末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析による関節リウマチに対するトシリズマブの薬効予測と効果発現機序の解明

文献情報

文献番号
201322041A
報告書区分
総括
研究課題名
末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析による関節リウマチに対するトシリズマブの薬効予測と効果発現機序の解明
課題番号
H23-免疫-若手-020
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
池田 啓(千葉大学 医学部附属病院アレルギー・膠原病内科)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 裕史(千葉大学 大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学)
  • 廣瀬 晃一(千葉大学 大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学)
  • 高取 宏昌(千葉大学 医学部附属病院アレルギー・膠原病内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
3,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、末梢血単核球(PBMC)およびCD4陽性T細胞の網羅的遺伝子発現解析のデータをもとに、トシリズマブ(TCZ)の薬効予測モデルを構築し実用化すること、TCZの新規薬効評価マーカーを同定すること、TCZ効果発現の分子機構を解明することを目的とした。
研究方法
TCZを新規に投与したRA患者を6ヵ月間経過観察し、治療効果判定を行った。TCZ治療前後のPBMCおよびCD4陽性T細胞における遺伝子発現の網羅的解析をDNAアレイを用いて行い、治療効果予測マーカーおよび治療効果判定マーカーの抽出を行った。候補マーカーについては半定量的PCRによる遺伝子発現の確認を行った。さらにTCZ有効例特異的に治療前後でCD4陽性T細胞において発現の変化する遺伝子を抽出し、そのCD4陽性T細胞分化における役割を解析した。
結果と考察
トレーニングコホートにおいて無効例と有効例でTCZ投与前のPBMCにおけるシグナル値に有意差を認め、かつ一定のシグナル強度を示す68プローブを同定した。それらの中で、重複して同定されたもの、同一ファミリー遺伝子、および免疫あるいは炎症反応に直接関連する19遺伝子23プローブに注目した。さらにそれらの中で、qPCRによる発現とDNAマイクロアレイシグナル値との相関が確認できた15遺伝子を予測候補遺伝子とした。バリデーションコホートにおいて、無効例と有効例の間でTCZ投与前のPBMCにおけるqPCRによる発現値に有意な差を認めたものは、15遺伝子中4遺伝子(IFI6, MX2, OASL, MT1G)であった。これらの遺伝子を用いたTCZの薬効予測モデルでは、ROC解析の曲線下面積が0.947、感度73.3%、特異度100%と良好な結果が得られた(Arthritis Rheumatol 2014;66:1421)。臨床情報ならびに関節超音波所見は、TCZの薬効予測には寄与しなかった。
ヒト末梢血およびマウス脾臓由来のナイーブCD4陽性T細胞から各種条件で分化誘導した細胞では、Th17細胞においてARID5AのmRNA発現が亢進していた。興味深いことに、マウス脾臓由来のCD4陽性T細胞にレトロウイルスベクターを用いてARID5Aを強制発現させると、Th17細胞分化が低下した。Treg細胞分化に対する影響はなかった。T細胞特異的STAT3欠損マウス由来のTh17細胞ではARID5AのmRNA発現が著明に低下していた。レポーター解析ではARID5Aの強制発現はRORgtによるIL-17発現を抑制し、またウェスタンブロットによりARID5AとRORgtの直接結合が示された(Arthritis Rheum 2014;66:1185)。
結論
DNAマイクロアレイならびにqPCRによるPBMCの網羅的遺伝子発現解析により、RAにおけるTCZの薬効を高精度に予測する4遺伝子が同定された。RAの病態におけるI型IFNやメタロチオネインの関与が示唆された。またRA患者の末梢血CD4陽性T細胞において、TCZ投与により発現低下する遺伝子としてARID5Aが同定され、Th17細胞分化の新規抑制分子であることが示された。TCZ特異的薬効評価マーカーならびに新規治療ターゲット経路の候補と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201322041B
報告書区分
総合
研究課題名
末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析による関節リウマチに対するトシリズマブの薬効予測と効果発現機序の解明
課題番号
H23-免疫-若手-020
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
池田 啓(千葉大学 医学部附属病院アレルギー・膠原病内科)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 裕史(千葉大学 大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学)
  • 廣瀬 晃一(千葉大学 大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学)
  • 高取 宏昌(千葉大学 医学部附属病院アレルギー・膠原病内科)
  • 加々美 新一郎(千葉大学 大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学)
  • 鈴木 浩太郎(千葉大学 大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学)
  • 須藤 明(千葉大学 大学院医学研究院アレルギー・臨床免疫学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、末梢血単核球(PBMC)およびCD4陽性T細胞の網羅的遺伝子発現解析のデータをもとに、トシリズマブ(TCZ)の薬効予測モデルを構築し実用化すること、TCZの新規薬効評価マーカーを同定すること、TCZ効果発現の分子機構を解明することを目的とした。
研究方法
TCZを新規に投与したRA患者を6ヵ月間経過観察し、治療効果判定を行った。TCZ治療前後のPBMCおよびCD4陽性T細胞における遺伝子発現の網羅的解析をDNAアレイを用いて行い、治療効果予測マーカーおよび治療効果判定マーカーの抽出を行った。候補マーカーについては半定量的PCRによる遺伝子発現の確認を行った。さらにTCZ有効例特異的に治療前後でCD4陽性T細胞において発現の変化する遺伝子を抽出し、そのCD4陽性T細胞分化における役割を解析した。
結果と考察
トレーニングコホートにおいて無効例と有効例でTCZ投与前のPBMCにおけるシグナル値に有意差を認め、かつ一定のシグナル強度を示す68プローブを同定した。それらの中で、重複して同定されたもの、同一ファミリー遺伝子、および免疫あるいは炎症反応に直接関連する19遺伝子23プローブに注目した。さらにそれらの中で、qPCRによる発現とDNAマイクロアレイシグナル値との相関が確認できた15遺伝子を予測候補遺伝子とした。バリデーションコホートにおいて、無効例と有効例の間でTCZ投与前のPBMCにおけるqPCRによる発現値に有意な差を認めたものは、15遺伝子中4遺伝子(IFI6, MX2, OASL, MT1G)であった。これらの遺伝子を用いたTCZの薬効予測モデルでは、ROC解析の曲線下面積が0.947、感度73.3%、特異度100%と良好な結果が得られた(Arthritis Rheumatol 2014;66:1421)。臨床情報ならびに関節超音波所見は、TCZの薬効予測には寄与しなかった。
ヒト末梢血およびマウス脾臓由来のナイーブCD4陽性T細胞から各種条件で分化誘導した細胞では、Th17細胞においてARID5AのmRNA発現が亢進していた。興味深いことに、マウス脾臓由来のCD4陽性T細胞にレトロウイルスベクターを用いてARID5Aを強制発現させると、Th17細胞分化が低下した。Treg細胞分化に対する影響はなかった。T細胞特異的STAT3欠損マウス由来のTh17細胞ではARID5AのmRNA発現が著明に低下していた。レポーター解析ではARID5Aの強制発現はRORgtによるIL-17発現を抑制し、またウェスタンブロットによりARID5AとRORgtの直接結合が示された(Arthritis Rheum 2014;66:1185)。
結論
DNAマイクロアレイならびにqPCRによるPBMCの網羅的遺伝子発現解析により、RAにおけるTCZの薬効を高精度に予測する4遺伝子が同定された。RAの病態におけるI型IFNやメタロチオネインの関与が示唆された。またRA患者の末梢血CD4陽性T細胞において、TCZ投与により発現低下する遺伝子としてARID5Aが同定され、Th17細胞分化の新規抑制分子であることが示された。TCZ特異的薬効評価マーカーならびに新規治療ターゲット経路の候補と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201322041C

成果

専門的・学術的観点からの成果
DNAマイクロアレイによる末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析により、関節リウマチ(RA)におけるトシリズマブ(TCZ)の薬効を高精度に予測する4遺伝子が同定され、本手法の有用性ならびにRAの病態におけるI型IFNやメタロチオネインの関与が示唆された。またRA患者の末梢血CD4陽性T細胞において、TCZ投与により発現低下する遺伝子としてARID5Aが同定され、Th17細胞分化の新規抑制分子であることが示された。TCZ特異的薬効評価マーカーならびに新規治療ターゲット経路の候補と考えられた。
臨床的観点からの成果
現在開発しているTCZ有効性予測キットの普及により、高額な薬剤の無駄な投与を避けることが可能となる。また、著効が期待できる患者に対して早期にTCZを投与することにより、他剤の無駄な投与、ならびにその期間の関節破壊を防ぐことが可能となり、医療費の抑制、社会的損失の回避に貢献できる。またARID5Aは、TCZ特異的な薬効反映マーカー候補であり、治療効果の正確な把握が可能となる。TCZ投与方法の最適化、ならびに寛解後の薬剤中止の可否の判定が可能となる。
ガイドライン等の開発
該当せず。
その他行政的観点からの成果
TCZ以外の主要な抗リウマチ薬で、本研究と同様の手法でバイオマーカーを同定することにより、抗リウマチ薬の選択と評価のテーラーメイド化が達成される。これによりRA治療が最適化され、最小限の薬剤コストで最大限の治療効果を得るプロトコールを確立できる。
その他のインパクト
本研究と同様の手法でRAのバイオマーカーを同定することにより、多くの新規治療ターゲット候補が発見されることが示された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
関節リウマチに対する抗IL-6受容体抗体療法の有効性の予測方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2011-156921
発明者名: 中島裕史,池田 啓,加々美新一郎,鈴木快枝,中山俊憲,岩本逸夫,古田俊介,小原 收,野中 謙,山下政克,的場 亮
権利者名: 中島裕史,池田 啓,加々美新一郎,鈴木快枝,中山俊憲,岩本逸夫,古田俊介,小原 收,野中 謙,山下政克,的場 亮
出願年月日: 20110715
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sanayama Y, Ikeda K, Saito Y, et al.
Prediction of therapeutic responses to tocilizumab in patients with rheumatoid arthritis: biomarkers identified by analysis of gene expression in peripheral blood mononuclear cells using genome-wide DNA microarray
Arthritis Rheumatol , 66 (6) , 1421-1431  (2014)
10.1002/art.38400
原著論文2
Saito Y, Kagami S, Ikeda K, et al.
AT-rich-interactive domain-containing protein 5A functions as a negative regulator of retinoic acid receptor-related orphan nuclear receptor gammat-induced Th17 cell differentiation
Arthritis Rheumatol , 66 (5) , 1185-1194  (2014)
10.1002/art.38324
原著論文3
Takatori H, Kawashima H, Matsuki A, et al.
Helios Enhances Treg Cell Function in Cooperation With FoxP3
Arthritis Rheumatol , 67 (6) , 1491-1502  (2015)
10.1002/art.39091
原著論文4
Meguro K, Suzuki K, Hosokawa J, et al.
Role of Bcl-3 in the development of follicular helper T cells and in the pathogenesis of rheumatoid arthritis
Arthritis Rheumatol , 67 (10) , 2651-2660  (2015)
10.1002/art.39266

公開日・更新日

公開日
2014-06-11
更新日
2016-05-26

収支報告書

文献番号
201322041Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,875,000円
(2)補助金確定額
4,875,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,600,000円
人件費・謝金 0円
旅費 150,000円
その他 0円
間接経費 1,125,000円
合計 4,875,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2014-06-09
更新日
-