長寿者の壮年期生活習慣と健康に関するコホート研究

文献情報

文献番号
199800256A
報告書区分
総括
研究課題名
長寿者の壮年期生活習慣と健康に関するコホート研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 昌(東京農業大学)
研究分担者(所属機関)
  • 水野正一(東京都老人研究所)
  • 小島光洋(宮城県栗原保健所長)
  • 田辺穣(愛知県衛生部長)
  • 吉田紀子(鹿児島県保健福祉部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の健康状態が長年の生活習慣の蓄積によることは当たり前のこと
と想像されているが、実際に地域住民を長期に追跡調査した研究は少ない。80歳
代、90歳代の高齢者が増えており、この年齢層の実態把握とともに、同一人の40
歳、50歳代頃の生活習慣と 比較できれば疾病の原因あるいは健康な生活につなが
る要因を解明できる可能性がある。本研究は鹿児島県、愛知県、宮城県において30
年前に設立した6府県コホート対象者の追跡調査をし、転出、死亡を確認し、生存者
を対象に現状を再調査することを目的とする。生存者は70歳-89歳の高齢者に
なっているので、介護を必要とするものについては介護者への質問票によって介護の
状態なども把握する。本研究で得られる健康な長寿にいたる要因はそのまま健康教育
等に実施しうるもので、将来の高齢者の医療費軽減などに多大の成果をもたらすと思
われ、衛生行政上の基礎資料となる。
研究方法
鹿児島県では昨年種子島の追跡調査を終えたが、今年度は1965年に設定
したコホートの大口市6477名、加世田市6242名分の1983年以後の追跡調査を計画した。愛
知県は昨年に続き、数地域でやく1000名の再調査をおこなった。
栗原保健所の所管する宮城県栗原郡は高齢化率が25%に近く、町村の保健事業のかな
りの部分が高齢者の健康に当てられている。特に平成12年度からの公的介護保険制度
の開始を控え、高齢者の実態を把握する機会が多くなっている。そこで、町村の保健
活動において、(1)高齢者の自立度はどのように把握されているか、(2)その妥当
性(代表性、再現性)が保証されているか、を確認した。確認は町村の担当者(主に
保健婦)に対しての面接と半構造化インタビューで行った。運動習慣については、
(1)高齢者の運動をどのように規定しているか、(2)高齢となった時点での健康を
指向した運動指導が壮年者に対しての保健活動として取り上げられているか、を同様
の方法で確認した。
性格が高齢者の健康に影響をおよぼすかどうかは不明である。東京農大では
NEO-FFIの日本人向け調査票を開発していたが、今年度は岩手と東京の高齢者にたい
して妥当性調査を行った。
結果と考察
鹿児島県では1965年に設定したコホートの大口市6477名、加世田市6242名
分の1983年以後の追跡調査をおこないそれぞれ2950名、2277名の生存を確認した。死
亡リスクについて解析した結果、20本以上の喫煙は男性で1.31、女性は1.36の相対リ
スクを示した。生存者に対し、2955名へ郵送調査を行い、1797名(60.8%)の回答を
得た。対象者が高齢のため本人回答は68.8%であった。1965年時点での喫煙率は43.1%
であったが、今回は9.1%であった。食習慣の変化では牛乳摂取の増加と魚、漬物、味
噌汁の低下がみられた。食習慣の欧風化と加齢による嗜好変化もあると思われる。愛
知県は昨年に続き、数地域でやく1000名の再調査をおこなった。調査時期が遅れたた
めに現在まだ集計中である。
宮城県では平成12年度からの公的介護保険制度の開始を控え、高齢者の実態を把握す
る研究を先行させた。すべての町村で、高齢者の自立度の指標として用いられていた
のは、障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準であった。これは、J(生
活自立)、A(準寝たきり、いわゆるHouse-bound)、B(寝たきり、いわゆる
Chair-bound)、C(寝たきり、いわゆるBed-bound)の4ランクに分け、さらに各ラン
クの中を2つに分けているものである。実際の分類は、高齢者宅へ訪問した際に保健
婦または看護婦によってなされたものが報告される。いくつかの市町での報告を基
に、妥当性を検証した。検証は、調査された高齢者の中での各ランクの占める割合を
参考とした。結果はJ、Aのランクづけのばらつきが大きいことが提示された。
高齢者の運動習慣を把握するためには、高齢者にとっての運動を規定することが必
要とされた。特に、自立度としての身体機能の維持に影響をもたらす運動を把握する
必要がある。ここで施設入所をしているような人(主にChair-bound)に対しての体
力評価の方法が現在確立されていないことが指摘され、検討課題とされた。東京農大
では高齢者の健康意識や行動がどのように性格の影響をうけているかを検討した。あ
らたにNEO-FFI質問票を開発し、岩手、東京の2個所で高齢者を調査し、性格と健康状
態の関連を明らかにした。
長期縦断的コホート研究では観察が長年にわたるため後になって情報の分かりやすさ
を保証する方法や技術が重要となり、得られたデータ等の情報の維持管理に特別の配
慮が必要となる。そこで本年度は各種情報を整理記録する方法を開発及び応用する目
的でパソコン上で動作する Application Soft としてのメモシステムの開発を行っ
た。またリンケージ分析のための方法論的開発が検討された。
結論
3年度で10000名の再調査により高齢者のコホートを作成する計画は2年目を終え、ほぼ計画通り進行した。予備的な疫学解析で長期間の生活習慣の成人病への影響や、
生活習慣を良くした場合のリスク軽減を証明できることが示唆された。また、高齢者
の体力評価や長寿に関連した調査方法の開発も平行して進められ、高齢者の体力評価
として開発された木村のバッテリーテストが、行政の保健活動において標準化されて
適用可能であることを見出した。また、性格の健康意識や行動に対する影響を分析す
る方法の開発が図られた。これは疫学分野ではほとんど取り組まれてこなかった課題
である。

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