大規模孤発性ALS患者前向きコホートの遺伝子・不死化細胞リソースを用いた病態解明、治療法開発研究

文献情報

文献番号
201324050A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模孤発性ALS患者前向きコホートの遺伝子・不死化細胞リソースを用いた病態解明、治療法開発研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-012
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 勝野 雅央(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 渡辺 宏久(名古屋大学 脳とこころの研究センター)
  • 熱田 直樹(名古屋大学医学部附属病院)
  • 平川 晃弘(名古屋大学医学部附属病院)
  • 中杤 昌弘(名古屋大学医学部附属病院)
  • 池川 志郎(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 飯田 有俊(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 中野 今治(東京都立神経病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
63,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 渡辺宏久 2013年6月1日 名古屋大学医学部附属病院神経内科講師→名古屋大学大学院医学系研究科特任教授 2013年12月1日 名古屋大学大学院医学系研究科特任教授→名古屋大学脳とこころの研究センター特任教授

研究報告書(概要版)

研究目的
ALSは代表的な神経難病であるが、孤発性ALSの病態関連分子を同定し、病態解析を進める道筋は未確立である。多施設共同ALS患者前向きコホートであるJaCALSでは、孤発性ALS患者の縦断的臨床情報、DNA、B cell lineを蓄積している。この研究資源を拡大し、SNPs、rare variants解析によりALSの病態関連遺伝子を同定し、その遺伝子型を持つ患者由来のiPS細胞ライブラリーを構築して、病態的意義の検証、治療薬スクリーニング体制の整備を行うことを目的とする。
研究方法
 JaCALS参加施設においてALS患者から文書同意を得て登録を行い、臨床研究コーディネーター(CRC)による電話調査を3カ月おきに実施し、代表的なALS重症度スケールであるALSFRS-R日本版スコアおよび侵襲的処置の有無などの予後情報を調査した。登録時に血液検体からDNA抽出およびB-cell line作製を行い、連結可能匿名化した。参加施設をベースにJaCALS運営委員会を組織し、検体は運営委員会の管理のもとで解析研究に供する形とした。患者と血縁が無く、文書同意が得られた人からも静脈採血を行ってコントロール検体とし、連結不可能匿名化した。運営事務局は名古屋大学に設置した。全参加施設で倫理委員会承認を得た。
 平成24年度にJaCALSに登録されたALS患者650例の遺伝子検体について、70万SNPs+25万exome chipを用いて全ゲノム網羅的な遺伝子多型タイピングを行っていた。平成25年度にALS患者の生存期間と関連する遺伝子多型を探索同定するための検証群として、JaCALSからの追加検体および、共同研究施設の自治医科大学神経内科、北海道大学神経内科において蓄積されたALS患者遺伝子検体の計349例について、SNPタイピングを実施した。JaCALSにおいて蓄積されたゲノム遺伝子等のリソースを国内の多くの研究者に提供し、ALSおよび他の神経変性疾患の様々な関連遺伝子についての解析に供した。

結果と考察
 平成26年3月の時点でJaCALSのALS患者登録数は905例、コントロール検体数は277例となった。登録患者縦断像の解析により、頸部筋力低下の有無がALS患者の生存や嚥下機能、上肢機能の維持など多彩な予後予測に有用であることを示した。2012年10月までに登録され、発症から5年までのALSFRS-R推移データが得られている465例について、ALSFRS-Rで表される重症度推移データと遺伝子多型との関連を解析した。その結果、急速に重症度が悪化する群とp値10-8台で関連するSNPsが7つ見出された。ALS患者の生存期間と関連する遺伝子多型を探索同定するために、診断基準への適合、SNPsのquality controlなどから症例を絞りこみ、探索群として孤発性ALS患者514例、検証群として292例について生存期間と遺伝子多型との関連を解析したところ、p値が10-9台を示すSNPを一つ、10-8台を示すSNPを一つ見出した。JaCALSのゲノム遺伝子検体リソースを活用して、新規家族性ALS原因遺伝子ERBB4変異の検証、多系統萎縮症関連遺伝子の検証、Idiopathic basal ganglia calcification原因遺伝子検証、TFG遺伝子変異のスクリーニングが行われた。また、コントロール検体202例を日本人のエクソームコントロールデータ構築に提供した。
本研究において、900例以上のALS患者登録とゲノム遺伝子および不死化細胞の蓄積に成功しており、加えて前向き縦断的な臨床経過の情報を高率に蓄積できている点で、世界でも有数の研究リソースが構築できている。ALS患者の重症度が急速に悪化する、あるいは生存期間が短くなることに関連する遺伝子、タンパクは病態抑止治療の標的になる可能性が高く、ALSの進行・予後と強く関連する遺伝子多型を見出したことは創薬につながりうる重要な成果である。薬剤スクリーニングにつなげるモデルとしては、該当する遺伝子多型を持つALS患者由来のiPS細胞が最も適切と考えられる。共同研究体制にある慶応大学岡野研では不死化リンパ球からiPS細胞を作製する技術を確立した。

結論
 ALS患者大規模疾患コホートにより、縦断的臨床経過情報と遺伝子、不死化細胞のリソースを構築し、臨床的解析、進行・予後に関わる遺伝子多型の探索同定ができており、それに基づくiPS細胞ライブラリー樹立と病態解析へむけて順調な進捗である。また本研究リソースは既に多彩な神経変性疾患解析研究に寄与しており、今後継続的に裾野の広い研究基盤となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201324050B
報告書区分
総合
研究課題名
大規模孤発性ALS患者前向きコホートの遺伝子・不死化細胞リソースを用いた病態解明、治療法開発研究
課題番号
H24-難治等(難)-一般-012
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 元(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 勝野 雅央(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 渡辺 宏久(名古屋大学 脳とこころの研究センター)
  • 熱田 直樹(名古屋大学医学部附属病院)
  • 平川 晃弘(名古屋大学医学部附属病院)
  • 中杤 昌弘(名古屋大学医学部附属病院)
  • 池川 志郎(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 飯田 有俊(理化学研究所 ゲノム医科学研究センター)
  • 中野 今治(東京都立神経病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 渡辺宏久 2013年6月1日 名古屋大学医学部附属病院神経内科講師→名古屋大学大学院医学系研究科特任教授 2013年12月1日 名古屋大学大学院医学系研究科特任教授→名古屋大学脳とこころの研究センター特任教授

研究報告書(概要版)

研究目的
ALSは代表的な神経難病であるが、孤発性ALSの病態関連分子を同定し、病態解析を進める道筋は未確立である。多施設共同ALS患者前向きコホートであるJaCALSでは、孤発性ALS患者の縦断的臨床情報、DNA、B cell lineを蓄積している。この研究資源を拡大し、SNPs、rare variants解析によりALSの病態関連遺伝子を同定し、その遺伝子型を持つ患者由来のiPS細胞ライブラリーを構築して、病態的意義の検証、治療薬スクリーニング体制の整備を行うことを目的とする。
研究方法
 JaCALS参加施設においてALS患者から文書同意を得て登録を行い、臨床研究コーディネーター(CRC)による電話調査を3カ月おきに実施し、代表的なALS重症度スケールであるALSFRS-R日本版スコアおよび侵襲的処置の有無などの予後情報を調査した。登録時に血液検体からDNA抽出およびB-cell line作製を行い、連結可能匿名化した。参加施設をベースにJaCALS運営委員会を組織し、検体は運営委員会の管理のもとで解析研究に供する形とした。患者と血縁が無く、文書同意が得られた人からも静脈採血を行ってコントロール検体とし、連結不可能匿名化した。運営事務局は名古屋大学に設置した。全参加施設で倫理委員会承認を得た。
 JaCALSに登録されたALS患者650例の遺伝子検体について、70万SNPs+25万exome chipを用いて全ゲノム網羅的な遺伝子多型タイピングを行った。また、ALS患者の生存期間と関連する遺伝子多型を探索同定するための検証群として、JaCALS登録のALS患者追加検体および、共同研究施設の自治医科大学神経内科、北海道大学神経内科において蓄積されたALS患者遺伝子検体の計349例について、同様のSNPタイピングを実施した。JaCALSにおいて蓄積されたゲノム遺伝子等のリソースを国内の多くの研究者に提供し、ALSおよび他の神経変性疾患の様々な関連遺伝子についての解析に供した。
結果と考察
 平成26年3月の時点でJaCALSのALS患者登録数は905例、コントロール検体数は277例となった。登録患者縦断像の解析により、頸部筋力低下の有無がALS患者の生存や嚥下機能、上肢機能の維持など多彩な予後予測に有用であることを示した。2012年10月までに登録され、発症から5年までのALSFRS-R推移データが得られている465例について、ALSFRS-Rで表される重症度推移データと遺伝子多型との関連を解析した。その結果、急速に重症度が悪化する群とp値10-8台で関連するSNPsが7つ見出された。ALS患者の生存期間と関連する遺伝子多型を探索同定するために、診断基準への適合、SNPsのquality controlなどから症例を絞りこみ、探索群として孤発性ALS患者514例、検証群として292例について生存期間と遺伝子多型との関連を解析したところ、p値が10-9台を示すSNPを一つ、10-8台を示すSNPを一つ見出した。JaCALSのゲノム遺伝子検体リソースを活用して家族性ALSの原因遺伝子の一つであるC9ORF72遺伝子変異の我が国の孤発性ALS患者における頻度検証、新規家族性ALS原因遺伝子ERBB4変異の検証、多系統萎縮症関連遺伝子の検証、Idiopathic basal ganglia calcification原因遺伝子検証、TFG遺伝子変異のスクリーニングが行われた。また、コントロール検体202例を日本人のエクソームコントロールデータ構築に供している。
本研究において、900例以上のALS患者登録とゲノム遺伝子および不死化細胞の蓄積に成功しており、加えて前向き縦断的な臨床経過の情報を高率に蓄積できている点で、世界でも有数の研究リソースが構築できている。ALS患者の重症度が急速に悪化する、あるいは生存期間が短くなることに関連する遺伝子、タンパクは病態抑止治療の標的になる可能性が高く、ALSの進行・予後と強く関連する遺伝子多型を見出したことは創薬につながりうる重要な成果である。薬剤スクリーニングにつなげるモデルとしては、該当する遺伝子多型を持つALS患者由来のiPS細胞が最も適切と考えられる。共同研究体制にある慶応大学岡野研では不死化リンパ球からiPS細胞を作製する技術を確立した。
結論
 ALS患者大規模疾患コホートにより、縦断的臨床経過情報と遺伝子、不死化細胞のリソースを構築し、臨床的解析、進行・予後に関わる遺伝子多型の探索同定ができており、それに基づくiPS細胞ライブラリー樹立と病態解析へむけて順調な進捗である。また本研究リソースは既に多彩な神経変性疾患解析研究に寄与しており、今後継続的に裾野の広い研究基盤となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

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公開日
2015-06-30
更新日
-

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文献番号
201324050C

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文献番号
201324050Z