高齢者のリハビリテーション施設に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800258A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者のリハビリテーション施設に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
野村 歡(日本大学理工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 八藤後猛(日本大学理工学部)
  • 田村静子((株)ライフ・エイド・ネクサス・デザイン)
  • 西本典良(山野美容芸術短期大学美容保健学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者への「リハビリテーション」も、これまで医療機関が提供してきた医学的な側面からのみでなく、生活能力の開発と再構築、高齢者をめぐる様々な生活環境の整備、家族という社会資源と各種社会資源の活用なども含めた総合的、統合的なアプローチとしての位置づけが求められる。とりわけ在宅復帰あるいは社会復帰に至るシステムのあり方を考えるとき、老人保健施設の役割は今後重要な課題となってくるものと考えられる。
医療施設のリハビリテーションは、今後の施設の複合化を考えたときには、医療施設内にとどまるのではなく、地域に根ざした生活リハビリテーションも含めて検討していく必要があると考えた。
そこで、本研究では医療施設を対象にリハ機会と空間の現状を把握し、今後の医療機関の適切な利用空間設定に資する基礎的研究を行うこととした。
本研究ではさらに、通過施設としての老人保健施設が実際にどのような役割を果たし、要介護高齢者の社会復帰や家庭復帰にどのように関わっているのかを実証的に明らかにすることを目的した研究も併せて行う。
また、福祉施設における介護活動には「生活の自立を目指すリハビリテーション的な機能がある」という前提のもとに、特別養護老人ホーム利用者の生活行動の観察を通して心身機能と生活行動パターンの関係を分析し、利用者の心身機能を最大限に活かすための生活環境のあり方について探る。
次いで、高齢者・障害者等に対する、職業リハビリテーションサービス施設について言及する。本論では、高齢障害者が、積極的に生きがい、就労、社会参加の観点から利用するための施設として位置づけている。
研究方法
本研究では、医療施設を対象にリハ機会と空間に関する現状と課題を把握するためにアンケート調査を行った。
また、老人保健施設については対象とした施設は、老人保健施設に協力を求め、利用者の起床から就寝までの生活行動を観察・記録し、心身機能の障害をチェックした。
職業リハビリテーション施設に関しては、法内施設である「授産施設」と法外施設である「小規模作業所」について、施設環境に関するアンケート調査を行った。これは、昨年度報告による調査に、実地調査を加えたうえで、さらに分析を詳細に加えた。
結果と考察
医学的リハビリテーション施設においては、器械・器具の特徴や使われ方の把握、器械・器具の整備状況を施設基準別にみると基準が上位であるほど進んでいた。しかし、これらの特徴や・使用頻度等の実態をみると、具備すべき機械・器具でもほとんど使われないものやスペース的な問題から設置できないものがあった。今後、制限された空間で効率的・効果的なリハが行えるためには、現在整備している器械・器具の特徴・使われ方等の実態をあらためて調査する必要がある。
医療施設では、リハに関わるスタッフ・利用者数は規模によって定められる。調査結果では専用病棟や諸室の整備状況は施設基準が上位になるほどおおむね整っていた。スタッフ数や利用者数により実施できるリハも異なるが、当然、施設規模や人員体制が大規模になるほどリハ機会が増える。
また、地域との連携による運営等の工夫においては、地域リハでは、施設基準が下位になるほど実施していない実態が明らかとなった。
老人保健施設に関する研究では、利用者はそれぞれのサービスの利用形態パターンでみると複合利用、入所サービスのみの利用、在宅支援サービスの利用の3つに分かれ、人数的にはほぼ3等分できる。全体の利用日数から見ると90%が30日以上の利用者である。また、同期間において300日を越える利用日数のある者は53%に達する。複数サービスの利用あるいは複数回サービスの利用者をみるとデイサービスを利用している者は関わりが長くなる傾向がある一方で、ショートステイを利用している者は、さらに短くなる傾向がある。また、複合サービスを利用している者はきわめて長い期間関わっていることがわかる。
高齢者の生活施設としては、日常生活動作に対する生活リハビリテーションの機会確保が必要であることが示唆される。長期滞在高齢者のリハビリテーション環境として、生活の場そのものを整備する必要がある。中でも、居室におけるベッド利用や排泄リハ・移動のためには、個室化とともにサニタリースペースの確保を行う必要がある。
職業リハビリテーション施設について、施設規模やその質的な評価を決定づける要因は、法内、法外の種類ではなく、作業種目・設備に起因する方が大きく、次に、法内施設か法外施設かの違い、あるいは障害種別による差が建築物の実態に影響を与えている。作業所等は授産施設と比較して統計的にも小規模であることが裏付けられるが、むしろその後の判別は、高齢化率が高いところは職種なども「生活訓練的な課題」や「簡易作業」が中心となり、その建築物は専用施設をもつものが多く、面積も広いことなどがわかる。それ以外の作業場所では、場所を選んだ理由が「広さが確保できる」ことを選ぶ傾向があり、こうした施設利用群以外は、面積確保が依然課題となっている。授産施設では、「職業訓練的な課題」を行っているところが施設規模は有意に大きいことから、この種目も比較的規模の大きな設備と規模を要するものであることがわかる。
医療リハビリテーション施設においては、そこで行われるリハビリテーションの位置づけに対応した設備空間の確保が必要である。また、ハード環境の整備とともに地域との連携によるソフト面での工夫が必要であるなどが示唆される。今後、地域に根ざした生活リハを行う上では、施設基準や施設規模、利用者の活動内容等に見合った建築計画を行う必要がある。
老人保健施設においては、利用者を利用形態、利用期間などを主に老人保健施設の利用状況を分析した結果、多くの利用者が単発的な利用にとどまらず、長期的な関わりの中での療養生活が重要と考えられた。
特別養護老人ホームでは、利用者の移動距離・移動範囲はきわめて短く、狭い。よって、自立した移動能力を有していても、それが移動範囲の拡大や移動距離の延長には結びつかないうえ、同類型の利用者には固定した場所があり、他の場所で過ごすことはほとんどない。特別養護老人ホームを計画する際には、居室相当数に合わせて居場所を確保できる必要があり、できる限り選択できる複数ヶ所を整備する必要がある。それらは住まい方あるいは暮らし方ができるように、居室(住戸)に割り当てた場所というよりは同類型の利用者がつどい利用できるために、移動距離ができる限り短いもので構成されることが選択を容易にするであろう。
職業リハビリテーション施設については、施設の複合化からの視点では、職業リハビリテーションの目的を、1.生産性をあげ、一定の収入を得ることを目的としたもの(以下「生産目的」と呼称)、2.生きがいや社会参加を目的とした内容を重視し、作業をその主たる手段とするものの、生産性や効率などについては必ずしも重視しない視点で分けるべきであろう。法内、法外を問わず、むしろ今後は社会参加目的のものが指向されていることがうかがえる。現に小規模作業所などでは、ものづくりによる生産という視点から脱却するための試行が行われていた。それらをまとめると1.小売店舗、飲食店経営などにより接客を伴うもの2.リサイクル-回収のみでなく、再生を目的とし、社会的なニードに対応したものなど、いずれも、地域社会との接点のあるものが求められていく。
結論
高齢者福祉や保健対策は、地域医療や地域保健、あるいは地域福祉システムをいかに統合的に再構築をすすめるかが課題であり、高齢者の家庭復帰や社会参加をすすめるために、高齢者の生活そのものを支援し、生活の質的充実、生活範囲の拡大を図るためのリハビリテーションのあり方が大きな問題になっていくと考えられる。
これらの要件を満たすための高齢者施設の建築計画については、複合化と設備・機能、人的資源においても相互利用が前提となろう。したがって、単に基準範囲の要件を満たす施設を寄せ集めたのでは、真の意味の複合化にはつながらないものと思われる。
そのためには、高齢者の生活能力の開発と再構築、高齢者をめぐる様々な生活環境の整備、家族という社会資源も含めた各種社会資源の活用なども含めた総合的、統合的なアプローチとしての位置づけが求められる。とりわけ要介護状態になった以降、在宅復帰あるいは社会復帰に至るシステムと流れを把握したうえで、高齢者施設の役割は今後重要な課題となってくるものと考えられる。

公開日・更新日

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