成人独自のアナフィラキシーの実態と病態に関する研究

文献情報

文献番号
201322042A
報告書区分
総括
研究課題名
成人独自のアナフィラキシーの実態と病態に関する研究
課題番号
H23-免疫-若手-021
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
福冨 友馬(相模原病院 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 板垣 康治(北海道文教大学 人間科学部)
  • 手島 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
  • 東 朋美(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
  • 相原 道子(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 海老澤 元宏(相模原病院 臨床研究センター)
  • 岸川 禮子(福岡病院 アレルギー科)
  • 千貫 祐子(島根大学 医学部)
  • 谷口 正実(相模原病院 臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アナフィラキシーは、最重症型の致死性の即時型アレルギー反応であり、死の恐怖と隣り合わせで日常生活を送る患者のみならず、患者を抱える社会に対しても重大な負担を強いる原因となっている疾患である。本研究班は、社会問題になっている加水分解コムギに対するアレルギーの実態把握と病態解明と同時に、その他の成人の食物アレルギー病態に関する臨床研究、成人の食物・薬剤アレルギーに関する疫学研究を行い、成人における独自のアナフィラキシーの病態を明らかにすることを目標とする。
研究方法
手島(国立医薬品食品衛生研究所)らは、動物実験モデルにおいて、加水分解小麦の感作能を評価した。さらに小麦グルテンの経口摂取後の消化酵素やその他修飾による抗原性の変化に関して、独自に開発した細胞を用いるin vitro惹起試験を用いて検討した。板垣(北海道文教大学)らは、ウエスタンブロッティング、陽性バンドのin gel digestionにより消化後MALDI-TOF/TOFにより抗原解析を行った。また、グリアジンの加熱加水分解によって、経時的な加水分解率、脱アミド化率、IgE反応性を調べた。岸川(福岡病院)らは加水分解コムギアレルギー症例58例に対してアンケート調査を行い、患者のQOLを評価した。相原(横浜市立大学)らは、加水分解小麦アレルギー12例の臨床経過、IgE抗体価の推移に関して詳細に検討した。東(金沢大学)らインターネットを介して、食物アレルギーの疫学調査を行い、その危険因子解析を行った。。福冨(研究代表者)らは、成人カバノキ科花粉関連果物野菜アレルギー患者55例を対象に感作アレルゲンプロファイル解析を行った。
結果と考察
加水分解コムギへの経皮経粘膜感作によって発症した小麦アレルギー(主に(旧)茶のしずく石鹸による小麦アレルギー)に関して、本研究で明らかになったことを要約すると以下のとおりである。
1)当該疾患による小麦アレルギーは、小麦の経口摂取により発症した小麦アレルギーと臨床像が大きく異なる(H23年度成果)。
2)臨床的観察から、当該疾患の患者の大部分が加水分解コムギを含有する「(旧)茶のしずく石鹸」を使用していた(H23年度成果)。
3)この石鹸の使用と小麦アレルギーの流行の疫学的な関係も証明された(H23年度成果)。
4) この石鹸に含有されていたグルパール19Sという加水分解コムギは、天然の小麦にはない独自の抗原性を有している(H23年度成果)。さらにこの抗原性にはグルテンの脱アミド化と加水分解小麦の分子量が大きく関与している(H24年度成果)。
5)グルパール19Sは、天然小麦に比べて経皮的な感作能力が高い(H24年度成果)。
6)経口小麦アレルギー症状の惹起には、体内の酵素tissue transglutaminaseによる経口摂取されたグルテンの脱アミド化も関与している(H25年度成果)。
7)当該疾患は石鹸の使用の中止(加水分解コムギへの暴露の消失)により、病態が改善傾向に向かう患者が多いが、現状では完治している症例は稀である(H24年度成果)。さらに臨床症状の予後は必ずしもIgE抗体価の推移のみでは説明できない(H25年度成果)。
8)当該疾患患者は「他との付き合い減少」により、QOLが著明に低下している(H25年度成果)
果物野菜アレルギーに関しては、PR-10タンパクへの感作の重要性が再確認された。インターネットの疫学研究の結果からも、花粉症による経鼻粘膜的な花粉アレルゲン暴露が、発症の危険因子であることが確認された。これらの知見は、上述の化粧品関連食物アレルギーと合わせて、成人食物アレルギーの発症において腸管外感作ルートに特に留意しなければいけないことを示している。

結論
現在社会問題になっている加水分解コムギに対するアレルギーの実態把握と病態解明、さらには正確な情報の普及啓発活動を最重要課題とし、研究を進めてきた。本研究班の成果により、当該疾患の病態に関する多くのことが明らかになった。さらに、この病態以外にも成人独特の発症機序による食物アレルギー病態が多く存在する実態が明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2014-08-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201322042B
報告書区分
総合
研究課題名
成人独自のアナフィラキシーの実態と病態に関する研究
課題番号
H23-免疫-若手-021
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
福冨 友馬(相模原病院 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 相原 道子(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 板垣 康治(北海道文教大学 人間科学部 )
  • 海老澤 元宏(相模原病院 臨床研究センター)
  • 岸川 禮子(福岡病院 アレルギー科)
  • 谷口 正実(相模原病院 臨床研究センター)
  • 千貫 祐子(島根大学 医学部)
  • 手島 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
  • 中村 裕之(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
  • 東 朋美(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アナフィラキシーは、最重症型の致死性の即時型アレルギー反応であり、死の恐怖と隣り合わせで日常生活を送る患者のみならず、患者を抱える社会に対しても重大な負担を強いる原因となっている疾患である。本研究班は、社会問題になっている加水分解コムギに対するアレルギーの実態把握と病態解明と同時に、その他の成人の食物アレルギー病態に関する臨床研究、成人の食物・薬剤アレルギーに関する疫学研究を行い、成人における独自のアナフィラキシーの病態を明らかにすることを目標とする。
研究方法
福冨(研究代表者)らは、インターネット上に情報ページを立ち上げることにより、加水分解コムギの経皮経粘膜感作による小麦アレルギーという疾患・病態に関する正しい情報の普及啓発活動を行った。手島(国立医薬品食品衛生研究所)らは、動物実験モデルにおいて、加水分解小麦の感作能を評価した。さらに小麦グルテンの経口摂取後の消化酵素やその他修飾による抗原性の変化に関して検討した。板垣(北海道文教大学)らは、ウエスタンブロッティング、陽性バンドのin gel digestionにより消化後MALDI-TOF/TOFにより抗原解析を行った。また、グリアジンの加熱加水分解によって、経時的な加水分解率、脱アミド化率、IgE反応性を調べた。千貫(島根大学)らは、各種の加水分解小麦のアレルゲン性の違いについて検討した。岸川(福岡病院)らは加水分解コムギアレルギー症例に対してアンケート調査を行い、症状の経過と患者のQOLを評価した。相原(横浜市立大学)、福冨(研究代表者)らは、加水分解小麦関連経口コムギアレルギー症例の、小麦タンパク特異的IgE抗体価の経年変化により、長期予後に関して検討した。中村、東(金沢大学)らはインターネットを介して、加水分解小麦アレルギーの大規模疫学調査を行った。谷口(相模原病院)らは、インターネットを介して薬剤アレルギーの疫学調査・実態調査を行った。千貫(島根大学)らは、牛肉アレルギー患者20名においてセツキシマブ特異的IgE抗体価測定を行い、α-galによる交差反応性の有無を評価した。福冨(研究代表者)らは、成人カバノキ科花粉関連果物野菜アレルギー患者を対象に感作アレルゲンプロファイル解析を行った。相原(横浜市立大学)、福冨(研究代表者)らは、成人大豆アレルギー患者の感作プロファイル解析を行った。

結果と考察
加水分解コムギへの経皮経粘膜感作によって発症した小麦アレルギー(主に(旧)茶のしずく石鹸による小麦アレルギー)に関して、本研究で明らかになったことを要約すると以下のとおりである。
1)当該疾患による小麦アレルギーは、小麦の経口摂取により発症した小麦アレルギーと臨床像が大きく異なる。
2)この石鹸の使用と小麦アレルギーの流行の疫学的な関係も証明された。
3) この石鹸に含有されていたグルパール19Sという加水分解コムギは、天然の小麦にはない独自の抗原性を有している。さらにこの抗原性にはグルテンの脱アミド化と加水分解小麦の分子量が大きく関与している。
4)グルパール19Sは、天然小麦に比べて経皮的な感作能力が高い。
5)経口小麦アレルギー症状の惹起には、体内の酵素tissue transglutaminaseによる経口摂取されたグルテンの脱アミド化も関与している。
6)当該疾患は石鹸の使用の中止(加水分解コムギへの暴露の消失)により、病態が改善傾向に向かう患者が多いが、現状では完治している症例は稀である。さらに臨床症状の予後は必ずしもIgE抗体価の推移のみでは説明できない。
果物野菜アレルギーに関しては、PR-10タンパクへの感作の重要性が再確認された。この知見は、上述の化粧品関連食物アレルギーと合わせて、成人食物アレルギーの発症において腸管外感作ルートに特に留意しなければいけないことを示している。
結論
現在社会問題になっている加水分解コムギに対するアレルギーの実態把握と病態解明、さらには正確な情報の普及啓発活動を最重要課題とし、研究を進めてきた。本研究班の成果により、当該疾患の病態に関する多くのことが明らかになった。
さらに、この病態以外にも成人独特の発症機序による食物アレルギー病態が多く存在する実態が明らかになった。特に、アレルギー性鼻炎関連の食物アレルギーの発症が疫学的にインパクトが大きい。成人の食物アレルギー発症予防として、経粘膜的もしくは経皮的な環境アレルゲン暴露ルートの遮断が最も重要であることが本研究班の成果から示唆されている。これらの成果は成人食物アレルギー発症予防のための行政計画の学問的な根拠として貢献できると考えている。

公開日・更新日

公開日
2014-08-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201322042C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで食物アレルギーは主に経口的なアレルゲン暴露により発症するものであると考えられてきたが、本研究班の知見から、腸管外抗原暴露で発症する病態が特に成人では極めて多いという実態が明らかなになった。この知見は、成人食物アレルギーの病態理解に大きく貢献した。
臨床的観点からの成果
成人の食物アレルギー発症増悪機序として、経粘膜的もしくは経皮的な環境アレルゲンが最も重要であることが本研究班の成果から示唆された。同時にこのアレルゲン暴露ルートの遮断により食物アレルギーの長期予後を変えられる可能性も示された。この知見は、疾患長期管理において、積極的な感作ルートが極めて重要であることを示し、食物アレルギーの臨床を大きく変えた。
ガイドライン等の開発
本研究班からの知見は、日本アレルギー学会「化粧品中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会」(2011年7月から年に3-4回開催)で報告され、同委員会の活動に貢献した。
その他行政的観点からの成果
本研究班からの知見は、化粧品添加成分の安全性管理を考える上での基礎的知見となった。特に医薬部外品原料規格における加水分解コムギに関する記載の改定を行う際、本研究班の知見が貢献する部分は大きいと考えられる。
その他のインパクト
「(旧)茶のしずく」石鹸による小麦アレルギーは社会問題となり、テレビ・新聞報道にて頻回に取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
30件
その他論文(和文)
49件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
52件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Minami T, Fukutomi Y, Saito A et al.
Frequent episodes of adult soybean allergy during and following the pollen season
J Allergy Clin Immunol Pract , 3 (3) , 441-442  (2015)
10.1016/j.jaip.2014.11.024

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
2018-05-21

収支報告書

文献番号
201322042Z