高齢者の生活の質向上に関する縦断的研究

文献情報

文献番号
199800257A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の生活の質向上に関する縦断的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
太田 壽城(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 嶽崎俊郎(愛知県がんセンタ-研究所疫学部)
  • 関奈緒(新潟大学医学部)
  • 前田清(愛知県健康づくり振興事業団)
  • 芳賀博(北海道医療大学看護福祉学部)
  • 大山泰雄(東京都新宿区新宿保健所予防課)
  • 田中喜代次(筑波大学体育科学系)
  • 長田久雄(東京都立医療技術短期大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者のQOL向上に資する具体的なアプローチを模索することを目的とし、各班員のフィールドのデータを主に縦断的に検討した。
研究方法
平成5~7年の3年間の長寿科学研究において、91問からなるQOLとその関連要因に関するアンケート調査が、各班員のフィールドの約9,000人の高齢者に行われている。本年度はこのアンケート実施以前あるいは以後に同じあるいは別のアンケート調査の行われている対象についてQOLや生命予後に関する縦断的な検討を行った。また、視点を広げて新しい検討も行った。
結果と考察
① 地域高齢者のための総合的、基本的かつ簡便なQOLの質問表を、多施設共同研究のデ-タをもとに試作し、その妥当性について種々の視点から検討した。対象は東京都5区市町と愛知県O市の 65 歳以上の高齢者合計 2,944 名である。QOL質問表試案は、Lawton の構成概念に従って、6要素19項目を抽出した。それらは、 Behavior competence(生活活動力)、Perceived QOL(健康満足感、人的サポート満足感、経済的ゆとり満足感)、Psychological well-being(精神的健康、精神的活力)であった。
東京都と愛知県O市について因子分析の結果を比較すると、地域が異なるにもかかわらず2つの地域とも6因子で寄与率が 43.1 %、46.3 %と最も高く、因子構造は一致し、信頼性係数も 0.814、0.833 と高値を示した。
老研式活動能力指標の手段的自立と本研究の生活活動力は5問中3問が同一であるため有意で高い相関を示した。GDSは健康満足感、経済的ゆとり満足感、精神的健康、精神的活力と高い相関を示した。LSIKの中では認知短期が本研究の生活活動力、健康満足感、経済的ゆとり満足感、精神的健康、精神的活力と有意な相関を示した。
一方、同時に質問した「現在の通院治療」は男女共健康満足度と有意な相関を示し、「配偶者の有無」は人的サポ-ト満足感、精神的健康、精神的活力と、「自分の部屋の有無」は男女共経済的ゆとり満足感と、「宗教を信仰」は精神的活力のみと有意に相関していた。
今回得られた6項目19問は地域高齢者のQOL評価に必要な基本的要素を備えていると考えられた。今後、質問項目の修正を含め、予測的妥当性や数地域での交差妥当性をさらに検討していく必要がある。
② 愛知県O市において、高齢者の日常生活に関する経時的アンケート調査から、高齢者のQOLの変化と、それに関連する健康状態、生活習慣等について検討した。対象は63~83歳の958人で、追跡期間は3年である。
60代のQOLは3年間の変化は少なく、項目別ではBehavioral competenceの変化が小さかった。 Perceived QOLと Psychological well-beingの変化に関連する項目は、日用品の買い物、配偶者、日常の身体活動、家族・近隣との会話等であった。
③ 秋田県N村の高齢者700名(回収率90%)において、Lawtonの提唱した高齢者のためのQOL概念に準拠して本研究班が作成した3領域から成るQOL指標( Behavioral competence、Perceived QOL、Psychological well-being)の同時的妥当性、および予測的妥当性を在宅高齢者の2年間の追跡調査に基づいて検討した。
その結果、本研究班作成のQOL指標はPerceived QOLに含まれる環境満足、経済的満足感を除いては老研式活動能力、生命予後、活動的予後を外的基準とした場合ほぼ妥当な指標であろうと推察された。
④東京都S区在住の65歳以上の高齢者に対して、1996年と1998年に本研究班で作成した「生活の質に対するアンケート」を行い、QOLの指標の変化とライフスタイルの変化について検討した。
QOLの指標は満足感の変化はあまり見られなかったが、精神的活力、精神的健康は75歳以上の男性で有意に低下した。ライフスタイルでは、身体活動に関する習慣は獲得した者、失った者など変化した者が多かったが、食習慣は変化した者の割合が少なかった。「サッサと歩く」習慣を失った者では、男性では経済的ゆとり満足感の増加と精神的活力の低下が、女性では精神的健康の低下が見られた。「人の世話をよくする」習慣のない者では男性は精神的活力が低下し、女性では精神的健康が増加した。
⑤ 愛知県A村の63歳以上住民1,813名を対象に新たに作成した7項目のQOL指標を用い、QOLとライフスタイルとの関係を縦断的に検討した。
生活活動力や健康満足感、精神的健康、精神的活力QOLの変化と運動や身体活動習慣の変化、人的サポート満足感QOLの変化と家族や隣人とよく話す習慣の変化が正の相関を示し、ライフスタイル改善がQOL改善に結びつく可能性が示唆された。
⑥ 新潟県の一農村の60歳以上の地域高齢者においてQOLと、性別・基礎疾患の関連を横断的に、またそのQOLと1年4ヶ月後の生命予後を縦断的に検討した。
QOLの構成要素別解析では生活活動能力は女性が男性に比べ高く、精神的活力、健康観、自己実現は男性の方が高かった。また基礎疾患の存在はQOLを低下させることが予測されたが、全ての疾患が同様ではなく、脳血管疾患が最もQOLを低下させることが示された。また縦断的検討では、アンケート後1年4ヶ月後以内に死亡した群は、生存群に比べQOL構成要素の生活活動能力、疾病、および自己実現が有意に低かった。
⑦QOLの基本的かつ包括的な6つの要素に対する身体活動の関係を性別・年代別に検討した。
6要素のスコアは、生活活動力および精神的活力において加齢とともに有意な低下を認めた。習慣的に運動を実施している者、あるいは日常歩行を実施している者では運動習慣のない同じ身体活動スコアの者に比し、健康満足感、精神的健康、精神的活力において高値を示した。男性では習慣的な運動が、一方女性では日常歩行がそれぞれ健康満足感と精神的健康にpositiveに影響していた。この結果は、QOLに及ぼす身体活動の効果と運動習慣および日常歩行の効果の性差を明らかにした。
結論
地域高齢者のための総合的、基本的かつ簡便なQOLの質問表を、多施設共同研究のデ-タをもとに試作し、その妥当性について種々の視点から検討した。
今回得られた6項目19問はBehavior competence(生活活動力)、Perceived QOL(健康満足感、人的サポート満足感、経済的ゆとり満足感)、Psychological well-being(精神的健康、精神的活力)であった。これらは地域高齢者のQOL評価に必要な基本的要素を備えていると考えられた。今後、質問項目の修正を含め、予測的妥当性や数地域での交差妥当性をさらに検討していく必要がある。
次に、これらQOL指標の性・年齢別変化を検討すると、60代のQOLの変化は特にBehavioral competenceで少なく、特に75歳以上の男でのQOLの低下が顕著であった。
基礎疾患の存在はQOLを低下させたが、基礎疾患の種類によってQOLの低下は異なり、脳血管障害で最も大きな低下を示した。以上の結果は、性、年齢、基礎疾患等がQOLに大きな影響を与える事を示している。
QOLとライフスタイルとの関係を縦断的に検討すると、各ライフスタイルの変化がQOLの変化と関係していた。
これらの結果はライフスタイル改善がQOL改善に結びつく可能性を強く示唆した。

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