文献情報
文献番号
201323001A
報告書区分
総括
研究課題名
情動的側面に着目した慢性疼痛の病態解明と診断・評価法の開発
課題番号
H23-痛み-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
南 雅文(北海道大学 大学院薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 井上 和秀(九州大学 大学院薬学研究院 )
- 井上 猛(北海道大学 大学院医学研究科)
- 細井 昌子(九州大学 大学病院 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
情動的側面に着目した慢性疼痛の病態解明と診断・評価法の開発を目的とし、基礎・臨床が連携・協力して研究を進める。本研究で開発する情動関連脳領域に着目した脳機能画像計測による評価法は、患者のQOLをより直接に反映する新しい慢性疼痛評価法となることが期待される。また、慢性疼痛マーカーとなる情動関連分子の探索は、痛みによる負情動生成に関わる神経機構解明につながるだけでなく、それらマーカー分子を活用したPETなどの脳機能画像計測による評価法開発に役立つ。さらに、研究が遅れている養育環境と関連した情動と慢性疼痛との関係性に関する知見が得られることは、うつ病の蔓延化や虐待の増加に伴い養育行動の異常化が懸念される現代の養育環境を見直し、情動障害を合併した慢性疼痛の予防を促進することに繋がる。
研究方法
1)慢性疼痛における情動の役割の研究では、神経障害性疼痛モデル動物における自発痛により誘発されると考えられる抑うつ様状態を評価する目的で、報酬刺激提示時の側坐核内ドパミン遊離量をインビボマイクロダイアリシス法を用いて検討した。2)慢性疼痛マーカーとなる情動関連分子の探索では、神経障害性疼痛モデルマウスの分界条床核における定量的RT-PCR解析によって遺伝子発現変動の確認を行うと共に、慢性軽度ストレス負荷モデル(Chronic mild stress; CMS)動物の分界条床核における遺伝子発現変化と比較検討した。3)情動を指標とした脳機能画像による慢性疼痛評価法の開発では、慢性疼痛患者の抑うつ症状と感情気質について検討した。4)養育環境に関連した情動を指標とした慢性疼痛評価法の開発では、九州大学心療内科外来初診の慢性疼痛患者65名に、痛みの強度、痛みによる生活障害尺度Pain Disability Assessment Scale (PDAS)、Parental Bonding Instrument (PBI)、Pain Catastrophizing Scale (PCS)の質問紙調査を行った。
結果と考察
1)対照群において報酬刺激(30%スクロース水)提示時に観察される有意な側坐核内ドパミン遊離量上昇が、神経障害性疼痛モデル動物においては消失していることを明らかとした。本実験結果は、報酬課題時の腹側線条体神経活動が慢性疼痛患者で減弱するという検討結果と一致するものであり、慢性疼痛下での抑うつ状態、特にアンヘドニアの評価法として、実験動物での側坐核内ドパミン遊離、ヒトでの腹側線条体神経活動計測の有用性を示すものと考えられる。2)腹側分界条床核におけるβ1ノルアドレナリン受容体遺伝子および5-HT2Aセロトニン受容体遺伝子が神経障害性疼痛モデルマウスで有意かつ特異的に発現増加することを見出した。これら受容体分子が慢性疼痛評価に役立つマーカー分子となる可能性が示された。3)慢性疼痛患者では不安気質と抑うつ気質が心理的素因であることが示唆された。4)PBIの平均値(±SD)は、母親のケア24.1(±8.9)、過干渉12.6(±8.3)、父親のケア19.7(±8.8)、過干渉12.3(±7.4)であった。父親の過干渉のスコアは、痛みの強さ、生活障害、破局化と有意な正相関がみられた。また、回帰分析でも、父親の過干渉のみが慢性疼痛の痛みの強さや生活障害、破局化に関連していた。以上より、被養育体験が慢性疼痛の病態に関連する可能性が示唆された。
結論
神経障害性疼痛モデルラットにおいて、報酬刺激提示時の側坐核ドパミン遊離量増加が消失していることを明らかとした。慢性疼痛時に特異的に変動する慢性疼痛マーカー候補分子として、腹側分界条床核におけるβ1ノルアドレナリン受容体遺伝子および5-HT2Aセロトニン受容体遺伝子を見出した。これら受容体分子が慢性疼痛評価に役立つマーカー分子となる可能性が示された。ヒトにおいて不安気質と抑うつ気質が慢性疼痛患者の心理的素因であることが示唆された。心療内科を受診する慢性疼痛患者難治例では、父親の過干渉の養育スタイルが、痛みの強さ、生活障害、破局化といった痛み関連指標と関連していた。慢性疼痛難治例での父親や母親の養育スタイルは全般にケアが一般住民よりも低く、父親の過干渉が症状の重症度に差をつくるメカニズムが考えられた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-29
更新日
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