重症骨系統疾患の予後改善に向けての集学的研究

文献情報

文献番号
201324078A
報告書区分
総括
研究課題名
重症骨系統疾患の予後改善に向けての集学的研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-040
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大薗 惠一(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 友彦(長野県立こども病院)
  • 橋本 淳(国立病院機構大阪南医療センター)
  • 藤原 幾磨(東北大学大学院医学系研究科)
  • 道上 敏美(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター研究所)
  • 八十田 明宏(京都大学)
  • 仲野 和彦(大阪大学大学院歯学研究科)
  • 長谷川 高誠(岡山大学病院)
  • 澤井 英明(兵庫医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
38,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症骨系統疾患の予後改善を目的として、新生児科、小児科、整形外科、歯科、内科、産科などの立場から、臨床研究、遺伝子解析、細胞培養系やモデル動物などの多面的アプローチにより集学的に研究を行う。骨系統疾患は、骨/関節のみならず全身的な症状を呈するが、重症型では呼吸機能が不十分で人工呼吸管理を要する。呼吸管理法が進歩し、原病に対する治療、酵素補充療法など新規治療法が開発されてきたので、重症骨系統疾患をとりまく環境は大きく変化している。本研究では、まず、複数の重症骨系統疾患を対象とし、呼吸管理を行っているかどうかを含め、診療の実態について調査研究を行う。また、正確な診断のために、多数の遺伝子について変異解析を行う。骨系統疾患に伴う乳歯脱落、歯牙欠損などを対象に実態調査を行い、歯科的問題の実態を明らかにする。研究者および患者会のネットワークづくりのため、骨系統疾患解説のホームページ(HP)を作成し、最新の情報を提供するとともに、患者会のHPとリンクさせる。アンケート調査などを踏まえて、各疾患個別の診断と管理のガイドラインを作成し、HPに掲載する。HP上に診断の相談窓口を開設し、責任遺伝子について変異解析を行う。また、新たな治療法の開発のため、モデル動物を用いて、疾患特定的iPSを用いた病態解析、CNP(C型Na利尿ペプチド)治療効果の検討および、CNP/NPR-B系異常症の表現型の詳細な解析を行う。
研究方法
本研究の初年度に行ったアンケート調査において、骨系統疾患診療の実態が明らかとなったので、その成果を踏まえ、本年度は、重症骨系統疾患に関する二次調査を実施した。iPS細胞の段階でのALP活性について健常人由来のものと、低ホスファターゼ症患者由来のもの(HPP-H)とで比較を行う。ゼラチンで処理し、MEFを播種したplateにそれぞれのiPS細胞を播種し、7日間培養を行った。その後、ALP染色およびALP活性を測定した。本症のモデルマウスを使って、TNSALP遺伝子治療の効果を歯科的に観察した。対象骨系統疾患に対し、サンガー法により、遺伝子変異の有無を検討した。新たな自然発症CNP/NPR-B系活性低下モデルとしてのlbab/lbabについて、マウスの全長や軟X線写真による各骨長の測定、成長板の組織学的解析をおこなった。
結果と考察
低フォスファターゼ症30例程度が把握され、その病型が判明した。本症の疾患特異的iPSの作製および他施設から入手しALP活性の検討を行った。ALP染色では、健常人由来iPS細胞では染色が認められたのに対し、低フォスファターゼ症患者由来iPS細胞では染色が全く認められなかった。歯科的な問題のある例は23例であった。低フォスファターゼ症モデルマウスに対して遺伝子治療の歯科的効果を認めた。53例の低フォスファターゼ症について、遺伝子型を検討したところ、c.1559delT変異が106アレル中43アレル(41%)にのぼった。第1例目のNPR-Bの機能獲得型異常症家系(日本人家系)は英文原著の形で報告した。これに引き続き2つ目の機能獲得型変異を同定した。呼吸管理を要した重症骨系統疾患のうち、14例は生存退院できていた。19家系の骨形成不全症のうち、74%でI型コラーゲンの異常を認めた。TD児のうち、のべ20名が積極的な延命治療を受けている一方、78名は妊娠中絶もしくは看取りの医療が行われていた。10例の重症大理石骨病のうち、5例は生存していた。FGFR3関連疾患は55例把握された。lbab/lbabの吻臀長は野生型と比較して10週齢で短縮した。胎児骨系統疾患を妊娠中から適正に診断して、その後の妊娠管理や分娩形式の決定に役立てるという目標が相当部分実現してきたと思われる。
結論
低フォスファターゼ症の診療経験に関する二次調査を行い、小児科研修施設では、病型の把握を行なった。呼吸管理14例、生存23例、遺伝子診断17例、出生前診断6例、および、25施設が酵素補充療法の治験が始まっていることを知っていたという結果が得られた。低フォスファターゼ症由来iPS細胞においてもALP活性が低いことを確認した。NPR-Bの機能獲得型変異に伴う高身長を新たな疾患単位として確立した。骨形成不全症の遺伝子解析にて、74%に1型コラーゲン遺伝子の変異を認めた。タナトフォリック児のうち、のべ20名が積極的な延命治療を受けている一方、78名は妊娠中絶もしくは看取りの医療が行われていた。CLCN7変異に基づく遅発型大理石骨病II型においてもQOLに影響を及ぼす合併症を有する症例が存在することが明らかとなった。機能低下型の自然発症CNP遺伝子変異マウスおよび軟骨特異的CNPノックアウトマウスを用いてCNPの骨伸長に対する生理的作用を解析した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324078B
報告書区分
総合
研究課題名
重症骨系統疾患の予後改善に向けての集学的研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-040
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大薗 惠一(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 友彦(長野県立こども病院)
  • 橋本 淳(国立病院機構大阪南医療センター)
  • 藤原 幾磨(東北大学大学院医学系研究科)
  • 道上 敏美(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター研究所)
  • 八十田 明宏(京都大学)
  • 仲野 和彦(大阪大学大学院歯学研究科)
  • 長谷川 高誠(岡山大学病院)
  • 澤井 英明(兵庫医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨系統疾患は、骨/関節のみならず全身的な症状を呈するが、重症型では呼吸機能が不十分で人工呼吸管理を要する。従来、この重症型を致死型と称して人工流産の対象としていた。しかし、新生児医療の発達により呼吸管理法が進歩し、原病に対する治療、酵素補充療法など新規治療法が開発されてきたので、重症骨系統疾患をとりまく環境は大きく変化している。本研究では、まず、複数の重症骨系統疾患を対象とし、呼吸管理を行っているかどうかを含め、診療の実態について調査研究を行う。また、正確な診断のために、多数の遺伝子について変異解析を行う。骨系統疾患に伴う乳歯脱落、歯牙欠損などを対象に実態調査を行い、歯科的問題の実態を明らかにする。骨系統疾患に対して骨髄移植を行った症例の把握は、移植登録一元管理プログラムを通じて行う。研究者および患者会のネットワークづくりのため、骨系統疾患解説のホームページ(HP)を作成し、最新の情報を提供するとともに、患者会のHPとリンクさせる。アンケート調査などを踏まえて、各疾患個別の診断と管理のガイドラインを作成し、HPに掲載する。また、新たな治療法の開発のため、モデル動物を用いて、CNP(C型Na利尿ペプチド)治療効果の検討や、CNP/NPR-B系異常症の表現型の詳細な解析を行う。
研究方法
全国の主要施設に対し、骨系統疾患の診療実態に関してアンケート調査を行った。送付施設は、日本小児科学会専門医の在籍施設(合計521施設)、産科婦人科学会認定施設(合計707施設)、全国総合周産期母子医療センター(89施設)、全国の小児歯科関連施設、口腔外科関連施設および小児病院内の歯科(合計446施設)、日本整形外科学会骨系統疾患全国登録施設(146施設)である。TNSALP遺伝子をレンチウイルスベクターで導入した骨髄細胞を生後2日齢のノックアウトマウスに移植し、3か月生存したマウスの下顎骨を摘出後、パラフィン切片を作製し、オステオポンチン抗体の免疫組織化学染色を行い観察した。対象骨系統疾患に対し、サンガー法により、遺伝子変異の有無を検討した。新たな自然発症CNP/NPR-B系活性低下モデルとしてのlbab/lbabについて、マウスの全長や軟X線写真による各骨長の測定、成長板の組織学的解析をおこなった。
結果と考察
低フォスファターゼ症の呼吸管理例28例が把握された。本症の疾患特異的iPSの作製を試みている。歯科的な問題のある例は23例であった。低フォスファターゼ症モデルマウスに対して遺伝子治療の歯科的効果を認めた。53例の低フォスファターゼ症について、遺伝子型を検討したところ、活性を完全に喪失しているc.1559delT変異が106アレル中43アレル(41%)にのぼった。第1例目のNPR-Bの機能獲得型異常症家系(日本人家系)は英文原著の形で報告した。これに引き続き2つ目の機能獲得型変異を同定した。呼吸管理を要した重症骨系統疾患のうち、14例は生存退院できていた。19家系の骨形成不全症のうち、74%でI型コラーゲンの異常を認めた。10例の重症大理石骨病のうち、5例は生存していた。骨髄移植を行なった例は8例であった。FGFR3関連疾患は55例把握された。lbab/lbabの吻臀長は野生型と比較して10週齢で野生型の60~70%となった。
結論
アンケートによる実態調査を行い、28例の低フォスファターゼ症が把握された。遺伝子検査の依頼は1年間で9例であった。低フォスファターゼ症罹患患児における小児義歯の装着は、審美性、発音機能および咀嚼機能の回復だけではなく、咬合力負担を分散させることによって残存歯の早期脱落を予防する可能性が示唆された。酵素補充療法国際共同治験が開始され、その導入に関わった。疾患特異的iPS細胞の作製の準備を整えた。呼吸管理を必要とする重症骨系統疾患児の生命・生活予後が改善してきていることが判明した。NPR-Bの機能獲得型変異に伴う高身長を新たな疾患単位として確立した。骨形成不全症の遺伝子解析にて、74%に1型コラーゲン遺伝子(Col1A1、Col1A2のいずれか)の変異を認めた。パミドロネートによる治療効果と、病型、変異遺伝子、遺伝子型との間には、有意差は認めなかった。致死性骨異形成症は適切な医療的介入がなされれば生存することが出来る疾患であり、日本整形外科学会と協力して、タナとフォッリク骨異形成症と病名を改めた。CLCN7変異に基づく遅発型大理石骨病II型においてもQOLに影響を及ぼす合併症を有する症例が存在することが明らかとなった。機能低下型の自然発症CNP遺伝子変異マウスおよび軟骨特異的CNPノックアウトマウスを用いてCNPの骨伸長に対する生理的作用を解析した。過剰運動症候群、骨パジェット病が少数例ながら把握された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324078C

成果

専門的・学術的観点からの成果
CNPに対する受容体NPR-Bの機能獲得型変異を有する家系を見いだし、過成長による高身長を呈する事を世界で初めて報告した。さらに異なるNPR-B変異を有する2例目の高身長家系を見いだし、新たな疾患単位として確立した。
本研究での遺伝子診断や治療管理の経験を活かし、低フォスファターゼ症に対する酵素補充療法の治験に関わった。
低フォスファターゼ症患者由来のiPS細胞においては、ALPが正常対象iPS細胞に比し、低いことを見いだした。
臨床的観点からの成果
作成したホームページは引き続き運営し、診断の手引き、遺伝子診断の依頼などができるようにしている。本班研究の対象疾患すべてについて診断指針を掲示し、意見を募っている。低フォスファターゼ症については、作成した診断ガイドラインを中心として、アンケート結果の内容などを総説として論文とし、日本小児科学会の機関誌であるPediatric Internationalに投稿した。日本整形外科学会と共同して、致死性骨異形成症をタナトフォリック骨異形成症に病名変更した。
ガイドライン等の開発
低フォスファターゼ症、重症骨形成不全症、大理石骨病、マラトー型遠位中間肢異形成症、軟骨異栄養症、タナトフォリック骨異形成症、遺伝性多発性外骨腫、過剰運動症候群、骨パジェット病について診断指針を作成し、重症骨系統疾患の予後改善に向けての集学的研究のホームページ上で公開し、意見を求めている。特に意見はなく、そのまま確定している。
その他行政的観点からの成果
確定診断のため、多数の骨系統疾患の遺伝子診断を行なった。小児科、新生児科、産科、整形外科、歯科、内科そのぞれの領域で、診断および治療方針に関し、本班研究の成果にもとづき提言している。骨形成不全症、軟骨無形成症の指定難病への追加のための診断基準を作成し、臨床調査個人票の作成を行った。
その他のインパクト
第6回胎児骨系統疾患フォーラムを開催し、低フォスファターゼ症を取り巻く現状と展望 について情報を提供した。また、タナトフォリック骨異形成症と呼吸不全性胸郭異形成症への病名変更についての周知徹底を行なった。
日本小児科学会や日本骨代謝学会など多数の学会、研究会で骨系統疾患をとりまく医学的変化に関する講演を行い、より適切な診断治療を呼びかけた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kubota T, Kitaoka T, Ozono K,et al.
Serum fibroblast growth factor 23 is a useful maker to distinguish vitamin D-deficient rickets from hypophosphatemic rickets.
Horm Res Pediatr , 22 (1) , 9-14  (2013)
原著論文2
Miura K, Namba N, Fujiwara M, et al.
An overgrowth disorder associated with excessive production of cGMP due to a gain-of-function mutation of the natriuretic peptide receptor 2 gene.
PLoS One , 7 (8) , e42180-  (2012)
原著論文3
Miura K,Michigami T, Ozono K,et al.
Overgrowth syndrome associated with a gain-of-function mutation of the natriuretic peptide receptor 2 (NPR2) gene.
Am J Med Genet A , 164A (1) , 156-163  (2014)
原著論文4
Kondo E, Yasoda A, Tsuji T,et al.
Skeletal Analysis of the Long Bone Abnormality (lbab/lbab) Mouse, A Novel Chondrodysplastic C-Type Natriuretic Peptide Mutant.
Calcif Tissue Int. , 90 , 307-318  (2012)
原著論文5
Okawa R, Nakano K, Matsumoto M,et al.
Oral manifestations of patients with hypophosphatasia
Pediatric Dental Journal , 22 (2) , 155-162  (2012)
原著論文6
Wang W, Song MH, Miura K,et al.
Acromesomelic dysplasia, type Maroteaux caused by novel loss-of-function mutations of the NPR2 gene: Three case reports.
Am J Med Genet A , 170A (2) , 426-434  (2016)
原著論文7
Kitaoka T, Kubota T, Ozono Ket al.
Safety and efficacy of treatment with asfotase alfa in patients with hypophosphatasia: Results from a Japanese clinical trial.
Clin Endocrinol (Oxf) , 87 (1) , 10-19  (2017)
doi: 10.1111/cen.13343
原著論文8
Kishnani PS, Rush ET, Arundel P
Monitoring guidance for patients with hypophosphatasia trated with asfotase alfa.
Mol Genet Metab , 122 (1-2) , 4-17  (2017)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201324078Z