HLA不適合血縁者間移植の安全性および有効性向上のための包括的研究

文献情報

文献番号
201322009A
報告書区分
総括
研究課題名
HLA不適合血縁者間移植の安全性および有効性向上のための包括的研究
課題番号
H23-免疫-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
神田 善伸(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 啓恭(兵庫医科大学 医学部)
  • 千葉 滋(筑波大学 医学部)
  • 谷口 修一(虎の門病院 血液内科)
  • 田中 淳司(東京女子医科大学)
  • 一戸 辰夫(広島大学原爆放射線医科学研究所放射線災害医療研究センター血液・腫瘍内科)
  • 山下 卓也(国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科)
  • 高橋 義行(名古屋大学 医学部)
  • 前田 嘉信(岡山大学 医学部)
  • 森田 智視(京都大学 医学部)
  • 熱田 由子(名古屋大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,694,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HLA適合ドナーがいない患者のためにHLA不適合血縁者間移植が開発されている。国内では体外でのT細胞除去を行わない(非T細胞除去)独自のHLA不適合移植方法に関する世界の最先端の開発研究が行われている。本研究では様々な方法で行われているHLA不適合移植の利点、欠点を明確にするとともに、臍帯血移植との優劣についても評価し、さらにHLA不適合移植の治療成績を改善するための基礎的な研究、医療費、薬剤の保険適応外使用の対策、ガイドラインの発表を含め、包括的な研究を行う。
研究方法
平成25年度は、後述する様々な手法によるHLA二抗原以上不適合移植法の臨床試験を継続している。非介入の臨床研究としては造血細胞移植学会データベース用いた大規模な移植成績の解析を行った。基礎研究ではHLA不適合移植後の最大の問題である免疫回復の遷延について、サイトメガロウイルスに対する細胞傷害性T細胞のT細胞受容体レパトア解析や、マウス慢性GVHDモデルにおけるIL-23 p40 抗体の有効性の解析など多彩な研究が行われた。
結果と考察
母子間免疫寛容を利用したHLA不適合移植は広島大学における新規臨床試験として計画されている。強力免疫抑制剤を併用したHLA不適合移植は体内T細胞除去薬をサイモグロブリンに変更し、その投与量を徐々に減量する臨床試験に移行している。アレムツズマブを用いたHLA不適合移植は医師主導治験が終了し、アレムツズマブ減量の自主臨床試験を開始した。移植後シクロホスファミドを用いるHLA不適合移植は筑波大学で、体外でCD34陽性細胞を選択したHLA不適合移植およびHSV-TK遺伝子導入リンパ球輸注療法の臨床試験は国立がん研究センター中央病院で進行している。また、HLA一抗原不適合血縁者間移植において少量のサイモグロブリンを使用する前方視的臨床試験を日本造血細胞移植学会主導研究として開始した。
後方視的研究については、谷口らは臍帯血移植症例においてハプロタイプ一致症例を推定し、ハプロタイプ一致症例において有意に好中球生着率が高いということが示された。これは、HLA-C、-DP、-DQの適合度が生着に影響を与えている可能性を示唆する。田中らは再生不良性貧血に対して同種移植を行った症例の解析を行った。全例に好中球生着が得られ、罹病期間が長い症例が大半を占めていたにもかかわらず、良好な成績が得られていた。
統計ソフトウェア開発についてはマウス操作だけで一般的な名義変数、連続変数、生存期間の解析に加えて、移植領域の統計解析で必須となる時間依存性変数を扱う解析や競合イベントを扱う解析が実行できるソフトウェア(EZR)が完成し、自治医科大学附属さいたま医療センターのホームページで無料公開している。このソフトウェアを紹介する論文が造血細胞移植領域のTop journalであるBone Marrow Transplantation誌に掲載され、世界的にも広く使用されている。
特異的免疫能の評価系についてはサイトメガロウイルスに特異的に働く細胞傷害性T細胞の単一細胞でのT細胞受容体レパトアの解析によって、ドナー由来の細胞傷害性T細胞がサイトメガロウイルス再活性化の抑制に貢献していることが示された。また、研究分担者の前田らは免疫担当細胞に抑制性のシグナルを伝えるPD-L1が欠損したマウスではTh1およびTh17細胞が増加して慢性GVHDが悪化すること、alternative Th17およびTh1細胞の両方を抑制するIL-23 p40 抗体によって臨床的かつ病理組織学的に慢性GVHDが軽減することを示した。ヒトに対するp40 抗体は、Ustekinumabとしてクローン病や乾癬に対する臨床試験の結果が報告されており、慢性GVHDにも臨床応用できる可能性が示唆された。
結論
本年度も前方視的臨床試験、後方視的臨床研究、基礎的研究のいずれにおいても順調な進捗を示している。HLA二抗原以上不適合の血縁ドナーは95%以上の患者が有するため、本研究でHLA不適合移植の有用性を明らかにすることで、将来的には骨髄バンク、さい帯血バンクのドナープール拡大の負担を軽減することが期待できる。また、様々なHLA不適合移植法の利点、欠点を明確にするとともに、臍帯血移植との優劣についても評価し、診療現場での治療選択に役立つ情報を提供する。医療経済的な観点からも比較することによって、社会と適合した健全な移植医療の発展が期待される。今後は、ガイドラインを作成することによって幅広く情報を発信する。また、本研究班の基礎的な研究成果は、HLA不適合移植のみならず、同じくHLA不適合の存在が前提となっている臍帯血移植の治療成績の改善にも応用することができる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201322009B
報告書区分
総合
研究課題名
HLA不適合血縁者間移植の安全性および有効性向上のための包括的研究
課題番号
H23-免疫-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
神田 善伸(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小川 啓恭(兵庫医科大学)
  • 千葉  滋(筑波大学 医学医療系)
  • 谷口 修一(国家公務員共済組合連合会虎の門病院)
  • 田中 淳司(東京女子医科大学)
  • 一戸 辰夫(広島大学原爆放射線医科学研究所放射線災害医療研究センター)
  • 山下 卓也(国立がん研究センター中央病院)
  • 高橋 義行(名古屋大学 医学部)
  • 前田 嘉信(岡山大学 医学部)
  • 森田 智視(京都大学 医学部)
  • 熱田 由子(名古屋大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HLA適合ドナーがいない患者のためにHLA不適合血縁者間移植が開発されている。国内では体外でのT細胞除去を行わない(非T細胞除去)独自のHLA不適合移植方法に関する世界の最先端の開発研究が行われている。本研究では様々な方法で行われているHLA不適合移植の利点、欠点を明確にするとともに、臍帯血移植との優劣についても評価し、さらにHLA不適合移植の治療成績を改善するための基礎的な研究、医療費、薬剤の保険適応外使用の対策、ガイドラインの発表を含め、包括的な研究を行う。
研究方法
後述する様々な手法によるHLA二抗原以上不適合移植法の臨床試験を継続して遂行した。非介入の臨床研究としては造血細胞移植学会データベース用いた大規模な移植成績の解析を行った。基礎研究ではHLA不適合移植後の最大の問題である免疫回復の遷延について、サイトメガロウイルスに対する細胞傷害性T細胞のT細胞受容体レパトア解析や、マウス慢性GVHDモデルにおけるレチノイン酸やIL-23 p40 抗体の有効性の解析など多彩な研究が行われた。
結果と考察
母子間免疫寛容を利用したHLA不適合移植は広島大学における新規臨床試験として計画されている。強力免疫抑制剤を併用したHLA不適合移植は体内T細胞除去薬をサイモグロブリンに変更し、その投与量を徐々に減量する臨床試験に移行している。アレムツズマブを用いたHLA不適合移植は医師主導治験が終了し、アレムツズマブ減量の自主臨床試験を開始した。移植後シクロホスファミドを用いるHLA不適合移植は筑波大学で、体外でCD34陽性細胞を選択したHLA不適合移植およびHSV-TK遺伝子導入リンパ球輸注療法の臨床試験は国立がん研究センター中央病院で進行している。また、HLA一抗原不適合血縁者間移植において少量のサイモグロブリンを使用する前方視的臨床試験を日本造血細胞移植学会主導研究として開始した。
 後方視的研究については、小川らはHLA二抗原以上不適合フル移植23症例の解析を行い、大半が非寛解期移植であるにもかかわらず、3年生存率61%と優れた成績を示した。谷口らは臍帯血移植症例においてハプロタイプ一致症例を推定し、ハプロタイプ一致症例において有意に好中球生着率が高いということが示された。これは、HLA-C、-DP、-DQの適合度が生着に影響を与えている可能性を示唆する。神田らはHLA一抗原不適合血縁者間移植と非血縁者間臍帯血移植の比較を行い、HLA一抗原不適合血縁者間移植でGVHDの発症頻度が高いこと、抗ヒト胸腺細胞抗体によって生存率が改善する傾向にあることを報告した。
統計ソフトウェア開発についてはマウス操作だけで一般的な名義変数、連続変数、生存期間の解析や、移植領域で必須となる時間依存性変数や競合イベントを扱う解析が実行できるソフトウェア(EZR)を自治医科大学附属さいたま医療センターのホームページで無料公開している。このソフトウェアを紹介する論文がBone Marrow Transplantation誌に掲載され、世界的にも広く使用されている。
基礎研究では、サイトメガロウイルスに特異的に働く細胞傷害性T細胞の単一細胞でのT細胞受容体レパトアの解析によって、ドナー由来の細胞傷害性T細胞がサイトメガロウイルス再活性化の抑制に貢献していることが示された。また、研究分担者の前田らは免疫担当細胞に抑制性のシグナルを伝えるPD-L1が欠損したマウスではTh1およびTh17細胞が増加して慢性GVHDが悪化すること、Th1/Th17を抑制するレチノイン酸は慢性GVHDを抑制することが示された。また、alternative Th17およびTh1細胞の両方を抑制するIL-23 p40 抗体によって臨床的かつ病理組織学的に慢性GVHDが軽減することを示した。今後の臨床応用が期待される。
結論
前方視的臨床試験、後方視的臨床研究、基礎的研究のいずれにおいても順調な進捗を示した。HLA二抗原以上不適合の血縁ドナーは95%以上の患者が有するため、本研究でHLA不適合移植の有用性を明らかにすることで、将来的には骨髄バンク、さい帯血バンクのドナープール拡大の負担を軽減することが期待できる。また、様々なHLA不適合移植法の利点、欠点を明確にするとともに、臍帯血移植との優劣についても評価し、診療現場での治療選択に役立つ情報を提供する。医療経済的な観点からも比較することによって、社会と適合した健全な移植医療の発展が期待される。今後は、ガイドラインを作成することによって幅広く情報を発信する。また、本研究班の基礎的な研究成果は、HLA不適合移植のみならず、同じくHLA不適合の存在が前提となっている臍帯血移植の治療成績の改善にも応用することができる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201322009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
サイトメガロウイルスおよびEBウイルスに特異的に働く細胞傷害性T細胞をテトラマーによって同定し、さらに単一細胞に分離した上でT細胞受容体レパトアを解析する系が確立された。また、マウスモデルにおいてalternative Th17およびTh1細胞の両方を抑制する目的でIL-12/IL-23 p40 抗体の有効性を検討したところ、p40 抗体を投与した群では、臨床的かつ病理組織学的に慢性GVHDが有意に軽減された。抗ヒトp40 抗体であるUstekinumabの慢性GVHD治療への応用が期待される。
臨床的観点からの成果
様々な方法を用いた体外T細胞非除去HLA二抗原以上不適合移植法の臨床試験を進行している。進捗状況は良好である。また、日本造血細胞移植学会データベースを用いた解析についても日常診療にすぐに還元される成果が得られた。独自の統計解析ソフトウェアの開発により、今後はさらに解析が促進されることが期待できる。
ガイドライン等の開発
研究代表者の神田、研究分担者の一戸らが平成21年8月に公表した「日本造血細胞移植学会HLA不適合移植ガイドライン」について、同学会ガイドライン委員会と共同での改訂を検討している。
その他行政的観点からの成果
HLA二抗原以上不適合の血縁ドナーは95%以上の患者が有するため、本研究でHLA不適合移植の有用性を明らかにすることで、将来的には骨髄バンク、さい帯血バンクのドナープール拡大の負担を軽減することが期待できる。また、様々なHLA不適合移植法の利点、欠点を明確にするとともに、医療経済的な観点からも比較することによって、社会と適合した健全な移植医療の発展が期待される。
その他のインパクト
2017年5月10日読売新聞夕刊でハプロ移植について紹介。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
130件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanda Y, kanda J, Atsuta Y, et al.
Changes in the clinical impact of high-risk human leukocyte antigen allele mismatch combinations on the outcome of unrelated bone marrow transplantation.
Biol Blood Marrow Transplant , 20 (4) , 526-535  (2014)
10.1016/j.bbmt.2014.01.003
原著論文2
Kanda Y, kanda J, Atsuta Y, et al.
Impact of a single human leucocyte antigen (HLA) allele mismatch on the outcome of unrelated bone marrow transplantation over two time periods.
Br J Haematol , 161 (4) , 566-577  (2013)
10.1111/bjh.12279.
原著論文3
Kanda Y, Oshima K, Kako S, et al.
In vivo T-cell depletion with alemtuzumab in allogeneic hematopoietic stem cell transplantation: Combined results of two studies on aplastic anemia and HLA-mismatched haploidentical transplantation.
Am J Hematol , 88 (4) , 294-300  (2013)
10.1002/ajh.23392.
原著論文4
Yoshihara S, Ikegame K, Oagwa H, et al.
Salvage haploidentical transplantation for graft failure using reduced-intensity conditioning.
Bone Marrow Transplant , 47 (3) , 369-373  (2012)
10.1038/bmt.2011.84.
原著論文5
Tanaka J, Morishima Y, kanda Y, et al.
Effects of KIR ligand incompatibility on clinical outcomes of umbilical cord blood transplantation without ATG for acute leukemia in complete remission.
Blood Cancer J , e164-  (2013)
10.1038/bcj.2013.62.
原著論文6
Fuji S, Ueno N, Fukuda T, et al.
Reduced-intensity conditioning regimen with low-dose ATG-F for unrelated bone marrow transplant is associated with lower non-relapse mortality than a regimen with low-dose TBI: a single-center retrospective analysis of 103 cases.
Int J Hematol , 98 (5) , 608-614  (2013)
10.1007/s12185-013-1449-y.
原著論文7
Kako S, Akahoshi Y, Harada N, et al.
HLA-mismatched haploidentical transplantation using low-dose anti-thymocyte globulin (ATG: thymoglobulin).
Hematology , in press  (2017)
原著論文8
Ikegame K, Yoshida T, Yoshihara S, et al.
Unmanipulated haploidentical RIST using fludarabine, busulphan, a low dose ATG and steroid for patients in non-CR or high risk of relapse: a prospective multicenter phase I/II study in Japan.
Biol Blood Marrow Transplant , 21 , 1495-1505  (2015)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
2018-06-06

収支報告書

文献番号
201322009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,301,000円
(2)補助金確定額
11,301,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,738,425円
人件費・謝金 0円
旅費 132,430円
その他 1,823,145円
間接経費 2,607,000円
合計 11,301,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-11
更新日
-