ドナーとレシピエントの双方を改変した、骨髄非破壊的新規造血幹細胞移植法の開発基盤研究

文献情報

文献番号
201322043A
報告書区分
総括
研究課題名
ドナーとレシピエントの双方を改変した、骨髄非破壊的新規造血幹細胞移植法の開発基盤研究
課題番号
H23-免疫-若手-022
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
田代 克久(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部幹細胞制御プロジェクト )
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
造血幹細胞移植は白血病等の血液疾患の根治療法として実施されているが、高齢者や合併症をもった患者(レシピエント)へ適応例は少ない。それは、全身放射線照射等の移植前処理はレシピエントへの負担が大きいためである。また、この前処理によりレシピエント骨髄の造血幹細胞ニッチ(niche:本来の居場所)が破壊されることも推察されることから、骨髄非破壊的な造血幹細胞移植法の開発が必要不可欠である。一方、骨髄非破壊状態では骨髄に多くの血液細胞が残存しているためドナー造血幹細胞の生着率が低下することが懸念される。したがって、造血幹細胞移植の適応を拡大するには、骨髄非破壊的、かつ高生着を可能とする造血幹細胞移植法の開発が重要である。そこで本研究では、アデノウイルス(Ad)ベクターを用いて機能遺伝子を導入して造血幹細胞の機能を増強する(ドナーの改変)とともに、レシピエントの骨髄内環境を操作する(レシピエントの改変)ことにより、骨髄破壊を伴わない新規造血幹細胞移植法の基盤技術を開発する。本目的達成のため、本年度は、機能増強した造血幹細胞のin vivoでの移植効率について検討した。また、サイトカイン投与によりレシピエント骨髄環境を改変した免疫不全マウスへヒト造血幹細胞を移植したときの移植効率についても検討した。
研究方法
1.ヒト造血幹細胞を含む画分であるCD34陽性細胞へ、F35型Adベクターを用いて抗アポトーシス遺伝子を導入した。その後、X線照射した免疫不全マウス(Rag2-/- Il2rg-/-マウス)へ移植して移植効率を評価した。in vitroにおける増殖能と分化能を評価した。2.Ad-GCSFと抗がん剤5-FUを投与した免疫不全マウスへドナー細胞(ヒトCD34陽性細胞)を移植し、ドナー細胞のキメリズムを解析した。
結果と考察
1.抗アポトーシス遺伝子を導入したヒトCD34陽性細胞を放射線照射した免疫不全マウスへ移植した結果、遺伝子導入していないCD34陽性細胞と比較し、移植効率が有意に向上することが明らかとなった。2.Ad-GCSFと5-FUを併用投与した免疫不全マウスへドナー造血幹細胞を移植したが、ほとんど生着がみとめられなかった。レシピエント改変法の更なる改良が必要であることが判明した。
結論
抗アポトーシス遺伝子の導入により、ドナー細胞の機能を増強できるという知見は興味深いものである。今後、遺伝子導入ではなく、低分子化合物等でも同様の作用がみとめられれば、臨床への応用も期待される。一方、レシピエント改変法については更なる改良が必要であることが判明したため、サイトカインの組み合わせ等を再検討するとともに、用いる免疫不全マウスの系統についても再考する必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201322043B
報告書区分
総合
研究課題名
ドナーとレシピエントの双方を改変した、骨髄非破壊的新規造血幹細胞移植法の開発基盤研究
課題番号
H23-免疫-若手-022
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
田代 克久(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部幹細胞制御プロジェクト )
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
造血幹細胞移植は白血病等の血液疾患の根治療法として実施されているが、高齢者や合併症をもった患者(レシピエント)へ適応例は少ない。それは、全身放射線照射等の移植前処理はレシピエントへの負担が大きいためである。また、この前処理によりレシピエント骨髄の造血幹細胞ニッチ(niche:本来の居場所)が破壊されることも推察されることから、骨髄非破壊的な造血幹細胞移植法の開発が必要不可欠である。一方、骨髄非破壊状態では骨髄に多くの血液細胞が残存しているためドナー造血幹細胞の生着率が低下することが懸念される。したがって、造血幹細胞移植の適応を拡大するには、骨髄非破壊的、かつ高生着を可能とする造血幹細胞移植法の開発が重要である。そこで本研究では、アデノウイルス(Ad)ベクターを用いて機能遺伝子を導入して造血幹細胞の機能を増強する(ドナーの改変)とともに、レシピエントの骨髄内環境を操作する(レシピエントの改変)ことにより、骨髄破壊を伴わない新規造血幹細胞移植法の基盤技術を開発する。具体的には、(1)アデノウイルス(Ad)ベクターを用いて種々のサイトカインをマウス全身で発現させることにより、造血幹細胞を効率良く骨髄から動員させる手法、つまり、「ニッチを新たに創り出す方法」を開発するとともに、(2)Adベクターを用いた遺伝子導入により機能を増強した造血幹細胞の作製を試みた。そして(3)上記のレシピエントの改変とドナー細胞の改変を併用した新規造血幹細胞移植法の開発を目指した。
研究方法
1.遺伝子工学的に改変した種々のAdベクターを用いてヒトCD34陽性細胞への遺伝子導入に適したAdベクターを選定した。その後、機能増強のための各種遺伝子をヒトCD34陽性細胞へ導入し、in vitroにおける増殖能と分化能を評価するとともに、in vivoへの生着率について検討した。2.レシピエント骨髄改変のためG-CSFやVEGFといったサイトカインの骨髄動員作用を評価した。また、VEGFについては造血幹細胞の動員機構についても解析を進めた。その後、サイトカインを投与したマウスへGFP発現骨髄細胞を移入して移植効率を解析した。3.サイトカインにて骨髄改変を施したレシピエントマウスに対して機能増強したヒトCD34陽性細胞を移植し、本手法により移植が成立するか否か検討を行った。
結果と考察
1.ヒトCD34陽性細胞への遺伝子導入にはCD46を認識して感染するF35型Adベクターが最適であることが判明した。その後、F35型Adベクターを用いて種々の機能遺伝子を導入して検討を進めたところ、抗アポトーシス遺伝子を導入することにより、in vitroにおいて分化能を保持しながら長期間増殖可能であることが明らかとなった。さらに、抗アポトーシス遺伝子を導入したヒトCD34陽性細胞は放射線照射した免疫不全マウスへの生着効率も向上していたことから、抗アポトーシス遺伝子の導入がドナー細胞の機能増強に有効であることが明らかとなった。2.骨髄動員作用を有するG-CSFとVEGFについて検討を行ったところ、G-CSFが強力な造血幹細胞動員作用を有していることが確認された。しかし、G-CSFを投与したマウスへGFP発現マウス骨髄細胞を移植したところ、生着はみとめられなかった。一方、G-CSFと抗がん剤5-FUを併用投与することにより、放射線非照射条件においてもGFP発現ドナー細胞がレシピエントへ生着することが示され、サイトカインと5-FUの併用がレシピエントの骨髄環境の改変に効果的であることが示された。VEGFについては造血幹細胞動員機構について基礎的な検討を行ったところ、VEGF投与マウスの骨髄ではニッチ細胞として知られている間葉系幹細胞数が減少しており、そのために造血幹細胞が動員されていることを示唆する知見を得た。本知見はStem Cells and Development誌に掲載された。3.GCSFと5-FUを併用投与した免疫不全マウスへ機能増強したヒトCD34陽性細胞を移植したが、ほとんど生着がみとめられなかった。レシピエント改変法の更なる改良が必要であることが判明した。
結論
抗アポトーシス遺伝子の導入により、ドナー細胞の機能を増強できるという知見は興味深いものである。今後、遺伝子導入ではなく、低分子化合物等でも同様の作用がみとめられれば、臨床への応用も期待される。また、レシピエント改変法は更に改良する必要があることが判明したが、サイトカインと抗がん剤を併用することにより放射線非照射条件においても移植が成立するという知見は非常に意義深いものであると考えられる。本研究成果は、骨髄非破壊的な新規造血幹細胞移植法の開発のための重要な知見となると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201322043C

収支報告書

文献番号
201322043Z