文献情報
文献番号
201324010A
報告書区分
総括
研究課題名
ホルモン受容機構異常に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森 昌朋(医療法人社団 三思会 北関東肥満代謝研究所 北関東肥満代謝研究所研究課)
研究分担者(所属機関)
- 松本 俊夫(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 生体情報内科学)
- 赤水 尚史(和歌山県立医科大学・内科学第一講座)
- 村田 善晴(名古屋大学環境医学研究所、生体適応・防御研究部門、発生遺伝分野)
- 廣松 雄治(久留米大学医学部 内科学講座内分泌代謝内科部門)
- 大薗 惠一(大阪大学大学院医学系研究科 小児学講座)
- 杉本 利嗣(島根大学医学部内科学講座)
- 岡崎 亮(帝京大学ちば総合医療センター)
- 田中 祐司(防衛医科大学 総合臨床部)
- 山田 正信(群馬大学大学院医学系研究科 病態制御内科学)
- 片桐 秀樹(東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝科)
- 小川 渉(神戸大学大学院医学系研究科 糖尿病内分泌内科)
- 福本 誠二(東京大学医学部附属病院 腎臓内分泌内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,493,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究班では、ホルモン受容機構異常に起因する難病とその関連疾患の調査・解析を行う。特に、甲状腺ホルモン受容機構異常症、副甲状腺ホルモン受容機構異常症ならびに糖尿病インスリン受容機構異常症を対象とする。甲状腺関連疾患では(1)甲状腺クリーゼの診療指針 (2)バセドウ病悪性眼球突出症の診断基準 (3)TSH受容体異常症例の集積 (4)甲状腺ホルモン不応症の診断基準 (5)甲状腺ホルモン受容体に変異のない症例の解析 (6)粘液水腫性昏睡の診断基準、副甲状腺関連疾患では (1)FGF23関連低リン血症性疾患の診療指針作成 (2)X染色体優性低リン(XLH)血症性くる病の診療指針 (3) ビタミンD不足・欠乏症の診療指針 (4)ビタミンD不足を規定する血清25水酸化ビタミンD閾値解析 (5) ビタミンD不足の骨脆弱性研究 (6)偽性副甲状腺機能低下症の診断基準の改訂、糖尿病関連疾患では (1)B型インスリン抵抗性糖尿病の治療指針 (2)C型インスリン抵抗症糖尿病の診療指針の策定を行う。
研究方法
甲状腺ホルモン受容機構異常症、副甲状腺ホルモン受容機構異常症(ならびに糖尿病インスリン受容機構異常症の発症に関連する甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン (TSH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、活性型ビタミンDならびにインスリンなどのホルモン作用による受容体と細胞内情報伝達系の解析およびこれらの受容機構異常の疾患モデルとなる遺伝子改変動物の解析に基づき、病態の解明や新規治療法の開発への基盤を築く。これらの情報に立脚して臨床例の病態解析や、遺伝子異常の診断法、血中ホルモン濃度測定系の確立のみならず、診断基準や治療指針の策定を行った。3つの各関連疾患における基礎と臨床情報の統括や臨床サンプルの相互連携、発表運営などの調整は主任研究者が行った。倫理面への配慮:健常者或いは患者を対象とした検討は、各施設の倫理委員会の承認のもと個人情報の機密保持と人権の尊重を最優先とし、充分な説明を行った上でインフォームドコンセントを取得し得た場合にのみ行われた。動物実験も各施設の倫理基準に沿った計画の下で遂行した。動物の屠殺にあたっては適切な麻酔法等を十分考慮し苦痛を最小限に留めるよう配慮した。
結果と考察
甲状腺関連疾患:(1)甲状腺クリーゼの全国疫学調査により確実282例と疑い74例が集積され、致死率は11%以上で生存者でも中枢神経系疾患を中心に重篤な後遺症残り、非常に重症な疾患であることが判明した。予後改善のために関連学会との共同のもとで診断・治療のアルゴリズムや重症度分類と治療の診療ガイドラインの作成を行う。 (2)バセドウ病悪性眼球突出症の診断基準(案)を策定し、内科医と眼科医が共に眼症患者の診療にあたることを推奨した。(3) TSH受容体異常症の診断基準策定のための症例集積が成された。(4) ~(5) 甲状腺ホルモン不応症の診断基準を策定し、ホームページ等を用いて広報後、多数症例のTRβ遺伝子解析を無料で実施した。これに伴い本症と診断し得た症例数も増加している。 (6) 粘液水腫性昏睡の診断基準(案)を策定し、治療のためのL-T4静注製剤保存の安定性を検討した。副甲状腺関連疾患:(1),(2) FGF23関連低リン血症性疾患の診断を確立し、その疫学調査を行った結果により、FGF23関連低リン血症性疾患の病因は多様であり、FGF23の本症診断におけるカットオフ値を決定した。また、出生後速やかにFGF23測定を行うとXLH児の早期診断に有用であり、抗FGF23中和抗体は低身長改善に有用であることが示唆された。(3)~(5) ビタミンD不足・欠乏症のガイドラインの病因鑑別のフローチャートは有用であるが、乳幼児のビタミンD欠乏性くる病を完全に診断するには改善の余地があった。また、血清FGF23値はビタミンD欠乏性くる病と遺伝性低リン血症性くる病の鑑別に有用であった。(6) 本研究班により過去に策定した疑性副甲状腺機能低下症の診断の手引きについて、最新の分子生物学的解析の成果をもとに改訂する必要があった。(7) Calcilyticsは常染色体優性低カルシウム血症の治療薬になることが示唆された。糖尿病関連疾患:インスリン受容体異常症B型ならびにC型の診療指針の作成のために、症例が集積された。
結論
これらの疾患は比較的稀であるが、これらの診断基準を策定して全国調査を実施し患者数の実態を把握して、治療指針を確立する。世界的にみてもこれらの疾患の診断および治療指針は未だ確立されていない。さらに一般医家や患者さんに対する公開講座を実施することにより診療指針の啓蒙と浸透を図る。以上の成果は国民の健康と福祉を向上させる上で大きな社会貢献となることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-23