文献情報
文献番号
201324012A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎ホルモン産生異常に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
柳瀬 敏彦(福岡大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 諸橋憲一郎(九州大学 大学院医学研究院)
- 宮本 薫(福井大学 医学部)
- 田中 廣壽(東京大学 医科学研究所 )
- 高柳 涼一(九州大学 大学院医学研究院)
- 成瀬 光栄(京都医療センター 臨床研究センター)
- 長谷川 奉延(慶應義塾大学 医学部)
- 田島 敏広(北海道大学 大学院医学研究科)
- 勝又 規行(国立成育医療研究センター研究所)
- 棚橋 祐典(旭川医科大学 医学部)
- 西川 哲男(横浜労災病院)
- 柴田 洋孝(大分大学 医学部)
- 武田 仁勇(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
- 曽根 正勝(京都大学 大学院医学研究科)
- 佐藤 文俊(東北大学病院)
- 岩崎 泰正(高知大学 教育研究部)
- 笹野 公伸(東北大学 大学院医学系研究科)
- 上芝 元(東邦大学 医学部)
- 山田 正信(群馬大学 大学院医学系研究科)
- 方波見 卓行(聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院)
- 三宅 吉博(福岡大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
24,030,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
副腎ホルモン産生・作用異常症の実態把握と病因・病態の解明により、適切な診断・治療法を提示する。特に疫学研究では、過去、我が国の疫学調査で欠落していた治療と疾患予後との関連性を明らかにすることに重点を置く。
研究方法
1. 疫学研究(1)全国疫学調査:H11-15年当時、集積された副腎偶発腫瘍3,678例の10年後予後調査を行い、1841例(回収率50.1%)の中間解析を行った。 (2) 21-OHDの代謝関連の予後調査、出生前診断、治療の実態調査を計画した。2. 基礎・臨床研究:先天性ステロイド産生異常症の成因解明やPA等の副腎腫瘍の成因に関する研究、間葉系幹細胞からの再生ステロイド産生細胞を用いた細胞療法等の種々の研究を行った。
結果と考察
1.全国疫学研究: (1) H11-15年当時、集積された副腎偶発腫瘍3,678例の10年後予後調査を行い、1841例(回収率50.1%)の中間解析を行った。転帰報告は1276例(死亡6.3%)で、死因の1/4は心・脳血管障害であった。予後解析のためには症例数が不足しており、延長解析とした。(2) 21水酸化酵素欠損症(21OHD)の長期的治療予後等の実態解明を目的として、調査票を作成した。次年度施行予定である。2.基礎、臨床研究:(1)新生児期の3βHSDD の尿中Δ5 代謝物による診断では、胎生皮質由来Δ5 が著増する21OHD との鑑別が困難と結論した。(2) ACTH不応症3例のMC2R遺伝子異常を同定し、臨床的特徴を明らかにした。(3)21OHDの治療指針改訂のためのアンケート調査の結果、HC初期量、維持量とも明確なコンセンサスがなく、今後、治療標準化の必要性が考えられた。(4)副腎性サブクリニカルクッシング症候群(SCS)診断基準改定原案を作成した。1mgDST コルチゾール(F)値を現行の3.0μg/dl以上から米国内分泌学会提唱の1.8μg/dl以上に引き下げ、加えて1)ACTH基礎値10pg/ml未満、2)夜間F値 5.0μg/dl以上、3)CRH負荷に対するACTH低反応の3項目のうち、1)と3)あるいは2)と3)を満たせばSCSとする基準案を作成した。本基準は、耐糖能異常の検出に有用であったことから、臨床的に意義のあるSCSの診断は可能と考えられた。(5)原発性アルドステロン症(PA)に関する研究として、CTで描出し得ない微小APAでもアルドステロン産生能は高いこと、PAの片側副腎摘出後、副腎不全症状は認めないものの、ACTH負荷後の残存健側副腎の予備能は軽度低下を認めること、PA術後の腎機能悪化の予知因子として術前eGFR、年齢、服用降圧薬数、ARRが有用であること、各施設の多数例の解析の結果、APAの約70%にKCNJ5の体細胞変異が認められ、変異群では、相対的に臨床型が重症であること等を見出した。PAの成因解明と同時に、周術期管理の面で重要な知見と言える。(6)その他の副腎腫瘍に関する研究では以下のような結果を得た。クッシング症候群腺腫ではCYP11B1,APAではCYP11B2の低メチル化が示唆され、それぞれコルチゾール、アルドステロン過剰産生との関連が示唆された。各種機能性副腎腫瘍の非侵襲的血管機能評価において、褐色細胞腫において頸動脈のIMT肥厚やプラーク数増加が顕著で、循環血漿量評価においてはNICaSが有用であること、外科的切除したSCSの86%でPAを合併し、高血圧は合併するPAに依存する場合もあり得ること、CaとCaMの結合促進蛋白のPurkinje Cell Protein 4(PCP4)は正常副腎皮質、IHAの球状層とAPAで強発現し、アルドステロン産生調節に関与すること等が報告された。(6)ステロイド合成・作用機構の研究では、骨格筋特異的GRKOマウスの解析から生理的GC-GR系が骨格筋異化とエネルギー代謝に関与すること、Ad4BP/SF-1(SF-1)は解糖系とNADPH産生系の制御を通じてATP産生などのエネルギー産生に関与し、副腎形成過程の全体を統括していること、ACTH受容体関連蛋白Mrap2 の転写はAP1により促進されたことから、ストレスや炎症時のGC産生にMrapが関与する可能性等が報告された。(7)マウス脂肪組織より調整した間葉系幹細胞にSF-1を導入し作成したステロイド産生細胞を両側副腎摘出マウスの腎皮膜下に細胞移植した結果、副腎不全モデルの生存能を向上させた。副腎不全症における再生ステロイド産生細胞による細胞療法の有効性を示唆する成績で、臨床応用が期待される。
結論
得られた成果は、本領域の疾患の病態の理解、新たな診断法や治療指針の提示、治療法の開発に有用である。
公開日・更新日
公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-30