難治性神経因性疼痛の基礎疾患の解明と診断・治療精度を向上させるための研究

文献情報

文献番号
201323005A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性神経因性疼痛の基礎疾患の解明と診断・治療精度を向上させるための研究
課題番号
H23-痛み-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
池田 修一(国立大学法人信州大学  医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 倫政(国立大学法人北海道大学大学院医学研究科)
  • 加藤 博之(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 川真田樹人(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 福島 和広(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 平田 仁(国立大学法人名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 神田 隆(国立大学法人山口大学大学院医学系研究科)
  • 長櫓 巧(国立大学法人愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 高嶋 博(国立大学法人鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  • 塩沢 丹里(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 田渕 克彦(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 西川 典子(国立大学法人 愛媛大学大学院医学系研究)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性神経因性疼痛の原因として多発神経炎、腕神経叢・腰仙骨神経叢の炎症、手根管症候群などが挙げられる。本研究では難治性神経因性疼痛の基礎疾患を明らかにし、その治療法を確立することを目指す。
研究方法
今年度はi) 手根管症候群 (CTS) の疼痛の発生機序の解明、手術後の患者立脚点に立った機能改善度の評価、ii) 複合性局所疼痛症候群 (CRPS) に関する専門医の認知度と患者の転機、iii) 神経痛性筋萎縮症(NA)のガイドライン作成と疫学調査、iV) 疼痛を主訴とする末梢神経炎の基礎疾患の検索と病態解析、V) 子宮頸がんワクチン接種後の副反応として出現している四肢の慢性疼痛の実態調査と成因解明の5点を重点的に取り組んだ。
(倫理面への配慮)
本研究グループの構成員は研究を開始するに当って、所属施設の倫理委員会の承認を受ける。また対象となる患者に対しては本研究の主旨を十分に説明して、同意が得られた患者のみに検査と治療を行う。
結果と考察
i) CTSの成因として手根管部における正中神経の機械的圧迫が重視されているが、岩崎は造影剤を併用した超音波検査法により同部位の血流障害を定量的に評価する方法を開発した。また平田、加藤はCTS対する手術療法の治療効果を患者立脚点からHAND20、VAS、CTSI、QuickDASH、SF-8などの指標を用いて評価した。ii) 長櫓、川真田は本邦におけるCRPSの認知度と患者の長期予後に関する全国アンケート調査を別々に行い、その結果を報告した。iii) 神田、高嶋、池田は四肢の疼痛を初発として発症する末梢神経障害として、糖尿病、神経サルコイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチーに注目して、その病態を報告した。加藤は上肢の激烈な痛みで発症し、後に高度な手の麻痺を呈する前・後骨間神経麻痺の成因と治療法を確立する目的で、多施設前向き研究を開始しており、その途中経過を報告した。またくびれ局所の末梢神経病変の病理組織像の検討で病変より近位部では末梢神経の軸索再生像が顕著であるが、くびれ部より遠方へは軸索が伸びていないことが示された。池田は神経痛性筋萎縮症(Neuralgic amyotrophy: NA)の診断ガイドラインを作成し、これを基に全国の手の外科専門医を対象としたアンケート調査を行った。その結果、69例のNA患者のデーターを得た。81.5%が初診患者であり、治療は神経内科へ紹介していた。iV)国民向けの啓蒙活動として宇部市、鹿児島市、札幌市で市民公開講座を開催した。V) 平成25年9月に子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者の診療指針を作成し、厚生労働省の広報室を介し全国に配布した。さらに班員が所属する施設では、この患者さんの専門的診療にあたり、その数は49名である。研究代表者の施設へは32名が受診し、この中の28名が本ワクチン接種との関連が疑われた。主な症状は難治性の頭痛と全身倦怠感、手足の疼痛であり、その基礎疾患としては、起立性調節障害6名、反応性関節炎2名、筋膜炎2名、複合性局所疼痛症候群(CRPS)1名を確定することができ、残り13名ではCRPSの診断基準は満たさないが、末梢性の交感神経障害が疼痛の原因であるとする客観的所見(皮膚温の低下、指尖容積脈波の異常、皮内無随神経線維の形態異常)を得た。これらの結果は、平成25年12月25日に厚生労働省により開催された、“平成25年度第6回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会”で研究代表者の池田が発表した。

D. 考察
 本研究班の最大の目標は四肢の痛みの重要な原因の一つに末梢神経障害があることを国民に周知することである。神経痛性筋萎縮症については今年度のガイドライン作成とアンケート調査により国内の患者状況の一部が明らかになった。また神経痛性筋萎縮症の亜型であり、高度な手指の麻痺を生じる前骨間・後骨間神経麻痺についてはその病態が不明な点が多いため、多施設間の前向き研究(Interosseous Nerve Palsy Study Japan : inPS-Japan )を立ち上げ、現在、患者の登録を行っているところである。
 子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者の実態調査と原因解明に関しては、全国患者連絡会からの要望に応じて、可能な限り速やかに診療に応じている。特に信州大学病院では重症者7名を入院加療した。これらは本研究班の社会的貢献と考える。また本ワクチンの副反応の成因として末梢性交感神経障害の可能性がある客観的所見を得たことは、国際的に通用する学術成果と考える。
結論
神経痛性筋萎縮症についてはガイドライン作成と全国的疫学調査が行われた。また子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者の実態調査と原因解明も施行した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201323005B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性神経因性疼痛の基礎疾患の解明と診断・治療精度を向上させるための研究
課題番号
H23-痛み-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
池田 修一(国立大学法人信州大学  医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩崎 倫政(国立大学法人北海道大学大学院医学研究科)
  • 加藤 博之(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 川真田  樹人(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 福島 和広(国立大学法人 信州大学医学部附属病院)
  • 平田 仁(国立大学法人名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 神田 隆(国立大学法人山口大学大学院医学系研究科)
  • 長櫓 巧(国立大学法人愛媛大学大学院医学系研究科)
  • 高嶋 博(国立大学法人鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
  • 塩沢 丹里(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 田渕 克彦(国立大学法人 信州大学医学部)
  • 西川 典子(国立大学法人 愛媛大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性神経因性疼痛の原因として、多発神経炎、腕神経叢・腰仙骨神経叢の炎症、手根管症候群などが挙げられる。しかしこれら末梢神経疾患は、画像で容易に診断することが出来ないため、誤診または診断の遅れが目立つ。本研究では難治性神経因性疼痛の基礎疾患を明らかにする。またこれら基礎疾患に対する簡便・明瞭な診断基準と治療ガイドラインの作成を行い、臨床医と国民に広く啓蒙する。
研究方法
 平成23~24年度は、神経痛性筋萎縮症(NA)の簡便な診断ガイドラインを作成し、全国の関連診療科へ配布した。またNAの発生頻度と治療内容に関する全国調査を、神経内科領域と手の外科を含む整形外科領域の2部に分けて実施した。手根管症候群(CTS)の開放術を受けた107名を対象に術前後の症状改善度の調査行った。前腕の疼痛が先行して発症する特発性前(後)骨間神経麻痺の病態と治療法開発を目指し、研究会(iNPS-Japan)と独自のホームページを立ち上げ、全国の専門医の参加と前向き研究を目的として患者登録を開始した。平成23年度に長野県上田市、平成24年度に松山市、名古屋市、平成25年度に宇部市、鹿児島市、札幌市にて市民公開講座を開催した。
 子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者の実態調査に関しては、急遽研究班内に分科会を組織して、診療指針の作成と患者の実態調査を行った。
結果と考察
i) ガイドライン作成
 作成した神経痛性筋萎縮症(NA)の診療ガイドラインは、平成25年度には日本末梢神経学会の承認も得た。
ii)実態調査
 神経痛性筋萎縮症(NA)の診療実態を把握するために、平成24年度に日本神経学会代議員の在籍する国内全施設(543施設)にアンケートを送付し、うち117施設(回収率:21.5%)から回答を得た.32%が診療実績あり、68%が該当無しであった。また診療経験のある施設では初期治療としてステロイドパルス療法、免疫グロブリンの大量静注療法(IVIg)などの積極的な治療法が行われていた。平成25年度には日本手の外科学会代議員223名を対象に同様なアンケートを送付し、69名から回答を得た(回収率:29.6%)。全体の39.1%の施設でNA患者の診療経験があり、その内81.5%が初診患者であった。治療に際しては大部分の患者を神経内科へ紹介していた。
 特発性前(後)骨間神経麻痺の病態と治療法開発を目指す多施設前向き共同研究会iNPS-Japanへの参加状況は、現時点で施設として47、患者数として51名が登録されている。
iii)基礎疾患の病態解明
 手根管症候群(CTS)患者の手術前後の状態をHand20、DASH等の指標で評価したが、術後6ヶ月の時点で全例、しびれ・痛み等の症状が残存していることが判明した。また糖尿病性神経障害、神経サルコイドーシスが原因の神経因性疼痛の診断は困難であることが明らかとなった。
iV)子宮頸がんワクチンの副反応に関する部会
 平成25年9月に子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者の診療指針を作成し、厚生労働省の広報室を介し全国に配布した。また班員が所属する施設において49名の患者を診療した。信州大学病院へは32名が受診しており、この中の28名が本ワクチン接種との関連が疑われた。主な症状は難治性の頭痛と全身倦怠感、手足の疼痛であり、その原因として末梢性の交感神経障害を示す客観的所見(皮膚温の低下、指尖容積脈波の異常、皮内無随神経線維の形態異常)を得た。
D. 考察と評価
 特発性前(後)骨間神経麻痺の病態と診断基準に関しては、国内外ともに混沌としている。多施設前向き共同研究会であるiNPS-Japanの今後の研究成果により、上記が解明されれば、学術的意義が大きい。子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者に関しては、全国患者連絡会からの要望に応じて、可能な限り速やかに診療に応じている。本ワクチンの副反応の成因として末梢性交感神経障害の可能性がある客観的所見を得たことは、国際的に通用する学術成果と考える。
 神経痛性筋萎縮症に代表される神経因性疼痛は、治療可能な疾患であることを、一般医家と国民に啓蒙することで、国の厚生医療政策に貢献できる。また子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者の実態調査と原因解明を進めて、本ワクチンの接種再開に向けての条件を整えることで、国の予防医療政策に貢献できる。
結論
 難治性神経因性疼痛の基礎疾患の解明と治療法確立を目的として、本研究班の活動を3年間行った。そして神経痛性筋萎縮症の診療ガイドラインの作成、特発性前(後)骨間神経麻痺に関する多施設前向き共同研究会であるiNPS-Japanを立ち上げて、患者の登録を開始した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201323005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
神経痛性筋萎縮症の発症機序として、腕神経叢の免疫介在性炎症が考えられる。その検出法としてMRI STIR法の有用性を見出した。また本症患者の血清中に特異的抗ガングリオシド抗体が存在するかどうかを検索したが、結果は陰性であった。手根管症候群(CTS)患者の手術前後の状態をHand20、DASH等の指標で評価したが、術後6ヶ月の時点で全例、しびれ・痛み等の症状が残存していることが判明した。CTSが全身性アミロイドーシス、特に老人性全身性アミロイドーシスの初発症状として重要である。
臨床的観点からの成果
特発性前(後)骨間神経麻痺の病態と治療法開発を目指す多施設前向き共同研究会interosseous nerve palsy study (iNPS-Japan)を立ち上げた。現時点での参加状況は施設として47、患者数として51名が登録されている。神経痛性筋萎縮症の診療経験について日本神経学会員と日本手外科学会員を対象にアンケート調査した。35〜40%の頻度で診療経験があることが判明した。
ガイドライン等の開発
神経痛性筋萎縮症の診断ガイドラインを作成して、平成25年度に日本末梢神経学会の承認を得た。また平成25年9月には子宮頚がんワクチン接種後の副反応患者の診療指針を提唱した。
その他行政的観点からの成果
子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者の全国的診療体制を確立して、診療に当っている。また代表者の池田は平成25年12月25日に厚生労働省で開催された“平成25年度第6回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会”で調査結果を発表した。
その他のインパクト
子宮頸がんワクチン接種後の副反応を呈する患者を診療する中で、主な症状は難治性の頭痛と全身倦怠感、手足の疼痛であり、その原因として末梢性の交感神経障害を示す客観的所見( 皮膚温の低下、指尖容積脈波の異常、皮内無随神経線維の形態異常)を得た。本所見は新知見であり、今後の治療法を検討する上で重要と考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
31件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-06-03
更新日
2018-06-11

収支報告書

文献番号
201323005Z