ウイルス性慢性肝疾患の病態に影響を与えるmiRNA多型の網羅的探索

文献情報

文献番号
201320036A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性慢性肝疾患の病態に影響を与えるmiRNA多型の網羅的探索
課題番号
H25-肝炎-若手-015
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
三木 大樹(独立行政法人理化学研究所 統合生命医科学研究センター 消化器疾患研究チーム)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝疾患の診療現場において、宿主ゲノム情報を活用した個別化医療が現実のものとなってきた。すなわち、ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって、C型慢性肝炎患者に対するインターフェロン治療の効果を強く規定するIL28B遺伝子多型が発見され、ガイドラインにも盛り込まれるなど、すでに臨床応用がなされている。他にも、GWASはウイルス性肝炎の易罹患性や肝癌への進展などに関連する遺伝子多型あるいは一塩基多型(SNP)を明らかにしてきた。しかし、GWASではカバーしきれないゲノム領域の存在や、統計学的検出力の不足などの問題があり、依然として全ての遺伝的要因が解明された訳ではない。その一方で、最近、機能を有するノン・コーディングRNA、中でも21~25塩基ほどのmiRNAが肝疾患を含む多くの疾患で新規バイオマーカーとして期待され、これを核酸医薬の標的としたC型慢性肝炎治療薬の臨床試験が進行中であるなど、注目が集まっている。わが国における肝炎対策が急務であるという点では、臨床応用に比較的近い位置にあるmiRNAを研究対象にすることは期待度が高いと思われる。また、医療の個別化を意識する点において、SNP解析という実績のある手法を用いることは妥当であると思われる。昨今、発展目覚しい種々の大規模データベースを活用することで、効率的に、これまでのGWASでは明らかにできなかったウイルス性慢性肝疾患の病態・種々の表現型に関連するmiRNAの多型の同定、さらにはその臨床応用を目指す。
研究方法
1. 網羅的アプローチ:GWASデータあるいは公開されたデータベースを利用し、解析対象SNPを網羅的に絞り込む。2. 候補アプローチ:ウイルス性肝疾患の病態に重要であると考えられている免疫システムや炎症、線維化、癌関連の遺伝子を標的とし得るmiRNAの近傍のSNPについては、優先的に解析候補として扱う。3. 上記、1.および2.によって抽出した候補SNPについて、虎の門病院、札幌厚生病院、広島大学病院とその関連病院といった研究協力施設で収集されたサンプルを用いて、PCR-based SNP genotyping (Invader assay)を行い、サンプルに付随した臨床情報に基づいて、統計学的検定を行っている。
結果と考察
まず、我々が行った日本人ウイルス性慢性肝疾患のGWASデータから、種々の病態との関連が示唆される遺伝子座位の近傍に位置するmiRNAのうち、pri-miRNAあるいはpre-miRNAあるいはmature miRNA上にSNPを有するものをデータベースから検索した。さらに、アジア人におけるマイナーアレル頻度や、miRNA発現の組織特異性など、公開された複数の統合データベースから得られる情報も含めて、多面的な評価を行った上で優先順位を付け、解析候補となるmiRNA多型を抽出した。また、この網羅的アプローチと並行して、既報などから有望と思われる候補遺伝子あるいはパスウェイを制御し得る候補miRNA多型を、解析候補として抽出した。このようにして、これまでに約200個のSNPを解析候補として抽出しており、順次、それぞれの解析対象となる表現型に対応したスクリーニング用サンプルを用いて、genotypingを行っている。すでに、発癌やウイルス量等との関連が示唆されるmiRNA多型を複数認めているが、引き続き追認試験を行った上で、再現性を慎重に確認しなくてはならない。再現性の確認ができたものについては、表現型に影響を与えるメカニズムを明らかにするための機能解析を予定する。今後予定されるmiRNAの機能解析を行う上での、in vitroあるいはin vivoの実験系も段階的に構築を進めている。一方で、GWASデータの解析において、本年度中にいくつかの新たな成果があった。C型慢性肝炎から肝硬変への進展、C型慢性肝炎の易罹患性について、HLAの多様性が重要であることを遺伝学的に示すことができた。HCV感染の慢性化には、HLA-DQB1*03を規定するSNPが強く関連しており、この多型が、欧米で関連が報告されているIFNL4多型と相互作用していることを示唆する知見を得たため、これらとmiRNA多型との相互作用についても、現在、解析中である。
結論
GWASデータや公共のデータベースを活用することで、解析候補となるmiRNA関連SNPを抽出し、相当数のサンプルを用いてgenotypingを行った。ウイルス性慢性肝疾患の病態との関連が示唆されるSNPを複数同定することができたため、現在、追認試験を進めている。また、HCV感染慢性化におけるHLAとIFNL4の遺伝子多型の重要性、および両者の相互作用を示唆する結果を得た。これらを含む免疫応答におけるmiRNA多型の役割についても、検討して行くこととした。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201320036Z