B型肝炎ウイルス感染受容体の分離・同定と感染系の樹立及び感染系による病態機構の解析と新規抗HBV剤の開発

文献情報

文献番号
201321004A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルス感染受容体の分離・同定と感染系の樹立及び感染系による病態機構の解析と新規抗HBV剤の開発
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
上田 啓次(国立大学法人大阪大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森石 恆司(山梨大学大学院医学工学研究部医学学域・微生物学講座)
  • 黒田 俊一(名古屋大学大学院生命農学研究科生命技術科学専攻産業生命工学研究分野)
  • 黒木 和之(金沢大学がん進展制御研究所中央実験施設 分子生物学)
  • 岡本 徹(大阪大学 微生物病研究所 分子ウイルス分野)
  • 三善 英知(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 機能診断学講座)
  • 三崎 亮(大阪大学生物工学国際交流センター・細胞生物学・応用微生物学)
  • 竹原 徹郎(大阪大学大学院医学系研究科・消化器内科学)
  • 考藤 達哉(独立行政法人国立国際医療研究センター国府台病院肝炎・免疫研究センター)
  • 大崎 恵理子(大阪大学大学院医学系研究科感染免疫医学講座ウイルス学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 B型肝炎創薬実用化等研究経費
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
153,846,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 HBVの特性に基づいて開発された抗HBV剤はなく、変異体の出現も多いため、ウイルス排除に向けた新規薬剤・治療法の開発が望まれる。本目標の達成にはHBV感染現象を追跡できる感染系の構築が不可欠であり、それにはHBV感染受容体(HBV-R)を分離・同定する必要がある。感染系の構築によりHBV感染制御へ向けた新たな展開が期待できる。
 HBV膜粒子を被ったレトロウイルス(HBVpp)を駆使した感染能を指標にしたスクリーニングにより肝癌由来培養細胞株にHBV付着因子が存在するという示唆を得、上田は本分子を分離、森石は付着因子発現細胞の濃縮に成功した。付随因子同定も考慮しつつ、H25年度中にMS解析により本分子を同定、H25~26年度を目処にin vitro感染系の樹立を目指す。
 今までHBVpolの活性測定系はなかったが、現時点で、末端蛋白領域(TP)、逆転写酵素領域(RT)の発現に成功し、HBVpol活性測定系の確立、立体構造に基づく相互作用化合物の探索が視野に入ってきた。感染系による評価と合わせて、HBVpolの特異性・特性に基づいた新規治療薬の探索・開発を目指す。
 糖鎖修飾はHBV感染動態へも影響し、病態により糖鎖修飾状態は変動する(Trends Microbiol. 14:211)。糖鎖修飾や免疫制御遺伝子の変動を探索し、肝炎発症・免疫抑制機序の解明に迫る。
研究方法
1)肝癌培養細胞株(HepaRG)を感染(分化)誘導し、HBV側リガンド;PreS1~HBs N端部をプローブにして相互作用因子を処理細胞から分離した。
2)NTCP発現細胞を作製し、HBV感染能やBNC取込み能を検討した。
3)PreS1に結合能によりNTCP発現細胞を分画し、NTCP高発現株を分離し、種々の感染法を検討した。
4)YFPやルシフェラーゼ遺伝子(GLuc)を内在するリコンビナントHBVゲノムとHBV膜タンパク発現ベクターを作製したパッケージング細胞にトランスフェクションしリコンビナントHBV作製状態を検討した。
5)HBV産生細胞(HB611)における糖鎖修飾状態を検討した。
6)HBVpp発現細胞と非発現細胞について、糖鎖構造解析を行った。
7)B型肝炎患者PBMCを用い、FACSにより細胞表面マーカー;CD33+CD11b+ CD14+HLA-DR-分画(骨髄由来抑制性免疫細胞;MDSC)細胞数を評価した。
8)HBV産生系(HBV発現ベクターのトランスフェクションによる)で、NK細胞、pDC、BDCA3DC共存下で、ISGの誘導、IDO産生量を測定した。
9)HBVポリメラーゼ逆転写ドメイン(RT)の大腸菌のコドン利用に則したGST融合発現ベクターを構築し、発現・精製し、活性を測定した。
結果と考察
1)HepaRGを分化誘導し、HBV側リガンド領域(preS1~preS2若しくはHBsN端まで)に結合する因子HBV-RX1は受容体の一成分として機能していると思われた。
2)HepG2においてNTCPを強制発現し、preS1ペプチド結合分画を分取、EDTA-トリプシン処理で感染性が著しく向上することから、HBVはNTCPの発現局在に一致した細胞間接着面からの感染が示唆された。
3)HBV産生は宿主感染細胞に糖鎖修飾状態を変化させる(シアル酸、コアフコース)ことが示唆された。
4)B型慢性肝炎患者の抹消血中の骨髄由来抑制性免疫細胞(MDSC)の上昇は、MDSCのHBV感染対する免疫抑制誘導反応の一端であると思われる。HBeAg陰性者や、HBV DNA量が低い患者で高い傾向があり、seroconversionや病態の進展にMDSCの機能が関与していることを示唆している。
5)B型慢性肝炎・肝癌患者の血清中キヌレニン濃度の有意な上昇やHBV産生依存性にIFN-γがIDOを誘導することは、HBV感染によるIDOを介した制御性T細胞による免疫抑制機序を示唆している。
結論
1)培養細胞におけるHBV受容体の発現とHBVの感染様式に関し、細胞接着面を経由するなど興味深い結論が得られた。
2)NTCPは単独でHBV受容体として機能しているのではなく、副因子の存在が示唆された。
3)HBV感染による感染宿主細胞の糖鎖修飾状態が変化することが示され、病態との関連が示唆された。
4)HBV感染によるMDSC機能の変化、IDOの誘導など免疫抑制機構の作動し、個体内における免疫機能が修飾されることが示唆された。特に、HBV産生が起るとNK細胞、pDC、BD3ADCの相互作用によりIDOやISGが誘導され、HBV産生を調節していることが示唆された。
5)HBVpolの精製度を高めることが不可欠であるが、high-throughput活性測定系への基盤が得られた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-02-25
更新日
-

収支報告書

文献番号
201321004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
200,000,000円
(2)補助金確定額
200,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 122,098,623円
人件費・謝金 25,558,510円
旅費 826,890円
その他 5,367,756円
間接経費 46,153,000円
合計 200,004,779円

備考

備考
差額4779円は自己資金(寄付金その他の収入額)として調達した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-