文献情報
文献番号
201324019A
報告書区分
総括
研究課題名
ミトコンドリア病の診断と治療に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-016
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 雄一(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
- 太田成男(日本医科大学大学院医学研究科・生化学)
- 大竹 明(埼玉医科大学・小児科)
- 北風政史(国立循環器病研究センター病院・研究開発基盤センター)
- 古賀靖敏(久留米大学大学院医学研究科・小児科学)
- 小牧宏文(国立精神・神経医療研究センター病院・小児神経科)
- 作田亮一(獨協医科大学越谷病院小児科・子どものこころ診療センター)
- 末岡 浩(慶應義塾大学・産婦人科学)
- 須藤 章(北海道大学大学院医学研究科・小児科)
- 田中雅嗣(東京都健康長寿医療センター・健康長寿ゲノム探索)
- 中川正法(京都府立医科大学附属北部医療センター病院)
- 中田和人(筑波大学大学院生命環境科学研究科・生物物理化学)
- 萩野谷和裕(東北大学大学院医学研究科・小児科)
- 山岨達也(東京大学医学部・耳鼻咽喉科)
- 米田 誠(福井県立大学・看護福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
23,077,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関変更(平成25年4月1日)
分担研究者:中川正法(京都府立医科大学神経内科→京都府立医科大学附属北部医療センター病院)
分担研究者:米田誠(福井大学医学部第二内科→福井県立大学看護福祉学部)
研究報告書(概要版)
研究目的
ミトコンドリア病の検査手段(病理検査、生化学検査、DNA検査)の標準化と集約的診断体制の確立、本疾患に関する情報提供手段の整備等を行い、臨床病型、重症度、合併症、主な治療の内容などの全国調査を行う。また、多臓器の症状を有するミトコンドリア病の研究をさらに推進させるために、疾患iPS細胞事業と連携して、研究利用できるミトコンドリア病iPS細胞の樹立と公共バンクへの提供を支援する。また、患者レジストリーを進め、具体的な治療に関する臨床研究や治験を進めることを目的とする。
研究方法
1)検査の標準化
ミトコンドリア病の診断には、多臓器に渡る臨床症状の把握と3種類の検査方法(病理検査、生化学検査、遺伝子検査)が必要で、それらの標準化と集約的な診断体制を構築する準備をする。
2)診断基準、重症度スケールの作成
3)情報提供体制の整備
4)治療に結びつく薬剤の検討
5)ミトコンドリア病に関する生殖補助医療
ミトコンドリア病の診断には、多臓器に渡る臨床症状の把握と3種類の検査方法(病理検査、生化学検査、遺伝子検査)が必要で、それらの標準化と集約的な診断体制を構築する準備をする。
2)診断基準、重症度スケールの作成
3)情報提供体制の整備
4)治療に結びつく薬剤の検討
5)ミトコンドリア病に関する生殖補助医療
結果と考察
1)検査の標準化
生化学検査で、呼吸鎖酵素複合体V(ATP合成酵素の逆反応)の活性測定系を立ち上げ、患者で同定されたミトコンドリアDNAのATP 6及びATP 8 領域に存在する変異の病因性に関する検討を加えた。その結果、新たに病因と考えられる複数の変異を同定し、報告した。埼玉医科大学を中心に、千葉こども病院、自治医科大学、東京都健康長寿医療センターと協力して、特に乳児期発症の重症ミトコンドリア病に関して、酵素診断から網羅的な遺伝子検査にいたる系統的病因検索システムを構築した。次世代シークエンサーを用いたエキソーム解析を104人の症例に行い、27例に病因となる遺伝子変異を同定した。
2)診断基準、重症度スケールの作成
2009年に制定した「ミトコンドリア病の認定基準」には、症状としての糖尿病と難聴の項目を入れていない。しかし、糖尿病単独の患者が認定されないというのは問題であり、糖尿病を症状の一項目に入れることについては異論がない。現在の認定基準をもとに糖尿病や難聴などの不足項目を追加する方法で診断基準を策定する案を検討した。ただし、一部の症状については、重症度を加味した基準にすることが必要になる。一方で、国際治験などを施行するために難病研究のグローバル化が重要とされており、診断基準とレジストリーにおける登録項目のグローバル化が望まれる。そのために、この研究班で作成した日本案を諸外国に示して統一化を図ることが望ましい。
3)情報提供体制の整備
ミトコンドリア病の知識とその遺伝に関する啓発を目的として、平成26年1月25、26日に2度目のセミナーを実施した。患者向けのセミナーとしては、「ミトコンドリア病患者の会」主催の勉強会を、平成25年6月2日(川崎)と平成25年10月12日(大阪)に開催し、保健所主催の勉強会を平成25年7月6日(横浜市戸塚区役所)で開催した。また、一般市民向けには、当研究班の主催する「市民公開講座」を福井市で実施した(9.16,2013)。患者レジストリーについては、平成25年度に実施するように計画を変更したが、これも平成25年度に実施することが叶わなかった。認定基準案作成の遅れと調査項目のグローバルな調整に手間取った。
4)治療に結びつく薬剤の検討
分担研究者の田中、古賀、らがピルビン酸ナトリウムを、大竹らがδ-アミノレブリン酸を治療に用いようとする研究が進んでいる。また、MELASに対するタウリンの大量治療試験を行う研究班(主任研究者:川崎医科大学神経内科砂田芳秀教授)や国立精神・神経医療研究センター病院の後藤はMELASに対するEPI-743の臨床研究を行っており、これらの臨床試験、臨床研究がスムーズに進むように、研究班では必要に応じて調整を行った。
5)ミトコンドリア病に関する生殖補助医療
分担研究者の末岡らがLeigh脳症の2例で着床前遺伝子診断を試みたことが報告された。しかし、実施した一例で移植可能胚が得られず、胚移植には至らなかったことが報告された。
生化学検査で、呼吸鎖酵素複合体V(ATP合成酵素の逆反応)の活性測定系を立ち上げ、患者で同定されたミトコンドリアDNAのATP 6及びATP 8 領域に存在する変異の病因性に関する検討を加えた。その結果、新たに病因と考えられる複数の変異を同定し、報告した。埼玉医科大学を中心に、千葉こども病院、自治医科大学、東京都健康長寿医療センターと協力して、特に乳児期発症の重症ミトコンドリア病に関して、酵素診断から網羅的な遺伝子検査にいたる系統的病因検索システムを構築した。次世代シークエンサーを用いたエキソーム解析を104人の症例に行い、27例に病因となる遺伝子変異を同定した。
2)診断基準、重症度スケールの作成
2009年に制定した「ミトコンドリア病の認定基準」には、症状としての糖尿病と難聴の項目を入れていない。しかし、糖尿病単独の患者が認定されないというのは問題であり、糖尿病を症状の一項目に入れることについては異論がない。現在の認定基準をもとに糖尿病や難聴などの不足項目を追加する方法で診断基準を策定する案を検討した。ただし、一部の症状については、重症度を加味した基準にすることが必要になる。一方で、国際治験などを施行するために難病研究のグローバル化が重要とされており、診断基準とレジストリーにおける登録項目のグローバル化が望まれる。そのために、この研究班で作成した日本案を諸外国に示して統一化を図ることが望ましい。
3)情報提供体制の整備
ミトコンドリア病の知識とその遺伝に関する啓発を目的として、平成26年1月25、26日に2度目のセミナーを実施した。患者向けのセミナーとしては、「ミトコンドリア病患者の会」主催の勉強会を、平成25年6月2日(川崎)と平成25年10月12日(大阪)に開催し、保健所主催の勉強会を平成25年7月6日(横浜市戸塚区役所)で開催した。また、一般市民向けには、当研究班の主催する「市民公開講座」を福井市で実施した(9.16,2013)。患者レジストリーについては、平成25年度に実施するように計画を変更したが、これも平成25年度に実施することが叶わなかった。認定基準案作成の遅れと調査項目のグローバルな調整に手間取った。
4)治療に結びつく薬剤の検討
分担研究者の田中、古賀、らがピルビン酸ナトリウムを、大竹らがδ-アミノレブリン酸を治療に用いようとする研究が進んでいる。また、MELASに対するタウリンの大量治療試験を行う研究班(主任研究者:川崎医科大学神経内科砂田芳秀教授)や国立精神・神経医療研究センター病院の後藤はMELASに対するEPI-743の臨床研究を行っており、これらの臨床試験、臨床研究がスムーズに進むように、研究班では必要に応じて調整を行った。
5)ミトコンドリア病に関する生殖補助医療
分担研究者の末岡らがLeigh脳症の2例で着床前遺伝子診断を試みたことが報告された。しかし、実施した一例で移植可能胚が得られず、胚移植には至らなかったことが報告された。
結論
今年度はミトコンドリア病班として研究班が設立されて3年めであった。過去2年間と比較し、ミトコンドリア病に関する、診断、治療、予防などに関する研究が格段に進んだとは言えないが、新しい薬剤を用いた臨床試験、臨床研究が着実に進んだ。一方でiPS細胞を用いた研究への連携など、新たな研究内容の萌芽があり、さらに研究班の活動を多様化させる必要がある。全国レベルの診断体制の整備、診断基準や重症度スケールの作成などを終え、患者レジストリーと具体的な臨床試験の実施などを進めて行くことが次年度以降の課題である。
公開日・更新日
公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-30