「痛み」に関する教育と情報提供システムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
201323003A
報告書区分
総括
研究課題名
「痛み」に関する教育と情報提供システムの構築に関する研究
課題番号
H23-痛み-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 政彦(国立大学法人大阪大学 医学系研究科疼痛医学寄附講座)
研究分担者(所属機関)
  • 井関 雅子(順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座)
  • 横山 正尚(高知大学教育研究部医療学系医学部門麻酔科学・集中治療医学講座)
  • 山下 敏彦(札幌医科大学医学部整形外科学教室)
  • 小山 なつ(滋賀医科大学医学部生理学講座)
  • 池本 竜則(愛知医科大学運動療育センター)
  • 中塚 映政(関西医療大学保健医療学分野疼痛医学分野)
  • 細井 昌子(九州大学大学院医学研究院心療内科)
  • 宮岡 等(北里大学医学部精神科学講座)
  • 亀田 秀人(慶應義塾大学医学部リウマチ内科)
  • 今村 佳樹(日本大学歯学部口腔診断学)
  • 大島 秀規(日本大学医学部機能形態学系生体構造医学分野)
  • 平田 幸一(獨協医科大学医学部神経内科)
  • 沖田 実(長崎大学大学院医歯薬総合研究科リハビリテーション科)
  • 住谷 昌彦(東京大学医学部附属病院医療機器管理部)
  • 和佐 勝史(大阪大学医学科教育センター)
  • 竹下 克志(東京大学大学院医学系研究科整形外科学)
  • 中村 雅也(慶應義塾大学医学部整形外科学)
  • 牛田 享宏(愛知医科大学学際的痛みセンター)
  • 井上 玄(北里大学医学部整形外科学講座)
  • 矢谷 博文(大阪大学大学院歯学研究科統合機能口腔学)
  • 和嶋 浩一(慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室)
  • 川真田 樹人(信州大学医学部麻酔科蘇生学講座)
  • 鈴木 勉(星薬科大学薬品毒性学教室)
  • 三木 健司(尼崎中央病院整形外科)
  • 北原 雅樹(東京慈恵医科大学麻酔科学講座)
  • 堀越 勝(精神・神経医療研究センター認知行動療法センター)
  • 史 賢林(大阪大学大学院医学系研究科器官制御学講座)
  • 長櫓 巧(愛媛大学大学院医学系研究科生体機能管理学分野麻酔学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性の痛みを診療する医療システムの構築」は重要であるが、そのシステム構築の前提として「医療者への教育」と「一般市民への教育」とが不可欠である。「痛みの教育」への取り組みは、近年、欧米先進国においても様々な形で実施されてきたが、本邦においては疾患別の限定的な取り組みにとどまっており、今後は計画的な長期的取り組みが必要となる。痛みは医療の原点であり、その教育の充実は医療の質の改善に大きく寄与する。患者の立場に立った医療の実現には痛みに対する取り組みは不可欠であり、正しい知識や適切な考え方を共有することはその基盤となる。
一般国民が痛みに関する正しい知識を容易に入手できる情報機関の設立を目標とした。
研究方法
H25年度は、リハビリテーション医学用、歯学教育用及び薬学教育用コンテンツの新規作成及び医学教育用コンテンツの修正、理解度確認問題を作成した。他、日本疼痛学会、日本ペインクリニック学会、日本緩和医療学会、日本慢性疼痛学会、日本運動器疼痛学会、日本口腔顔面痛学会、NPO法人いたみ医学研究情報センターのホームページにリンクし、普及に努めた。
H25年度に2回の班会議、3回の市民公開講座を開催した。2回の医療者向け研修会を実施した。
国際疼痛学会次期会長Prof. Rolf-Detlef Treedeに連絡し、ドイツにおける痛み教育の現状についての情報を取得した。
結果と考察
H26年2月13日現在、総ダウンロード数4400件(医学教育用初版2736件、リハビリテーション医学用778件、医学教育用改訂版664件、歯学教育用200件、理解度確認問題359件)であり、現在なお順調にダウンロード数が増えている。NPO痛み医学研究情報センターが主催し当研究班が共催した医療者向け研修会「慢性の痛みワークショップ」は、慢性の痛み患者の診療法を本コンテンツの内容をもとに解説するもので、参加者は、医師、リハビリ療法士、その他の医療系職業につくものであった。また、医療者研修会参加者の講評は極めて良好で、日本全国で行われることを希望する意見が多かった。
ドイツにおける痛み教育の現状についての情報を取得した。ドイツにおいては痛みの教育の普及は、ドイツ疼痛学会(国際疼痛学会のドイツ支部)が主導し2008年にCore Curriculumが作成された。痛みの基礎医学、痛みと心理、痛みと社会との関係、プラセボ、条件付け、慢性痛と急性痛、各種治療など教育の内容は我々のコンテンツと極めて近いものであった
教育資材は、質の高い痛みの診療を根付かせるために必要な基本的知識を正確にかつわかりやすく伝えることを目的としたため、既存の資料を単に整理するのではなく、根拠に基づいた情報を取り上げ、統一した理念に基づいて幅広い内容を網羅した。特徴的なものとしては、痛みと精神心理的側面、痛みとリハビリテーション、痛みの疫学と社会への影響、手術療法の位置づけなどを取り上げたことである。症例提示を活用し、講義を受けるものの興味を惹き、理解しやすいための工夫を加えた。従来、「生物学モデル(Biological model)」に基づいて実施されてきた医学教育の中に、「生物心理社会モデル(Biopsychosocial model)」を分かりやすく表現することは困難であったが、有能な研究者の協力によって可能となった。スライドのみでは理解の難しい内容に関してはパワーポイントのノート機能を活用して補足した。今後リハビリテーション医学用、歯学教育用、薬学教育用などが利用可能となり、より専門的な領域において充実した内容になることが期待できる。
今回、痛みの教育コンテンツが完成し、痛みに関する正しい知識や適切な考え方の普及のための基盤を構築することができた。今後さらに本コンテンツの内容が、一般の医療者に正しく理解されるまで普及するよう継続的に取り組む必要がある。ドイツにおける痛み教育の実態調査の結果から、痛み教育の内容は徐々に洗練され、国際的に共通のものが確立されつつあることが確認できた。痛みの表出は国民性や文化の影響が少なくないと思われるが、学問体系は共通であるべきものであり、本教育コンテンツがドイツの教育内容と結果的にほぼ同じであったことは、内容が適切なものであることを裏付けた。
結論
1. 医学、歯学、リハビリ教育用の痛みの教育コンテンツという講義用スライドセットを作成し、自由にダウンロードできるシステムを構築した。
2. 作成した教育用コンテンツを利用して医療者向けセミナーなどを開催し、痛みに関する正しい知識の普及を行った。
3. ドイツにおける痛み教育の実態を調査比較し、国際的評価にも耐えうる内容であることが確認できた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201323003B
報告書区分
総合
研究課題名
「痛み」に関する教育と情報提供システムの構築に関する研究
課題番号
H23-痛み-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 政彦(国立大学法人大阪大学 医学系研究科疼痛医学寄附講座)
研究分担者(所属機関)
  • 池本 竜則(愛知医科大学運動療育センター)
  • 井関 雅子(順天堂大学医学部麻酔科・ペインクリニック講座)
  • 横山 正尚(高知大学教育研究部医療学系医学部門麻酔科学集中治療医学講座)
  • 山下 敏彦(札幌医科大学医学部整形外科学教室)
  • 小山 なつ(滋賀医科大学医学部生理学講座)
  • 中塚 映政(関西医療大学保健医療学部疼痛医学分野)
  • 細井 昌子(九州大学大学院医学研究院心療内科)
  • 宮岡 等(北里大学医学部精神科学)
  • 亀田 秀人(東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野)
  • 今村 佳樹(日本大学歯学部口腔診断学)
  • 大島 秀規(日本大学医学部機能形態学係生体構造医学分野)
  • 平田 幸一(獨協医科大学医学部神経内科)
  • 沖田 実(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科リハビリテーション部)
  • 住谷 昌彦(東京大学医学部附属病院医療機器管理部)
  • 和佐 勝史(大阪大学医学科教育センター)
  • 長櫓 巧(愛媛大学大学院医学系研究科生体機能管理学分野麻酔学)
  • 竹下 克志(東京大学大学院医学系研究科整形外科学)
  • 中村 雅也(慶應義塾大学医学部整形外科学)
  • 牛田 享宏(愛知医科大学学際的痛みセンター)
  • 井上 玄(北里大学医学部整形外科)
  • 岩田 幸一(日本大学歯学部生理学教室口腔生理学)
  • 矢谷 博文(大阪大学大学院歯学系研究科統合機能口腔学)
  • 和嶋 浩一(慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室)
  • 川真田 樹人(信州大学医学部麻酔科蘇生学講座)
  • 鈴木 勉(星薬科大学薬品毒性学教室)
  • 三木 健司(尼崎中央病院整形外科)
  • 北原 雅樹(東京慈恵医科大学麻酔科ペインクリニック)
  • 堀越 勝(国立精神医療研究センター認知行動療法センター)
  • 史 賢林(大阪大学大学院医学系研究科器官制御学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「痛みの教育」への取り組みは、近年、欧米先進国においても様々な形で実施されてきたが、本邦においては疾患別の限定的な取り組みにとどまっており、今後、計画的かつ長期的取り組みが必要である。痛みは医療の原点であり、その教育の充実は医療の質の改善に大きく寄与する。患者の立場に立った医療の実現には痛みに対する取り組みは不可欠であり、正しい知識や適切な考え方を共有することはその基盤となる。誰でも痛みに関する正しい知識を容易に入手できるシステムを構築し、教育資材を普及させ、それらを活用して普及活動に役立てることを目標とした。
研究方法
研究代表者分担者が協力し、痛みの教育コンテンツの枠組みを作成した。その枠組みに応じて、研究分担者は各人が専門とする分野のパワーポイントファイル(初版:総数188枚)を作成した。医学教育用「痛みの教育コンテンツ」はH24年8月に初版を公開した。利用状況をモニターできるよう設計した。また、本システムは利用者へのメールアンケート機能を有し、使用感、修正案などの意見を収集し、改訂や普及方法の検討資料とすることができる。H24年度にその機能を活用し、使用状況についてのアンケートを実施した。「痛みの教育コンテンツ」公開案内文を全国関連のある部署の科長、医局長、教育担当者あてに郵送し広報に努めた。更に、日本疼痛学会、日本ペインクリニック学会、日本緩和医療学会、日本運動器疼痛学会、日本慢性疼痛学会、日本口腔顔面痛学会、日本麻酔科学会に協力を要請し、各学会からの支持を得るとともに各ホームページにリンクした。リハビリテーション医学用をH25年11月15日、医学教育用改訂版をH25年11月25日に公開した。医学教育用改訂版をH26年1月8日に公開した。歯学教育用はH26年1月17日に公開した。薬学教育用は製作中の段階で完成には至らなかった。また、医学教育用のコンテンツの理解度を確認するために83問の問題を作成し、H26年1月17日に公開した。これらの資材を活用して、NPO痛み医学研究情報センター(いたみラボ)と協力し、市民公開講座と医療者向け研修会「慢性の痛みワークショップ」を開催した。海外における痛みの教育状況を把握するために、次期国際疼痛学会会長である Rolf-Detlef Treede教授に協力を依頼し、ドイツの医学教育カリキュラムにおける痛み教育の現状について調査した。
結果と考察
H26年5月8日現在、総ダウンロード数4861件(医学教育用初版2826件、改訂版1174件、リハビリテーション医学用965件、歯学教育用251件、理解度確認問題402件)であり、現在なお順調にダウンロード数が増えている。NPO痛み医学研究情報センターが主催し当研究班が共催した医療者向け研修会「慢性の痛みワークショップ」は、慢性の痛み患者の診療法を本コンテンツの内容をもとに解説するもので、参加者は、医師、リハビリ療法士、その他の医療系職業につくものであった。第3回医療者研修会 「慢性の痛みワークショップ」は開催日時H25年11月17日大阪で行われ、参加人数は54名であった。ワークショップ前後に実施した痛みの理解度調査では、受講後の点数が平均17点から19.5点(20点満点)に上昇しており、ワークショップの効果が確認できた。また、医療者研修会参加者の講評は極めて良好で、日本全国で行われることを希望する意見が多かった。
ドイツにおける痛み教育の現状についての情報を取得した。ドイツにおいては痛みの教育の普及は、ドイツ疼痛学会(国際疼痛学会のドイツ支部)が主導し2008年にCore Curriculumが作成された。45分間の講義5コマと90分間の臨床実習5回とを基本構成とし、痛みの集学的アプローチ、生物心理社会モデルを基本とすることなどが強調されていた。スライドのみでは理解の難しい内容に関してはパワーポイントのノート機能を活用して補足した。今後リハビリテーション医学用、歯学教育用、薬学教育用などが利用可能となり、より専門的な領域において充実した内容になることが期待できる。
今回、痛みの教育コンテンツが完成し、痛みに関する正しい知識や適切な考え方の普及のための基盤を構築することができた。今後さらに本コンテンツの内容が、一般の医療者に正しく理解されるまで普及するよう継続的に取り組む必要がある。
結論
1. 医学、歯学、リハビリ教育用の痛みの教育コンテンツという講義用スライドセットを作成し、自由にダウンロードできるシステムを構築した。
2. 作成した教育用コンテンツを利用して医療者向けセミナーなどを開催し、痛みに関する正しい知識の普及を行った。
3. ドイツにおける痛み教育の実態を調査比較し、国際的評価にも耐えうる内容であることが確認できた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201323003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「痛み」についての知識や情報は、医療の専門分野ごとに異なっておりまとまりを欠いていた。痛みの学問の進歩と伴に「痛み」の科学が基礎医学的、臨床医学的、社会医学的に進歩してきているが、わが国においては、その進歩を包括的にまとめた出版物がなかった。本研究の成果である3種類の「痛みの教育コンテンツ」は、最先端の知見や研究成果を盛り込んだわかりやすい内容となっており、国際的な評価にも耐えうるものであることが確認できた。
臨床的観点からの成果
医療において「痛み」は患者が訴える最も多い症状であるにもかかわらず、痛覚の伝達や認知機構、痛みの発生機序、痛みが人の行動や社会にどのような影響を与えるかなどについて系等だった教育がんされてこなかった。このことは現場の医療者が患者が訴える「痛み」に対して適切に対応できない状況を生んでいる。本研究の成果である3種類の「痛みの教育コンテンツ」は約5000件のダウンロード数に至り、医療者の教育にも役立っている。NPO法人いたみ医学研究情報センターとの共催で開かれた「医療者向け研修会」にて使用された。
ガイドライン等の開発
H26年5月16日に開催された全国病院長医学部長会議にて、本研究の成果であるところの「教育コンテンツ資料公開について」(厚生労働省・慢性の痛み対策研究事業「痛み」に関する教育と情報提供システムの構築に関する研究班「痛み」研究代表者 柴田政彦)という資料が配布され紹介された。
その他行政的観点からの成果
野田聖子総務会長ら自民党の9議員が呼びかけによって「慢性の痛み対策議員連盟」の設立総会が2014年6月5日、衆議院第二議員会館で開かれた。総会には、患者会、専門医師、文部科学省、厚生労働省の担当者が参加した。各方面から「慢性の痛みの教育」の重要性を主張する意見が出され、さきがけとして当研究の取り組みが紹介された。
その他のインパクト
NPO法人いたみ医学研究情報センターとの共催で開かれた医療者向け研修会「慢性の痛みワークショップ」は、慢性の痛み患者の診療法を本コンテンツの内容をもとに解説するもので、参加者は、医師、リハビリ療法士、その他の医療系職業につくものであった。合計3回開催しており、第4回は開催日時H26年6月22日名古屋で予定されている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
全国病院長医学部長会議 慢性の痛み対策議員連盟設立
その他成果(普及・啓発活動)
4件
医療者向け研修会「慢性の痛みワークショップ」

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
柴田 政彦
痛みに関する教育と情報提供システム
HUMAN SCIENCE , 24 (1) , 22-25-  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
2018-07-04

収支報告書

文献番号
201323003Z