先天代謝異常症に対する移植療法の確立とガイドラインの作成に関する研究

文献情報

文献番号
201324052A
報告書区分
総括
研究課題名
先天代謝異常症に対する移植療法の確立とガイドラインの作成に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 俊一(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 足立 壮一(京都大学医学研究科)
  • 飯田 美奈子(愛知医科大学医学部)
  • 猪股 裕紀洋(熊本大学大学院)
  • 上本 伸二(京都大学医学研究科)
  • 遠藤 文夫(熊本大学大学院)
  • 奥山 虎之(国立成育医療研究センター)
  • 笠原 群生(国立成育医療研究センター)
  • 加藤 剛二(名古屋第一赤十字病院)
  • 小林 博司(東京慈恵会医科大学)
  • 酒井 規夫(大阪大学大学院)
  • 新開 真人(神奈川県立こども医療センター)
  • 田中 あけみ(大阪市立大学大学院)
  • 田渕 健(都立駒込病院)
  • 辻 省次(東京大学医学部)
  • 麦島 秀雄(日本大学医学部)
  • 八幡 崇(東海大学医学部)
  • 矢部 普正(東海大学医学部)
  • 渡邊 順子(久留米大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
50,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天代謝異常症の根本的な治療としては欠損している酵素の定期補充療法と造血細胞移植や臓器移植などの移植療法がある。本邦においては1983~2010年の期間に約220例の造血細胞移植、1990~2009年の期間に約180例の肝臓移植が実施されているが、疾患別の治療法や治療効果についての詳細な解析は十分には行われていない。本研究においてはわが国における先天代謝異常症に対する移植療法について全国的な規模による調査研究と多施設共同研究を行うことを目的とした。
研究方法
① 移植症例の詳細調査(後方視的研究)
② 造血細胞移植における移植方法の統一と前向き登録による臨床研究(前方視的研究)
③ 移植ネットワークの構築
④ 移植による治療効果の評価と評価医療機関のネットワーク構築
⑤ 関連学会や他の研究組織と共同で移植治療と評価方法に関するガイドライン作成
⑥ 新しい細胞治療法開発のための基礎研究(iPS細胞など)
⑦ 海外の移植情報の収集と国際共同研究への参加
結果と考察
① わが国における移植症例の詳細調査(後方視的研究、一次/二次調査
<造血細胞移植>日本造血細胞移植学会に登録された先天代謝異常症の移植症例249件のうち移植後1年以内死亡11例以外の238件について二次調査を行い、220例について詳細なデータを収集した。疾患別の症例数はムコ多糖症97例、副腎白質ジストロフィー84例、その他39例であった。220件は初回移植、22件が2回目の移植、2件が3回目の移植であった。
ドナー、移植細胞別にみると、91件が同胞間骨髄移植、80件が非血縁者間骨髄移植、66件が非血縁者間臍帯血移植、6件がその他であった。
初回移植時の年齢は0歳から34歳までに分布し、中央値が6歳であった。疾患別にみるとムコ多糖症における中央値が4歳、副腎白質ジストロフィーにおける中央値が9歳であった。
代表的な疾患における長期生存率(移植後15年)は、ムコ多糖症Ⅰ型で76.9%、ムコ多糖症Ⅱ型で80.6%、副腎白質ジストロフィーで78.7%、異染性ロイコジストロフィで39.0%であった。
ドナー別移植細胞別でみた長期生存率は同胞間骨髄移植で79.4%、非血縁者間骨髄移植で74.8%、非血縁者間臍帯血移植で68.9%であった。
<肝移植>日本肝移植研究会に登録された194例の先天代謝異常症移植例について詳細なデータを収集した。疾患別にみるとWilson病59例、尿素サイクル異常症49例、有機酸代謝異常症29例などであった。代謝性疾患に対する生体肝移植の累積生存率は10年で82.9%と安定した成績の治療手段であった。Wilson病・尿素サイクル異常症・有機酸代謝異常症の累積生存率は10年で87.8%、95.2%、85.0%、85.0%と比較的良好であったが、高シュウ酸尿症(Oxalosis)は累積生存率50%と不良であった。
② 先天代謝異常症に対する前方視的臨床研究
Treosulfanを用いた造血細胞移植の臨床研究を行った。
③ 移植ネットワークの基盤整備
 造血細胞移植と肝移植のそれぞれにおいて本研究班に参加した施設を中心としたネットワークの基盤が整備された。
④ 先天代謝異常の診断と治療効果評価のためのネットワークの基盤整備
 日本先天代謝異常学会との連携により、先天代謝異常症の診断と治療に関する専門医によるネットワークの基盤が整備された。
⑤ 関連学会や他の研究組織との共同による移植治療と評価方法に関するガイドライン作成
 診断と遺著区適応、移植方法、移植効果評価方法についてのガイドラインを作成した。造血細胞移植については日本造血細胞移植学会、肝移植については日本肝移植研究会に提案を行った。
⑥   新しい細胞治療法開発のための基礎研究
 「代謝異常マウスにおける移植モデルの作成」、「ヒト臍帯血の神経系細胞への分化と造血細胞移植による脳神経系障害修復に関するマウスモデルの作成」、「副腎白質ジストロフィー患者からのiPS細胞の作成」、「間葉系幹細胞の造血細胞移植への応用に関する開発」などの基礎研究が進められた。



結論
わが国における先天代謝異常症に対する造血細胞移植と肝移植の実施状況、治療効果などを関連する学会と協力して後方視的調査研究を行い、移植の詳細な実態と治療効果を明らかにし、先天代謝異常症に対する移植ガイドラインを作成した。
また、先天代謝異常症の診断、移植、移植後の評価に関する診療ネットワーク構築のための基盤を整備するとともに、前方視的臨床研究、新しい細胞治療法開発のための基礎研究などを行った。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324052B
報告書区分
総合
研究課題名
先天代謝異常症に対する移植療法の確立とガイドラインの作成に関する研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 俊一(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 足立 壮一(京都大学医学研究科)
  • 飯田 美奈子(愛知医科大学医学部)
  • 猪股 裕紀洋(熊本大学大学院)
  • 上本 伸二(京都大学医学研究科)
  • 遠藤 文夫(熊本大学大学院)
  • 奥山 虎之(国立成育医療研究センター)
  • 笠原 群生(国立成育医療研究センター)
  • 加藤 剛二(名古屋第一赤十字病院)
  • 小林 博司(東京慈恵会医科大学)
  • 酒井 規夫(大阪大学大学院)
  • 新開 真人(神奈川県立こども医療センター)
  • 田中 あけみ(大阪市立大学大学院)
  • 田渕 健(都立駒込病院)
  • 辻 省次(東京大学医学部)
  • 麦島 秀雄(日本大学医学部)
  • 八幡 崇(東海大学医学部)
  • 矢部 普正(東海大学医学部)
  • 渡邊 順子(久留米大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天代謝異常症の根本的な治療としては欠損している酵素の定期補充療法と造血細胞移植や臓器移植などの移植療法がある。わが国においては1983~2010年の期間に約220例の造血細胞移植、1990~2009年の期間に約180例の肝移植が実施されているが、疾患別の治療法や治療効果についての詳細な解析は十分には行われていない。本研究においてはわが国における先天代謝異常症に対する移植療法について全国的な規模による調査研究と多施設共同研究を行うことを目的とした。
研究方法
① 移植症例の詳細調査(後方視的研究)
② 造血細胞移植における移植方法の統一と前向き登録による臨床研究(前方視的研究)
③ 移植ネットワークの構築
④ 移植による治療効果の評価と評価医療機関のネットワーク構築
⑤ 関連学会や他の研究組織と共同で移植治療と評価方法に関するガイドライン作成
⑥ 新しい細胞治療法開発のための基礎研究(iPS細胞など)
⑦ 海外の移植情報の収集と国際共同研究への参加
結果と考察
1.研究班全体としての研究成果
① 先天代謝異常の診断と治療効果評価のためのネットワーク構築
関連する日本先天異常学会との有機的な連携により、同学会のガイドライン策定委員会の協力のもとに肝移植の対象疾患の診断基準作成を行った。この基準策定に参加した専門医によるネットワークの構築に着手し、順調に進捗した。
② 先天代謝異常症に対する造血細胞移植ならびに肝移植症例の後方視的調査研究
関連する日本造血細胞移植学会、日本肝移植研究会の協力のもとに、先天代謝異常症に対する造血細胞移植と肝移植症例の一次調査を行った。一次調査を踏まえて詳細な二次調査を実施し、わが国における先天代謝異常症に対する造血細胞移植と肝移植の実施状況と臨床効果を明らかにした。
③ 先天代謝異常症に対する前方視的臨床研究
Treosulfanを用いた造血細胞移植の臨床研究を実施した。
④ 対象疾患の患者会フォーラムの開催と国際交流
先天代謝異常症のような遺伝性希少疾患においては、疾患を有する患者とその家族への情報提供による早期診断と早期治療の推進が重要となる。本研究班と密接に関連する奥山班と合同で患者会フォーラムを開催し、国内のみならず国際的なネットワークを構築することができたことは、学術的にも社会的にも極めて意義深いものと考える。
また、第12回国際ムコ多糖症と関連疾患に関する国際シンポジウムに参加し、わが国におけるムコ多糖症Ⅱ型への造血細胞移植の成績を発表するとともに、欧米の研究者と学術的な交流を行った。
⑤ 臨床試験支援システムの構築
後方視的調査研究(造血細胞移植)については研究分担者(田渕)が日本造血細胞移植学会ならびに日本小児血液・がん学会の登録業務の中心となっていることから、円滑に支援システムを構築できた。
また肝移植においても日本肝移植研究会の登録事務局(大阪大学外科)との連携が円滑に進められ、研究分担者(笠原他)を中心にして研究が進行した。
前方視的臨床研究については、C-SHOTの全面的な協力により支援システムを構築することができた。
⑥ ガイドラインの作成
 国内外の報告を基にして先天代謝異常症に対する移植療法のガイドラインを造血細胞移植と肝移植に分けて作成した。
 わが国においては最初のガイドラインであり、今後日本先天代謝異常学会、日本造血細胞移植学会、日本肝移植研究会などの関連する学会において活用されるものとなる。
2.分担研究項目の成果
  上記の研究班全体の研究以外の成果は以下のとおりである。
① ムコ多糖症Ⅱ型(Hunter病)における造血細胞移植
わが国におけるムコ多糖症Ⅱ型における造血細胞移植について論文化を行った。
② 先天代謝疾患マウスの移植モデル
ムコ多糖症II型(MPSII)のモデルマウスに対し、遺伝子治療を行った。
③ ヒト臍帯血移植による脳神経系障害修復に関するマウスモデルの作成
ヒト臍帯血中の幹細胞が神経系細胞に分化しうるかをマウスのモデルで検討した。
④ 副腎白質ジストロフィー患者からのiPS細胞の作成
副腎白質ジストロフィー患者の皮膚からiPS細胞を作成中である。
⑤ 間葉系幹細胞の造血細胞移植への応用に関する開発
間葉系細胞(MSC)を造血細胞移植に応用するための基礎的研究を行った。
結論
遺伝性難治性希少疾患である先天代謝異常症に対する移植療法の確立とガイドラインの作成を目的として、後方視的疫学調査研究、前方視的臨床研究、診療ネットワークの構築、ガイドライン作成、海外の研究者との情報交換、該当疾患の患者会への情報提供、新しい細胞治療法開発のための基礎研究などを行い、意義ある成果が得られた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324052C

成果

専門的・学術的観点からの成果
希少疾患である先天代謝異常症に対するわが国における造血細胞移植ならびに肝移植の成績をまとめたもので、専門的・学術的に極めて意義のある成果が得られた。
臨床的観点からの成果
先天代謝異常症に対する造血細胞移植ならびに肝移植の臨床効果を詳細に解析した結果は臨床的に意義ある成果が得られた。
ガイドライン等の開発
先天代謝異常症に対する造血細胞移植ならびに肝移植のガイドラインを初めて作成し、それぞれ関連する学会(日本造血細胞移植学会、日本肝移植研究会)のガイドラインとして活用され、さらに関連する研究班(衛藤班)のガイドライン作成にも活用されている。
その他行政的観点からの成果
平成24年に成立した「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律」の施行に際し、先天代謝異常症のような遺伝性希少疾患に対する造血細胞移植の実態と効果が明らかにされたことは有意義であると考えられる。
その他のインパクト
先天代謝異常症のような遺伝性希少疾患においては、疾患を有する患者とその家族への情報提供による早期診断と早期治療の推進が重要となる。本研究班と密接に関連する奥山班と合同で患者会フォーラムを開催し、国内のみならず国際的なネットワークを構築することができたことは、学術的にも社会的にも極めて意義深いものと考える。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
77件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kasahara M, Sakamoto S, Horikawa R, et al.
Living donor liver transplantation for pediatric patients with metabolic disorders: The Japanese multicenter registry.
Pediatric Transplant , 18 (1) , 6-15  (2014)
10.1111/petr.12196.
原著論文2
Tanaka A, Okuyama T, Suzuki Y, et al.
Long-term efficacy of hematopoietic stem cell transplantation on brain involvement in patients with mucopolysaccharidosis type II: A nationwide survey in Japan.
Mol Genet Metab. , 107 (3) , 513-520  (2012)
10.1016/j.ymgme.2012.09.004.
原著論文3
Kato S, Yabe H, Takakura H, et al.
Hematopoietic stem cell transplantation for inborn errors of metabolism.
Pediatric Transplantation , 20 (2) , 203-214  (2016)
10.1111/petr.12672.

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201324052Z