門脈血行異常症に関する調査研究

文献情報

文献番号
201324029A
報告書区分
総括
研究課題名
門脈血行異常症に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-026
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森安 史典(東京医科大学 内科学第四講座)
研究分担者(所属機関)
  • 橋爪 誠(九州大学大学院医学研究院 先端医療医学講座)
  • 川崎 誠治(順天堂大学医学部 肝胆膵外科)
  • 北野 正剛(大分大学 消化器外科)
  • 前原 喜彦(九州大学大学院医学研究院 消化器・総合外科)
  • 塩見 進(大阪市立大学大学院医学研究科 核医学)
  • 小嶋 哲人(名古屋大学大学院医学系研究科医療技術学専攻 病態解析学講座)
  • 國吉 幸男(琉球大学大学院 胸部心臓血管外科学講座)
  • 廣田 良夫(大阪市立大学大学院医学研究科 公衆衛生学)
  • 中沼 安二(金沢大学大学院医学系研究科・医薬保健学域医学類 形態機能病理学)
  • 鹿毛 政義(久留米大学医学部 病理学教室)
  • 松谷 正一(千葉県立保健医療大学健康科学部 看護学科)
  • 江口 晋(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 移植・消化器外科)
  • 吉田 寛(日本医科大学多摩永山病院 外科)
  • 福井 博(奈良県立医科大学医学部 第三内科 )
  • 小原 勝敏(福島県立医科大学附属病院 内視鏡診療部)
  • 坂井田 功(山口大学大学院医学系研究科 消化器病態内科学)
  • 國分 茂博(順天堂大学医学部附属練馬病院 消化器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の研究目的は、原因不明で門脈血行動態の異常を来す、特発性門脈圧亢進症(IPH)、肝外門脈閉塞症(EHO)、バッド・キアリ症候群(BCS)などを対象疾患として、これらの疾患の病因および病態の追求とともに、患者発生状況、治療法、予後などの実態を正確に把握し、予後の向上のために診断、治療上の問題点を明らかにするところにある。

研究方法
IPH、EHO、BCSの病因病態の解明のため、研究課題を以下の項目別に分担して検討を行った。
1)病理学的・分子生物学的検討
2)臨床的検討
3)疫学的検討

結果と考察
【病理学的・分子生物学的検討】
IPH患者および健常者の血液検体に対し、DNAチップを用いた網羅的遺伝子解析を行い、IPHでは全身的核酸代謝異常が最初にあり、これが免疫系細胞の分化異常や機能異常を誘導することが示唆された。
バッド・キアリ症候群(BCS)や肝外門脈血栓症(EHO)において、凝固に関わるタンパク質の遺伝子異常を報告した。欧米人と日本人ではBCSの発生機転が大きく異なることが明らかとなった。
小葉中心部の肝細胞に発現するglutamine synthetase(GS)を中心静脈、肝静脈枝のマーカーとして用い、IPHの異常血行路の動態を病理組織学的に検討した。IPHの異常血行路には,その周囲の肝細胞がglutamine synthetase(GS)に陽性を示すもの(Type 1)とGSが陰性のもの(Type 2)とが存在することを明らかにした。
脾摘前後の血液検査所見を検討した。肝硬変では、 肝臓の壊死炎症反応が肝組織への血小板集積に寄与し、 脾摘による末梢血血小板数の改善が減弱することを示した。
【臨床的検討】
定量的に組織弾性を測定する超音波画像診断装置を導入し、門脈圧亢進症の肝脾の弾性を検討した。また、急性肝炎、肝腫瘍、ラジオ波焼灼療法(RFA)後の組織の弾性の定量的測定を行い、本法の臨床的有用性について検討した。
造影超音波を使った肝Hemodynamicの解析し、肝静脈内への造影剤到達時間と染影輝度を測定することで、バルーン閉塞下経静脈的塞栓術による胃静脈瘤治療が肝内血行動態にもたらす効果を前向きに検討しその結果を報告した。
検体保存センターの登録の現状について報告した。平成18年に九州大学にてヒトゲノムに関する倫理委員会の承認の後、平成25年12月現在までにヒトゲノム倫理審査委員会の承認を得ている施設は11施設と増加した。登録状況は平成25年末において、73症例(内IPH:10例、EHO:2例、BCS:27例)であった。BCSにおける発癌に関する研究、BCSの発症にかかわる凝固因子遺伝子の解析、IPHにおける網羅的な遺伝子解析等にも検体保存センターは活用され、病態解析が進んだ。
左葉グラフトを用いた成人生体肝移植後の腹水管理について検討した。左葉グラフトによる生体肝移植は、適切な管理をすれば予後良好であることを示した。
門脈圧亢進症に伴った門脈血栓を検討した結果、その自然経過は多彩であり、約半数で縮小・消失がみられたが約3割では血栓が増大した。
門脈圧亢進症における部分的脾塞栓術(PSE)の有用性について報告した。PSEは門脈圧低下目的にも選択される治療の一つに成り得ることを示した。
バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration, B-RTO)が肝硬変患者の血行動態・耐糖能に及ぼす影響を検討した。B-RTOはれた。
【疫学的検討】
門脈血行異常症患者の臨床疫学特性をモニタリングするためのシステム(定点モニタリングシステム)を構築した。定点モニタリングシステムを継続的に実施することで、門脈血行異常症の貴重なデータベースになることが期待できた。
登録症例の代表性について、2005年に実施した全国疫学調査との比較を行ったところ、一般的な検査所見については、定点モニタリング症例と全国疫学調査症例で同様の結果を示していた。
結論
基礎的分野では最新の分子生物学的手法や病理学的検討を行うことで、門脈血行異常症の病因病態をより深く解明することができた。また、臨床分野では、検体保存センターの活用、門脈血行異常症に関する定点モニタリングシステムの構築、全国疫学調査データの活用、門脈血管や異常血行路の血行動態の解析、門脈圧亢進症における脾摘術・シャント術や肝移植などの手術成績の検討から、これら3疾患の診断精度の向上が期待され、治療法の選択や術式の改善により予後の向上が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324029B
報告書区分
総合
研究課題名
門脈血行異常症に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-026
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森安 史典(東京医科大学 内科学第四講座)
研究分担者(所属機関)
  • 橋爪 誠(九州大学大学院医学研究院 先端医療医学講座)
  • 川崎 誠治(順天堂大学医学部 肝胆膵外科)
  • 北野 正剛(大分大学 消化器外科)
  • 前原 喜彦(九州大学大学院医学研究院 消化器・総合外科)
  • 塩見 進(大阪市立大学大学院医学研究科 核医学)
  • 小嶋 哲人(名古屋大学大学院医学系研究科医療技術学専攻 病態解析学講座)
  • 國吉 幸男(琉球大学大学院 胸部心臓血管外科学講座)
  • 廣田 良夫(大阪市立大学大学院医学研究科 公衆衛生学)
  • 中沼 安二(金沢大学大学院医学系研究科・医薬保健学域医学類 形態機能病理学)
  • 鹿毛 政義(久留米大学医学部 病理学教室)
  • 松谷 正一(千葉県立保健医療大学健康科学部 看護学科)
  • 江口 晋(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 移植・消化器外科)
  • 吉田 寛(日本医科大学多摩永山病院 外科)
  • 福井 博(奈良県立医科大学医学部第三内科 )
  • 小原 勝敏(福島県立医科大学附属病院 内視鏡診療部)
  • 坂井田 功(山口大学大学院医学系研究科 消化器病態内科学)
  • 國分 茂博(順天堂大学医学部附属練馬病院 消化器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
原因不明で門脈血行動態の異常を来す、特発性門脈圧亢進症(IPH)、肝外門脈閉塞症(EHO)、バッド・キアリ症候群(BCS)の3疾患を対象疾患として、これらの疾患の病因および病態の追求とともに、患者発生状況、治療法、予後などの実態を正確に把握し、予後を向上するための、診断、治療上の問題点を明らかにすることを目的とした。
研究方法
IPH、EHO、BCSの病因病態の解明のため、以下の項目に研究課題を分担して検討を行った。
1)病理学的・分子生物学的検討
2)臨床的検討
3)疫学的検討
 なお、各項目の検討に際しては、当疾患が極めて稀である状況から、検体保存センターの症例及び検体を有効に活用した。また、特に病理学的検討及び分子生物学的検討では、国際間比較のため本邦だけではなく国外の症例に関しても積極的に研究対象としている。
結果と考察
【病理学的・分子生物学的検討】
検体保存センターの登録状況は平成25年末において、73症例(内IPH:10例、EHO:2例、BCS:27例)であった。BCSにおける発癌に関する研究、BCSの発症にかかわる凝固因子遺伝子の解析、IPHにおける網羅的な遺伝子解析等にも検体保存センターは活用され、病態解析が進んだ。
DNAチップを用いた網羅的遺伝子解析を行い、アラキドン酸関連の合成・代謝異常、エンドセリンシグナル異常が見られたが、これらは血球の外部環境の変動に血球が対応した補償的反応である可能性が考えられた。
バッド・キアリ症候群(BCS)や肝外門脈血栓症(EHO)において、凝固に関係したタンパク質の遺伝子異常を検討し、欧米人と日本人ではBCSの発生機転が大きく異なることが明らかとなった。
脾摘前後の血液検査所見を検討し、肝硬変では、 肝臓の壊死炎症反応が肝組織への血小板集積に寄与し、脾摘により末梢血血小板数の改善が減弱し、脾臓におけるTGF-β1発現に巨核球の関与が示唆された。
【臨床的検討】
超音波Shear wave elastography(SWE)を導入し、門脈圧亢進症の肝脾の弾性を検討し、脾硬度の測定は、門脈圧を非侵襲的に評価する上で有用であることを示した。
造影超音波を使い、肝Hemodynamicの解析を行った。超音波造影剤の肝静脈内への到達時間と経時的輝度変化を測定することで、バルーン閉塞下経静脈的塞栓術(BRTO)による胃静脈瘤治療が肝内血行動態に好影響をもたらすことが明らかとなった。
脾機能制御の意義について検討し、脾腫が、肝線維化や肝再生に関与していることが明らかとなった。
発達した側副血行路を認めた症例に対して生体肝移植前が行われた場合に、門脈再建前後で十分な血流が確認できれば、必ずしも側副血行路の術中結紮処理は必要がないことが明らかとなった。
左葉グラフトを用いた成人生体肝移植後では、左葉グラフトによる生体肝移植は、適切な管理をすれば予後良好であることが示された。
肝外門脈閉塞症に血液疾患を合併し、脾機能亢進症を示す症例においても、脾臓摘出術が有効な症例があることが示された。
Budd-Chiari 症候群に合併する肝細胞癌の治療に関して報告された。BCSに合併する肝細胞癌は、通常の肝細胞癌と同様に治療を行うのが原則であると考えられた。
門脈圧亢進症に伴った門脈血栓の自然経過について検討された。門脈血行異常症での門脈血栓では、未治療経過での自然消退を期待できるが、血栓の残存例では新たな症候の発症に留意する必要があることが示された。
門脈圧亢進症における部分的脾塞栓術(PSE)の有用性について検討され、門脈圧低下目的にも選択される治療の一つに成り得ることが明らかとなった。
バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)が肝硬変患者の血行動態・耐糖能に及ぼす影響が検討された。B-RTOは肝硬変患者のインスリン抵抗性および高インスリン血症に及ぼすことが明らかとなった。
肝外門脈閉塞症は、閉塞した門脈周囲に著明な求肝性の側副血行路を形成し、食道胃静脈瘤を認める他に、十二指腸、胆管、直腸等の異所性静脈瘤を形成していることが明らかとなった。
【疫学的検討】
定点モニタリングシステムを継続的に実施することで、門脈血行異常症の貴重なデータベースになることが期待できた。
結論
基礎的分野では最新の分子生物学的・遺伝子解析手法を用いることで、門脈血行異常症の病因病態をより深く解明することができた。また、臨床分野では門脈血行異常症における治療成績・予後に関する検討が行われ、治療の現状が明らかになった。定点モニタリングシステムによる疫学的検討により、門脈血行異常症の疫学的側面を明らかにすることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
網羅的遺伝子解析の結果、IPHでは核酸代謝異常が最初にあり、これが免疫系細胞の分化異常や機能異常を誘導することが示唆された。
バッド・キアリ症候群(BCS)や肝外門脈血栓症(EHO)において、凝固に関わるタンパク質の遺伝子異常が明らかとなった。
IPHの異常血行路の肝細胞がglutamine synthetase(GS)に陽性を示すもの(Type 1)とGSが陰性のもの(Type 2)が存在することを明らかにした。
肝硬変では、肝臓の壊死炎症反応が肝組織への血小板集積に寄与することが示された。
臨床的観点からの成果
超音波エラストグラフィを用いた肝脾の弾性測定の結果、IPHでは、肝脾の弾性比が有意に低く、診断基準に使えることが示された。
造影超音波を用いた検討では、バルーン閉塞下経静脈的塞栓術による胃静脈瘤治療が肝血行動態の改善に寄与し、耐糖能も改善することが示された。
門脈圧亢進症の成人生体肝移植では、左葉グラフトによる生体肝移植は、適切な管理をすれば予後良好であることが示された。
門脈圧亢進症における部分的脾塞栓術(PSE)は門脈圧低下目的にも選択される治療の一つに成り得ることが示された。
ガイドライン等の開発
門脈血行異常症患者の臨床疫学特性をモニタリングするための定点モニタリングシステムを構築した。登録症例の代表性について、2005年に実施した全国疫学調査との比較を行ったところ、定点モニタリング症例と全国疫学調査症例で同様の結果を示していた。
以上の結果を基に、IPH、BCS、EHOの診断のガイドラインの改定を平成25年度に行った。
その他行政的観点からの成果
厚生労働行政として、平成10年度にバッド・キアリ症候群が治療研究対象疾患に採択された。平成12年に本研究班により作成された「門脈血行異常症の診断と治療(2001年)」、平成19年に、「門脈血行異常症の診断と治療のガイドライン(2007)」と改訂し、門脈血行異常症の診断と治療の啓蒙が行われてきた。
門脈血行異常症の診断と治療の基準を改訂することにより、門脈血行異常症各疾患の初期発見に大きく寄与し、治療法の適切な選択は患者の予後の向上に貢献できると考える。
その他のインパクト
厚生労働行政として、本難治性疾患克服事業の中で疫学調査の重要性が強調されている。本研究班では、平成23年度から疫学的調査として定点モニタリングシステムを導入して疫学調査を行なっている。本研究班の班員所属施設を定点医療機関として、門脈血行異常症の新患を継続的に登録するシステムを構築した。このシステムにより、疾患の臨床像や治療法などについて経年的な変化をいち早くとらえることが可能となった。

発表件数

原著論文(和文)
143件
原著論文(英文等)
177件
その他論文(和文)
36件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
160件
学会発表(国際学会等)
41件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Murai Y, Ohfuji S, Hirota Y.他
Prognostic factors in patients with idiopathic portal hypertension: Two Japanese nationwide epidemiological surveys in 1999 and 2005.
Hepatol Res , 42 , 1211-1220  (2012)
原著論文2
Furuichi Y, Moriyasu F,Imai Y.他
Noninvasive diagnostic method for idiopathic portal hypertension based on measurements of liver and spleen stiffness by ARFI elastography
J Gastroenterol , Nov (10)  (2012)
原著論文3
Sato Y, Ren XS, Nakanuma Y.他
Induction of elastin expression in vascular endothelial cells relates to hepatoportal sclerosis in idiopathic portal hypertension: possible link to serum anti-endothelial cell antibodies.
Clin Exp Immunol , 167 , 532-542  (2012)
原著論文4
Miyawaki Y,Suzuki,Kojiima T.他
Thrombosis from a prothrombin mutation conveying antithrombin resistance.
N Engl J Med , 366 , 2390-2396  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2019-10-23

収支報告書

文献番号
201324029Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,200,000円
(2)補助金確定額
11,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,004,047円
人件費・謝金 10,000円
旅費 1,905,600円
その他 2,698,282円
間接経費 2,584,000円
合計 11,201,929円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-