適応拡大に向けた臍帯血移植の先進化による成績向上と普及に関する研究

文献情報

文献番号
201322023A
報告書区分
総括
研究課題名
適応拡大に向けた臍帯血移植の先進化による成績向上と普及に関する研究
課題番号
H24-難治等(免)-一般-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 聡(東京大学  医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森尾友宏(東京医科歯科大学・医歯(薬)学総合研究科)
  • 服部浩一(東京大学 医科学研究所)
  • 安藤 潔(東海大学 医学部)
  • 宮田敏男(東北大学  大学院医学系研究科)
  • 大津 真(東京大学 医科学研究所)
  • 谷口修一(国家公務員共済組合 虎の門病院)
  • 山口拓洋(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 岩間厚志(千葉大学大学院・ 医学研究)
  • 宮村耕一(名古屋第一赤十字病院造血細胞移植センター)
  • 高梨美乃子(日本赤十字社・血液事業本部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,657,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、臍帯血移植の先進化による安全性と成績の向上であり、最も深刻な移植後合併症である生着不全、ウイルス感染症、GVHDに対する新規治療開発を進め、基盤研究を継続しつつ臨床研究に発展させることを目指している。さらに、現行の移植方法の有効性の検証を目的とした前方視的臨床試験を支援すると共に、15年にわたる臍帯血バンク事業の問題点を総括し、新法の下で骨髄バンクと連携しながら移植細胞ソースを必要としている患者への安定供給を担保するための将来構想を考案することを目標とした。
研究方法
生着不全対策としては、新規に開発されたPAI-1阻害薬による移植後造血再構築促進効果、新規低分子化合物による造血幹細胞増幅、および新規複数臍帯血移植の開発の各研究課題に関して、それぞれ動物モデルを用いた前臨床試験を中心に研究を進めた。
 ウイルス感染症対策については、臨床応用に向けて無血清培養系を用いたCMV、EBV、ADV 、BKV、HHV6に対する抗原特異的CTLの調製法についての検討を進めた。
 また、GVHDに対する新規治療開発としては臨床検体を用いてGVHD病態における凝固・線溶系の機能解析を行い、併せて新規プラスミン阻害剤YO-2の有効性を動物モデルで探り、さらには臨床データを精査し、急性GVHDの重症度、臨床所見、造血組織再生と線溶系との関連性を検討した。
 造血移植支援新法施行後における臍帯血グラフトの品質向上・均一化に向けた議論を進め、現在行われている臨床試験の支援を継続するとともに、新たに後方視的臨床解析の準備をおこなった。
結果と考察
生着不全対策については、PAI-1阻害剤(TM5275)のマウス生体への投与は造血回復期間の短縮および骨髄再構築の促進により長期造血構築能の維持を達成すること、臍帯血中の造血幹細胞の増幅を目指して発見した低分子化合物であるMISK303によって機能的な造血幹細胞が約3倍に増加していることが確認された。「新規複数臍帯血移植」法の開発に関しては、動物実験を進め、アロ細胞の混合物が適切な形で用いることで移植後早期の造血回復を補完できる可能性を示した。多ウイルス特異的T細胞療法の開発に関しては、臨床応用を勘案した無血清培養系を用いたCMV、EBV、ADV 、BKV、HHV6に対する抗原特異的CTLの作成法の開発を進めた。臨床試験としては、虎の門病院での臍帯血ミニ移植における後方視的解析を行い、名古屋グループにおける成人を対象とした標準的強度の前処置を用いた臍帯血移植の臨床試験も着実に症例数が蓄積された。さらには、全国登録データを用いたGVHD予防法に関する後方視的臨床解析の準備を進めた。また、臍帯血バンクの問題点について、国際的な情報収集を進めると共に将来構想の確立に向けた議論を重ねた。
 臍帯血移植は造血器腫瘍に対する根治療法として広く普及してきたが、依然として移植後合併症の発症率が高い傾向にあるため、早期の移植がより良好な臨床成績が得られるにもかかわらず、ギリギリまで移植時期が延ばされる、という背反するジレンマに陥っている。移植前処置法の改良などの臨床試験を進めることにより、既存の方法を用いながら、その適正化を目指す一方で、最も深刻な問題である拒絶に対して、当研究グループでは幹細胞増幅や多種類の造血幹細胞使用、骨髄ニッチへの生着促進など様々なアプローチで移植細胞の生着率を向上させる方法の開発を進めている。前臨床試験は順調に進んでおり、今後は移植後の造血再構築促進効果を確認するための臨床研究の早期開始を目指している。さらに頻度の高い合併症としては、ウイルス感染症およびGVHDが問題であり、QOL低下のみならず二次性生着不全の誘因となる場合もある。現在、我々が取り組んでいる第三者ドナーからの多ウイルス特異的CTL療法、および新規プラスミン阻害剤によるGVHD抑制は既存の治療法とは全く異なる機序であり、臨床的有用性が強く期待される。また、新法のもとで、臍帯血バンクシステムの更なる安定化が求められる。
結論
合併症克服のための新規治療法の開発を進めると共に、臨床研究遂行・支援を行い、臍帯血バンク運営の将来構想に関する議論に向けて更なる情報収集を進めた。本研究を通じて臍帯血移植の安全性が高まることにより、必要な患者が早期に移植を決断できることで成績の向上と、高齢者への適応拡大が安全に進むことが強く期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201322023Z