の多様性の検討 2)シトリン欠損症患者の診断法の確立
i)高頻度変異スクリーニングの有効性について ii)学童期シトリン欠損症患者の食嗜好アンケートを用いたスクリーニング法の確立 3) シトリン欠損症の治療戦略の確立
i)中鎖脂肪酸(MCT)療法 ii)低炭水化物食と経口ピルビン酸投与の有効性の確立 iii)脂肪肝炎発症機構の解明 iiii)疾患修飾遺伝子の解明 4) 疾患モデルの確立とCTLN2発症機構の解明
i)シトリン欠損マウスを用いた糖質忌避の機構解析 ii)モデルマウスを用いる新化学診断法 iii)シトリン欠損症iPS細胞の樹立
結果と考察
3
これまで報告された臨床型に加えて、慢性腎不全、消化管内分泌腫瘍などの合併例が存在することが明らかになった。SLC25A13遺伝子における11種類の高頻度遺伝子変異のスクリーニングを169症例で行い、80例に少なくとも1個の遺伝子変異を検出した。そのうち、67例(84%)では高頻度変異を2個認め、13例(16%)では1個の高頻度変異を認めた。この13例においてSLC25A13遺伝子の全エクソン・シークエンスを実施し、9例(69%)で2つ目の遺伝子変異を同定できた。治療に関しては、低炭水化物食による食事療法とピルビン酸ナトリウムの有効性について、15名の患者の治療経験を報告し、10名(67%)で脳症発作の軽減・消失を観察しえた。またCTLN2患者6名に対し、中鎖脂肪酸(MCT)を投与し、その有効性を明らかにした。脂肪肝の成因に関しては、CTLN2患者の肝組織について、脂肪酸取り込み・脂肪酸輸送・分解・分泌をコントロールするPPAR-αのmRNAレベルについて検索し、患者では有意に発現が低下していることを明らかにした。モデルマウスの糖質忌避に関しては、ショ糖摂取忌避を来す条件下では、細胞質NADH蓄積を示すglycerol 3-phosphateの上昇とATPの低下が同時に見られること、一方のみの異常では忌避が起こらないことを確認した。またモデルマウスにおいて尿中グリセロール値が上昇していることを見出し、新規疾患マーカーの候補として検索をすすめている。食嗜好調査によるスクリーニング法の開発では、小児用食事摂取調査票による学童期シトリン欠損症患者スクリーニング法を開発し、現在調査施行準備中である。iPS細胞に関しては、患者3名の皮膚線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、肝細胞への分化誘導を行った。
これまで報告された臨床型に加えて、慢性腎不全、消化管内分泌腫瘍などの合併例が存在することが明らかになった。SLC25A13遺伝子における11種類の高頻度遺伝子変異のスクリーニングを169症例で行い、80例に少なくとも1個の遺伝子変異を検出した。そのうち、67例(84%)では高頻度変異を2個認め、13例(16%)では1個の高頻度変異を認めた。この13例においてSLC25A13遺伝子の全エクソン・シークエンスを実施し、9例(69%)で2つ目の遺伝子変異を同定できた。治療に関しては、低炭水化物食による食事療法とピルビン酸ナトリウムの有効性について、15名の患者の治療経験を報告し、10名(67%)で脳症発作の軽減・消失を観察しえた。またCTLN2患者6名に対し、中鎖脂肪酸(MCT)を投与し、その有効性を明らかにした。脂肪肝の成因に関しては、CTLN2患者の肝組織について、脂肪酸取り込み・脂肪酸輸送・分解・分泌をコントロールするPPAR-αのmRNAレベルについて検索し、患者では有意に発現が低下していることを明らかにした。モデルマウスの糖質忌避に関しては、ショ糖摂取忌避を来す条件下では、細胞質NADH蓄積を示すglycerol 3-phosphateの上昇とATPの低下が同時に見られること、一方のみの異常では忌避が起こらないことを確認した。またモデルマウスにおいて尿中グリセロール値が上昇していることを見出し、新規疾患マーカーの候補として検索をすすめている。食嗜好調査によるスクリーニング法の開発では、小児用食事摂取調査票による学童期シトリン欠損症患者スクリーニング法を開発し、現在調査施行準備中である。iPS細胞に関しては、患者3名の皮膚線維芽細胞からiPS細胞を樹立し、肝細胞への分化誘導を行った。
結論
4
本症の臨床像は多様性に富んでおり、脳症発症以前に、肝炎、膵炎、脂肪肝、肝臓癌、神経性食思不振症を併発する。
本症患者のほとんどが罹患する脂肪肝については、肝細胞のPPAR-α;低下により、脂肪酸分解能の低下が関与していることが明らかにされ、今後の新たな治療法開発の基礎となるものと考えられる。
簡便な高頻度変異検出による遺伝子解析法では、少なくとも一個の高頻度変異を認めた患児の大部分は、シトリン欠損症と考えられた。また今後、食嗜好アンケート調査の有効性や、血・尿中グリセロール測定が診断マーカーとしての有効性が示せれば、高頻度変異検出法とあわせて、特に学童期のCTLN2発症前(無-脳症期)のシトリン欠損症患者の更なる発見につながり、食事指導や発症誘因因子の指導などでCTLN2発症を予防しうる可能性が期待できる。またiPS細胞の樹立は、今後細胞レベルでの、病態の解明、CTLN2の発症機序・発症予防因子の解明につながるものと期待される。
本症の臨床像は多様性に富んでおり、脳症発症以前に、肝炎、膵炎、脂肪肝、肝臓癌、神経性食思不振症を併発する。
本症患者のほとんどが罹患する脂肪肝については、肝細胞のPPAR-α;低下により、脂肪酸分解能の低下が関与していることが明らかにされ、今後の新たな治療法開発の基礎となるものと考えられる。
簡便な高頻度変異検出による遺伝子解析法では、少なくとも一個の高頻度変異を認めた患児の大部分は、シトリン欠損症と考えられた。また今後、食嗜好アンケート調査の有効性や、血・尿中グリセロール測定が診断マーカーとしての有効性が示せれば、高頻度変異検出法とあわせて、特に学童期のCTLN2発症前(無-脳症期)のシトリン欠損症患者の更なる発見につながり、食事指導や発症誘因因子の指導などでCTLN2発症を予防しうる可能性が期待できる。またiPS細胞の樹立は、今後細胞レベルでの、病態の解明、CTLN2の発症機序・発症予防因子の解明につながるものと期待される。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
-