ベーチェット病に関する調査研究

文献情報

文献番号
201324009A
報告書区分
総括
研究課題名
ベーチェット病に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石ヶ坪 良明(横浜市立大学 大学院医学研究科 病態免疫制御内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 岩渕 和也(北里大学 医学部)
  • 鈴木 登(聖マリアンナ医科大学)
  • 桑名 正隆(慶應義塾大学 医学部)
  • 水木 信久(横浜市立大学 大学院医学研究科)
  • 広畑 俊成(北里大学 医学部)
  • 黒沢 美智子(順天堂大学 医学部)
  • 蕪城 俊克(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 後藤 浩(東京医科大学)
  • 中村 晃一郎(埼玉医科大学)
  • 齋藤 和義(産業医科大学 医学部)
  • 椎名 隆(東海大学 医学部)
  • 南場 研一(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 岳野 光洋(横浜市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
24,993,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はBehҫet病(BD)の国内診療レベルの向上に寄与する診療ガイドラインを確立するとともに、発症に関与する病因(遺伝素因、環境因子)を同定し、病態を解明新規治療、予防法を開発することを目的とする。
研究方法
1. 米国NIH Kastner博士のグループとの共同研究で、関節リウマチ(RA)やクローン病など12種類の免疫関連疾患の疾患感受性186遺伝子座のSNP多型が解析できるImmunoChipを用いて日本およびトルコのBD患者を解析した。
2. BD患者末梢血メモリーCD4+T細胞のIL-12、IL-23、IL-35、抗IL-23抗体(p19)などIL-12ファミリーに対する反応性を健常者と比較検討した。また、Th22と疾患活動性の関連を検討した。
3. マウス実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)モデルにNKT1偏倚リガンドRCAI-56 (α-carba-GalCer),プロトタイプリガンドα-GCおよびNKT2偏倚リガンド化合物を投与し、その影響を解析した。
4. 1794例のベーチェット病の臨床調査個人票を経年追跡し、重症度(StageⅠ~Ⅴ)の進行を「悪化」と定義し、その予後因子を解析した。また、日本の将来推計人口を基に患者の年齢分布と患者数の将来予測を行った
5. 眼病変に対するインフリキシマブ(IFX)治療患者を対象にIFXトラフ濃度、抗IFX抗体の解析、Behçet disease ocular activity score24 (BOS24)による評価などを行った。
6. 慢性進行型神経BD(CPNB)の長期経過を調査票に基づき解析した。
7. 腸管ベーチェット病に対するIFXの効果を指標に解析した。
8.関連文献と研究班8施設105例の血管型症例を再解析し、ワーキンググループで討議の上、血管型診療ガイドライン素案を作成した。
結果と考察
1. ImmunoChipによりIL1A-IL1B、 SCHIP1-IL12A、 IRF8、 PTPN1、EGR2領域が新たに感受性遺伝子として同定された。
2. BD患者検体の解析ではTh1、Th17が病態に関与し、IL-22は治療効果の発現に伴う活動性低下と関連していた。
3. 新規NKT細胞リガンドRCAIはぶどう膜炎マウスモデルに予防的効果を示したが、発症後はむしろ増悪に働いた。
4.臨床調査個人票を用い、新規申請時の「潜血・下血の症状あり」「皮膚の針反応あり」が1年後の悪化因子になることが示された。また、日本の高齢化に伴い、ベーチェット病患者も高齢化することが予想され、その対策が望まれる。
5. 眼病変に対するインフリキシマブ(IFX)治療患者では眼発作頻度の減少だけなく、BOS24で表される発作の重症度も減少した。また、抗IFX抗体の存在がIFX治療効果減弱および投与時反応に関与し、メソトレキサート(MTX)併用が防御的に作用した。
6. 慢性進行型神経型の解析では、MTXの進行阻止効果が確認されたが、IFXの治療効果は明らかではなかった。
7. 腸管型ではMTX併用によるIFXが長期に渡り高い有効性を維持し、安全性も高いことが明らかにされた。
8.文献と研究班内施設の症例解析をもとに血管型ガイドライン案を作成した。
結論
2010年のGWAS以後、新規手法を用いトルコ、米国との共同研究で種々の疾患感受性遺伝子を同定し、今後はその機能的な解析を進めることで、病因に迫り、病態が明らかになると期待される。臨床的な最大の課題であった診療ガイドラインについて、血管型の案が完成したことですべて公開されるレベルに至り、今後、評価を受け、さらに実用性の高いものに改訂していきたい。

公開日・更新日

公開日
2014-07-23
更新日
2015-06-30

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201324009B
報告書区分
総合
研究課題名
ベーチェット病に関する調査研究
課題番号
H23-難治-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石ヶ坪 良明(横浜市立大学 大学院医学研究科 病態免疫制御内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 岩渕 和也(北里大学 医学部)
  • 鈴木 登(聖マリアンナ医科大学)
  • 桑名 正隆(慶應義塾大学 医学部)
  • 水木 信久(横浜市立大学 大学院医学研究科)
  • 広畑 俊成(北里大学 医学部)
  • 黒沢 美智子(順天堂大学 医学部)
  • 蕪城 俊克(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 後藤 浩(東京医科大学)
  • 中村 晃一郎(埼玉医科大学)
  • 齋藤 和義(産業医科大学 医学部)
  • 椎名 隆(東海大学 医学部)
  • 南場 研一(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 岳野 光洋(横浜市立大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はBehҫet病(BD)の国内診療レベルの向上に寄与する診療ガイドラインを確立するとともに、発症に関与する病因(遺伝素因、環境因子)を同定し、病態を解明新規治療、予防法を開発することを目的とする。
研究方法
1.診療ガイドラインは眼病変、腸管型、神経型、血管型各病型別に作成したが、文献に加え、研究班内施設BD患者の後方視的解析、全国アンケート調査結果に基づき日本の実情にあったものの作成を目指した。
2. インフリキシマブ(infliximab:IFX)治療患者のIFX血中トラフ値、抗IFX抗体と効果との関連を解析した。
3. 眼病変活動性を客観的に評価するBehçet disease ocular activity score24 (BOS24)を開発した。
4. 米国NIHとの共同研究でimputation法、エクソンシークエンス、ImmunoChip法(免疫関連12疾患の感受性遺伝子186遺伝子座のSNPs解析キット)を用いて、日本人、トルコ人BD患者の疾患感受性遺伝子を同定した。
5. ヒト由来HLA-B51のα1α2ドメインにマウス由来α3ドメインからなるキメラ遺伝子とヒト由来β2ミクログロブリン遺伝子を導入した第三世代Tgマウスを作製する。
6. BD患者末梢血の Th1(IFN-γ産生細胞)、Th17(IL-17産生細胞、CD4+CCR6+CCR4+)、Th22(CD4+CCR6+CCR10+)の頻度、およびその機能に関連する分子の発現を蛋白レベル、mRNAレベルで解析した
7. マウス実験的自己免疫性ぶどう膜炎やLPS誘導性ブドウ膜炎モデルなどのモデルに対する新規NKT細胞リガンドRCAI、IMD-0354(IKKリン酸化依存性NF-B活性化阻害薬)の治療効果を検討した。
8. ホームページを活用して、研究成果の情報提供と患者の相談に応じた。
結果と考察
1. 本研究終了までに眼病変(平成22年12月)、腸管型(平成22年12月、最新改訂平成25年9月)、神経型診断(平成22年12月)、同治療(平成25年12月)、血管型(平成26年2月)の診療ガイドライン(案)を公開した。
2. 抗IFX抗体の出現はIFXトラフレベルの低下を招き、臨床効果も減弱するだけでなく、投与時反応を引き起こす。メトトレキサート併用、投与期間短縮がその対策となる。
3. BOS24は評価者間一致率も高く、眼病変活動性を客観的に評価できる。これを用いるとIFX投与による眼発作の重症度の低下が明確であった。
4. 2010年のGWASの IL23R/IL12RB2、IL10に続き、CCR1、STAT4、KLRC4、ERAP1、TLR4、NOD2、MEFV、IL1A-IL1B、SCHIP1-IL12A、 IRF8、PTPN1、FUT2が新規疾患感受性遺伝子として同定された。ほとんど免疫機能分子で、TLR4、NOD2などは外来微生物の認識機構の病態への関与を示している。また、ERAP1リスクアレルとHLA-B*51のエピスタシスはHLA-B51に提示される何らかの(自己)抗原の病因的意義をを示唆している。
5. 第三世代HLA-B51Tgマウスが完成し、ERAP1リスクアレルノックインマウスと合わせ、ERAP1とHLA-B*51のエピスタシスの病因的意義が解明、さらにはヒトBD病態を再現するモデルマウスの確立が期待される。
6. BD患者検体の検討で、Th1、Th17、Th22などの病態への関与が示された。
7. 動物モデルによりNKT細胞リガンドRCAI、NF-kB阻害薬 による新規治療の可能性が示唆された。
8. ホームページで上記情報を発信するだけなく、年間30~50件の患者相談に応じ、内容の一部を書籍化した。
平成24年7月13日~15日の第15回国際ベーチェット病会議(横浜、会長 石ヶ坪)、第7回国際シルクロード病(ベーチェット病)患者の集い、平成25年12月20日の第5回 日本・韓国ベーチェット病合同会議(横浜、会長 石ヶ坪)を開催し、この分野の国際交流を深めたことに関しても本研究班の貢献は意義深いものと考察している。
結論
基礎的には多くの免疫関連の疾患感受性遺伝子が同定され、病因、病態解明に大きな前進がみられ、臨床的にも病型別のガイドライン(案)も予定のものがすべて公開できた。これらの成果の最大の要因はベーチェット病研究班創設以来、リウマチ内科、眼科、皮膚科、消化器内科各専門医および基礎研究医が一同に集う研究体制が継続されてきたことにある。今後も現行に近い研究体制を維持できるよう行政側からもご支援いただくことを切にお願いし、本研究の結びとしたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201324009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
GWAS以後、トルコ、米国との共同研究でimputation法、エクソンシークエンス、ImmunoChip法などを用いて、CCR1、STAT4、KLRC4、ERAP1、TLR4、NOD2、MEFV、IL1A-IL1B、SCHIP1-IL12A、IRF8、PTPN1、FUT2などの新規疾患感受性遺伝子を同定した。ERAP1リスクアレルはHLA-B*51との間のエピスタシスは病因的に重要な知見で、現在、遺伝子改変マウスを用いた検討を開始した。
臨床的観点からの成果
眼病変では客観的眼病変活動スコアBOS24を確立した。抗インフリキシマブ(IFX)抗体出現が効果減弱因子と投与時反応に関与し、免疫抑制薬の併用と投与期間の短縮がその対策となることを明らかにした。また、腸管型に対するIFX治療は3年間にわたる追跡調査でも有効かつ安全であった。神経型の急性型にはステロイド、慢性型にはメトトレキサートが有効であった。国内調査では血管型に対する抗凝固薬、抗血小板薬の使用は必ずしも肺出血のリスク増強には寄与しなかった。
ガイドライン等の開発
文献のみならず研究班施設の後方視的症例解析、全国アンケートなどで資料を収集し、2009年腸管ベーチェット病診療コンセンサス・ステートメント案(平成24年改訂、平成25年9月1日再改訂)、神経型の診療のガイドライン試案(平成25年12月1日)、血管型診療ガイドライン案(平成26年2月23日)を作成し、公開した。すでに平成22年までに公開したものに対するアンケート調査で問題点を解析し、その意見の一部を改訂に反映させた。また、上記の臨床観点からの成果は改訂時に逐次追加していく予定である。
その他行政的観点からの成果
平成23年 5月  腸管ベーチェット病、単純潰瘍に対するアダリムマブ保険収載
その他のインパクト
国際学会
平成23年 12/16   第 3回日韓ベーチェット病合同会議(横浜)
平成24年 7/13-15 第15回国際ベーチェット病会議(横浜)
平成25年 12/20 第 5回日韓ベーチェット病会議(横浜)
患者向け書物
眼・口・皮膚・外陰部の炎症をくり返す―ベーチェット病難病と「いっしょに生きる」ための検査・治療・暮らし方ガイド 石ヶ坪良明著 保健同人社
ホームページhttp://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~behcet/index.html

発表件数

原著論文(和文)
81件
原著論文(英文等)
202件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
212件
学会発表(国際学会等)
140件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shimizu J, Kaneko F, Suzuki N. et al.
Skewed Helper T-Cell Responses to IL-12 Family Cytokines Produced by Antigen-Presenting Cells and the Genetic Background in Behcet's Disease.
Genet Res Int , 2013  (2013)
原著論文2
Andoh Y, Onoé K, Iwabuchi K,et al
Natural killer T cells are required for lipopolysaccharide-mediated enhancement of atherosclerosis in apolipoprotein E-deficient mice.
Immunobiol , 218 (4) , 561-569  (2013)
原著論文3
Kirino Y,Ishigatsubo Y, Takeno M,et al
Targeted resequencing implicates the familial Mediterranean fever gene MEFV and the toll-like receptor 4 gene TLR4 in Behçet disease.
Proc Natl Acad Sci U S A. , 110 (20) , 8134-8139  (2013)
原著論文4
Hisamatsu T,Takeno M,Inoue N,et al
The 2nd edition of consensus statements for the diagnosis and management of intestinal Behçet's disease: indication of anti-TNFα monoclonal antibodies.
J Gastroenterol. , 49 (1) , 156-162  (2014)
原著論文5
Kaburaki T, Namba K, Sonoda KH,et al
Ocular Behçet Disease Research Group of Japan. Behçet's disease ocular attack score 24: evaluation of ocular disease activity before and after initiation of infliximab.
Jpn J Ophthalmol. , 58 (2) , 120-130  (2014)
原著論文6
Kikuchi H, Takayama M, Hirohata S
Quantitative analysis of brainstem atroph y on magnetic resonance imaging in chronic progressive neuro-Behçet’s disease.
J Neurol Sci , 337 , 80-85  (2014)
原著論文7
Hirohata S, Kikuchi H, Sawada T,et al
Analysis of various factors on the relapse of acute neurological attacks in Behçet's disease.
Mod Rheumatol  (2014)

公開日・更新日

公開日
2014-06-02
更新日
2017-06-12

収支報告書

文献番号
201324009Z