文献情報
文献番号
201322007A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患のダイナミックな変化とその背景因子の横断的解析による医療経済の改善効果に関する調査研究
課題番号
H23-免疫-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
片山 一朗(大阪大学大学院 医学系研究科皮膚科学)
研究分担者(所属機関)
- 横関 博雄(東京医科歯科大学大学院 医歯学研究科 皮膚科学)
- 室田 浩之(大阪大学大学院 医学系研究科 皮膚科学)
- 田中 敏郎(大阪大学大学院 医学系研究科 抗体医薬臨床応用学)
- 藤枝 重治(福井大学医学部感覚運動医学講座 耳鼻咽喉科頭頸部外科学)
- 金子 栄(島根大学大学院 皮膚科学)
- 宇理須 厚雄(藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院・小児免疫アレルギー学)
- 河原 和夫(東京医科歯科大学大学院医歯学研究科 保健医療公共政策学)
- 瀧原 圭子(大阪大学 保健センター・循環器内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,250,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は3年間の到達目標を設定し、以下の問題点を明らかにすることにより個々の患者が満足し、医療経済のニーズに答えられる21世紀のあらたな新しいアレルギー疾患の治療と予防に向けた提言を行う。
研究方法
1. [ アレルギー疾患はその発症と進展においてどのように影響しあうか ]:英国クライテリア(UKcriteria:UKC)とISAACの質問項目を加えた他、悪化に関わるストレスの内容とストレス対処能力に関する調査を行う。 藤枝は福井県内の高等学校の全生徒を対象にアレルギー疾患の罹患率・寛解率を調査し、IPW (inverse probability weighting)法を用いて多変量解析を行う。2. [ 思春期増悪型アトピー性皮膚炎の悪化因子と対策のための指導箋確立 ]:片山、室田は汗対策指導を行うとともにアンケート調査を行う。金子は「外用指導」について重要な役割を担う薬剤師の指導についてアンケート調査を行う。3.[ 限られた医療資源をより有効に配分するための医療経済学的検討 ]:片山、室田は大阪大学およびその関連施設を受診したアレルギーを伴う患者に対し、Work productivity and activity impairment (WPAI) アンケート, Epworth sleepness score (ESS)調査票によって検討する。河原はアトピー性皮膚炎の診療特性と同疾患をめぐる医療行為について社会経済的観点から便益と損失を分析し、可視化する。4.[生活習慣とアレルギー疾患の発症・進展に関わる新しい視点からの検討] :横関は掌蹠に汗疱様病変を有するアトピー性皮膚炎患者を対象に、発汗機能との関連、病変部と汗管との連続性などを検討する。田中は種々の抗アレルギー作用を有するフラボノイドの適切な摂取が、アレルギー疾患の症状軽減や予防に寄与するのか、また有効な場合には、その医療経済的効果を明らかとする。宇理須は前年度までと同じコホートを用いて、FLG遺伝子のcopy number variation(CNV)を解析する。
結果と考察
1. [ アレルギー疾患はその発症と進展においてどのように影響しあうか ]:大阪大学の平成25年度新入生 3,037名を対象とした後ろ向き調査を行った。アトピー性皮膚炎の有病率はこれまで私たちの用いてきた医師による診断歴では519例(17%)、UKC(過去1年にアトピー性皮膚炎を認める)は311例(10%)であった。有診断既往群と過去1年の症状の有った群(UKC)においてストレスは有意なリスク因子(多重ロジスティック解析)であった。ストレスと感じる内容はで異なっており、アトピー性皮膚炎は特に症状、治療、医療サービスの面を強くストレスに感じていることが分かった。2.[ 思春期増悪型アトピー性皮膚炎の悪化因子と対策のための指導箋確立 ]:思春期増悪型アトピー性皮膚炎の再燃に関わると考えられた悪化因子の多重ロジスティック解析から汗が増悪のリスクファクターであることが明らかになった。Pearsonカイ二乗検定では思春期再燃型で有意に汗のかきかたの少ないことが明らかになこれまで「汗をかかない指導」を受けてきた難治性アトピー性皮膚炎の患者に対し通常療法に加え「汗をかいてよい」という指導著明に改善する患者のいることが分かった。発汗後シャワー浴、水道水による流水洗浄、おしぼりによる清拭により改善する方が多かった。3.[限られた医療資源をより有効に配分するための医療経済学的検討] 本年度の検討では汗対策指導により労働生産性が33.85%から29.33%に改善し、計算上 533億円/月の医療経済改善効果が見られた。福井県内の公立および私立高等学校35校の全生徒21802名に対し、アレルギーに関するアンケート調査を行い、、高校生における実際の学業への支障度を調べるために、現在発症群のみで比較してみると、スコアの中央値(四分位範囲)は、アトピー性皮膚炎:5 (2-7)、アレルギー性鼻炎:5 (4-7)、気管支喘息:5 (4-7)であり、スコアに差が見られなかった。
結論
アトピー性皮膚炎患者特に外用・内服といった治療にストレスを感じている側面があり、アドヒアランス改善につながるようなストレスの少ない治療方法の確立が待たれる。またストレスへのコーピング能力の評価では接近コーピング能力の高い群で現在もアトピー性皮膚炎症状の残存するリスクが高かった汗をかけないことが思春期再燃型アトピー性皮膚炎に影響を与え、「汗をかかせない」指導ではなく「汗をかいてもよい」指導を行う事で症状を改善できることを確認した。今後さらに診療行為の細目の分析と薬剤費の分析を通じて、アトピー性皮膚炎の診療内容が診療科ごとに異なるか否かを分析する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2015-06-30
更新日
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