関節リウマチおよび結合織疾患患者のB型肝炎ウイルス再活性化に関する観察研究

文献情報

文献番号
201322028A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチおよび結合織疾患患者のB型肝炎ウイルス再活性化に関する観察研究
課題番号
H25-難治等(免)-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
福田 亙(京都第一赤十字病院 糖尿病・内分泌・リウマチ内科・リウマチ膠原病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 猪熊 茂子(日本赤十字社医療センター アレルギーリウマチ科・リウマチセンター)
  • 羽生 忠正(長岡赤十字病院 整形外科・リウマチセンター)
  • 有井 薫(高知赤十字病院・第4内科)
  • 水木 伸一(松山赤十字病院 リウマチ膠原病センター)
  • 小山 芳伸(岡山赤十字病院 膠原病リウマチ内科)
  • 宮田 昌之(福島赤十字病院 内科)
  • 半田 祐一(さいたま赤十字病院 膠原病リウマチ内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型肝炎ウイルス(HBV)既感染者では、HBs抗原陰性でHBs抗体またはHBc抗体陽性の患者においても、MTX・ステロイドや生物学的製剤を含む免疫抑制療法よりHBV再活性化、重症肝炎をきたしうる。関節リウマチ(RA)・結合織疾患患者におけるHBV再活性化の報告は世界的にも少数で、多施設・大規模研究はほとんどない。われわれは、全国の赤十字病院のリウマチ専門医による研究会を主体に、HBV既感染者およびキャリアーからの再活性化の頻度とリスク因子を求めること目的とした多施設共同観察研究を行っている。
研究方法
分担8施設、協力6施設と当院においてプレドニゾロン換算5.0mg以上、免疫抑制性合成抗リウマチ剤(DMARDs)(MT、タクロリムスなど)、生物学的製剤を投与されたRAおよび他の結合織疾患症例においてHBs抗原陽性の患者とHBs抗原陰性でHBsまたはHBc抗体陽性の18歳以上の患者を対象とした。
初年度に新規登録を行い、2年目からは年に1回の追跡登録にて再活性化の有無や治療内容を調査する。観察項目として①初期項目(HBV関連抗体価など)、②患者基本情報、③肝炎関連項目(HBV-DNA定量(RT-PCR)/肝機能検査)、④免疫学的指標(IgG、リンパ球数)、⑤疾患活動性指標、⑥治療情報(ステロイド、MTX、生物学的製剤の種類、投与量)を含む。 
初年度の解析は、主としてRAの病態や治療が、HBV関連抗体価に及ぼす影響を検討する。 ①HBs抗体、HBc抗体の単独陽性、両抗体陽性について、各群間でRAの疾患活動性・肝機能や治療薬が及ぼす影響をANOVAで検討した。 ②HBs抗体価、HBc抗体価とRA関連因子の相関係数を検討する。 ③生物学的製剤投与患者を、HBV関連抗体価やRAの病態因子について、非投与患者と比較する。
結果と考察
 初年度の総登録患者数から、RA922例のみを解析対象とした。平均年齢67.89歳、罹病期間124.8か月と比較的高齢で長期罹病患者が多くみられた。投与薬の内訳では生物学的製剤29.5%、MTX58.6%と大部分を占めていた。
①HBs/HBc抗体の両方が測定できていたRA893例での抗体陽性のパターンはHBs抗体単独陽性、HBc抗体単独陽性、両抗体陽性者はそれぞれ109例(12.2%)、163例(18.3%)、621例(69.5%)であった。群間比較では年齢がHBs抗体単独陽性群で有意に低かった(68.9、69.1vs 63.8、p<0.001)が、罹病期間、赤沈、DAS28-CRP、血清IgG、リンパ球数、AST/ALT、PSL投与量、MTX投与量、生物学的製剤使用率には差を認めなかった。HBc抗体単独陽性患者は、中和抗体であるHBs抗体が陰性化した症例であり、再活性化のリスクが特に高いという意見がある。 今回の検討では、他の2群に比して免疫能が低下した所見はなく、RAの活動性や治療薬による影響もみられなかった。HBV再活性化における中和抗体の役割と、リスク評価における意義について、さらに検討が必要である。
②HBs抗体価、HBc抗体価と測定したすべてのパラメータ、治療薬の投与量との相関係数は、すべて0.17未満で有意なものはなかった。これらの抗体価はBV再活性化に寄与する可能性があるが、単純にその時点での免疫能を反映しているわけではないことが示唆された。
③生物学的製剤を使用していた272例では、していなかった650例に比べて有意に年齢が低い(66.2 vs 68.4, p=0.004)、末梢血リンパ球数が多い(1679 vs 1482/μl, p<0.001)、血清IgGが高い(1472 vs 1395 mg/dl, ,p=0.037)などの特徴がみられたが、肝機能、RA活動性、HBs/HBc抗体価に差を認めなかった。合成DMARDs投与に比べて、生物学的製剤の投与は特にHBV再活性化リスクを上げるかは興味ある問題だが、今回の検討では生物学的製剤投与患者とMTX等の合成DMARDsのみ投与中の患者で、HBs/HBc抗体価に差を認めず、リンパ球数や血清IgGレベルはむしろ生物学的製剤投与患者の方が高かった。 少なくとも生物学的製剤が、抗体産生をより強く抑制することにより、HBV再活性化のリスクが高めることはないであろう
結論
①HBc抗体単独陽性患者ではHBs/HBc両抗体陽性患者に比して、疾患活動性や抗体産生の明らかに抑制はない。
②HBs/HBc抗体価はRAの疾患活動性・抗体産生能・治療と有意な単相関は示さない。
③生物学的製剤の投与は、合成DMARDsに比べて抗体産生を抑制することはなく、HBs/HBc抗体価にも有意な影響を与えない。

公開日・更新日

公開日
2014-07-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201322028Z