移植肝へのC型肝炎ウイルス再感染阻害法の確立

文献情報

文献番号
201320028A
報告書区分
総括
研究課題名
移植肝へのC型肝炎ウイルス再感染阻害法の確立
課題番号
H23-肝炎-若手-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渡利 彰浩(国立大学法人大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 角田 慎一(医薬基盤研究所 蛋白質工学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
  肝移植は肝細胞癌に対する根治療法として臨床的意義が極めて高いものの、本邦における肝細胞癌の90%はC型肝炎由来であることから、移植片に対するC型肝炎ウイルス(HCV)の再感染阻害が本邦の肝細胞癌治療における最重要課題の一つとなっている。最近、claudin (CL)-1がHCVの感染受容体であり、抗CL-1抗体がHCVの感染阻害活性を有するといった報告がなされたことから、CL-1を標的としたHCV 感染阻害戦略が提唱された。これらの背景を踏まえ、本研究は、当研究グループが所有するCL binderを用いた粘膜ワクチン、粘膜吸収促進法などの創薬研究技術、およびCL提示出芽バキュロウイルス (CL-BV)と遺伝子改変マウス等を融合したCL binder創製技術を有効活用し、現在唯一HCV感染阻害効果が実証されているCL-1 binderを創製することで、肝移植片に対するHCV再感染阻害法の開発を試みた。
研究方法
  gp64トランスジェニックマウスおよびCL4-BVを利用した一本鎖抗体 (scFv)ライブラリの作製を試みた。まず、抗原として出芽バキュロウイルスの膜蛋白質発現系を活用することでCL4-BVを作製し、gp64トランスジェニックマウスに免疫することにより、CL-4に対する抗体産生を誘導した。CL4-BV免疫マウスの脾臓をもとにscFvライブラリを構築した。CL-4発現HT1080 (HT1080/CL-4)細胞を用い、CL-4 binderのスクリーニングを行った。
結果と考察
  昨年度に取得したCL-1結合性scFv提示ファージよりscFv蛋白質を精製し、CL-1への結合性を確認したが、CL-1への結合性は認められなかった。この結果を受けて、CL binderのスクリーニング方法に改善の余地があると判断し、CL発現BVによるスクリーニング方法から、よりCLの立体構造を保持しているCL発現細胞を用いたスクリーニング方法(Cellパンニング、Cell ELISA)を検討することにした。スクリーニング系の構築として、CL binderの開発において先行しているCL-4 binderのスクリーニング系構築を試みた。
  ライブラリについては、昨年度開発に成功している、gp64トランスジェニックマウスを利用した方法を採用した。gp64トランスジェニックマウスにhCL4-BVを免疫することで抗hCL-4抗体の産生を誘導し、本マウスの脾臓をもとにscFv提示ファージライブラリを構築した。作製したライブラリは、スクリーニングソースとして十分な多様性を有していた。続いて、本ライブラリからHT1080/CL-4細胞によるパンニング操作を複数回行った結果、HT1080/CL-4への結合性を有するクローンが複数得られた。また、これらのクローンは野生型のHT1080には結合性を示さないものであった。以上の結果より、gp64トランスジェニックマウスを利用することによりHT1080には結合せず、HT1080/CL4に結合性を示すbinderを取得することに成功した。今回、CellパンニングによるCL binderの取得を試み、CL-4に結合性を示すファージクローンの取得に成功したものの、その結合能は十分とはいえないものであった。したがって、今後は今回確立したCell パンニング、Cell ELISAの系を改良し、高結合性CL binderを取得できる系へと改善する必要があると考えられる。
結論
  平成25年度は、新たなCL binderスクリーニング系を構築し、以下の成果を得た。 (1) gp64トランスジェニックマウスにhCL-4提示BVを免疫し、本マウスの脾臓から得たRNAをもとに、多様性に優れたscFv提示ファージライブラリを作製した。 (2) CellパンニングおよびCell ELISAによるCL binderスクリーニング系を構築し、CL-4 binderのスクリーニングを試みた結果、結合性は弱いものの、CL-4の細胞外領域に結合性を示すscFv提示ファージの取得に成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201320028B
報告書区分
総合
研究課題名
移植肝へのC型肝炎ウイルス再感染阻害法の確立
課題番号
H23-肝炎-若手-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渡利 彰浩(国立大学法人大阪大学 大学院薬学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 角田 慎一(医薬基盤研究所 蛋白質工学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
  肝移植は肝細胞癌に対する根治療法として臨床的意義が極めて高いものの、本邦における肝細胞癌の90%はC型肝炎由来であることから、移植片に対するC型肝炎ウイルス(HCV)の再感染阻害が本邦の肝細胞癌治療における最重要課題の一つとなっている。最近、claudin (CL)-1がHCVの感染受容体であり、抗CL-1抗体がHCVの感染阻害活性を有するといった報告がなされたことから、CL-1を標的としたHCV 感染阻害戦略が提唱された。これらの背景を踏まえ、本研究は、当研究グループが所有するCL binderを用いた粘膜ワクチン、粘膜吸収促進法などの創薬研究技術、およびCL提示出芽バキュロウイルス (CL-BV)と遺伝子改変マウス等を融合したCL binder創製技術を有効活用し、現在唯一HCV感染阻害効果が実証されているCL-1 binderを創製することで、肝移植片に対するHCV再感染阻害法の開発を試みた。
研究方法
  一本鎖抗体 (scFv) 提示ファージライブラリの作製には、CL欠損マウスもしくはgp64トランスジェニックマウス、およびhCL提示出芽バキュロウイルス(hCL-BV)を利用した。まず、抗原として出芽バキュロウイルスの膜蛋白質発現系を活用することでhCL-BVを作製し、各種マウスに免疫することにより、hCLに対する抗体産生を誘導した。続いて、hCL-BV免疫マウスの脾臓をもとにscFvライブラリを構築した。CL binderのスクリーニングにはhCL-BVもしくはhCL発現細胞を利用した。
結果と考察
  hCL-1結合性scFvを創製するため、まず scFvライブラリの作製およびhCL-1 binderスクリーニングの際に用いるhCL-BVを作製した。続いて、hCL-BVを免疫したCL欠損マウスをもとに、scFv提示ファージライブラリを作製し、hCL1-BV を利用したhCL-1 binderのスクリーニングを行ったが、得られたbinderのほとんどがバキュロウイルスの膜蛋白質であるgp64に結合するものであった。そこで、gp64に結合するbinderを排除するため、gp64に対し免疫寛容が起こっているgp64トランスジェニックマウスを利用し、再度scFv提示ファージライブラリを構築した。作製したライブラリからhCL-1 binderのスクリーニングを行ったところ、gp64には結合せず、hCL-1に結合するファージクローンを複数得ることに成功した。しかしながら、これらのファージクローンをもとにscFvの精製を行い、hCL-1への結合性を確認したものの、hCL-1への結合性は認められなかった。そこで、CL binderのスクリーニング方法を改善すべく、hCL発現細胞を利用したスクリーニング方法(Cellパンニング、Cell ELISA)の検討を行った。その結果、hCL発現細胞を利用することでhCL-BVによるスクリーニングとは異なったCL binderを取得できる可能性を見出した。
結論
  本研究では、HCV感染阻害活性を有するhCL-1結合性scFvを取得するため、CL欠損マウスもしくはgp64トランスジェニックマウス、およびhCL提示バキュロウイルスを利用したhCL免疫scFvライブラリの作製を試み、その構築には成功したものの、hCL-BVを利用したhCL-1 binderのスクリーニング系では有用なhCL-1結合性scFvの取得には至らなかった。そのため、hCL発現細胞を利用した新たなCL binderのスクリーニング系を構築した。今後は最適なCL binderスクリーニング系の開発や当研究グループが保有するCL binder開発技術を総動員することにより、HCV感染阻害活性を有するhCL-1 binderの取得を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201320028C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究はHCV感染阻害活性を有するdruggable CL-1 binder候補分子を創製することを目的とし、H23~24年度を通じてCL-1結合性ファージディスプレイscFvの取得を試みた結果、複数単離することに成功したが、本ファージをもとに作製したscFvではCL-1への結合性は示さなかった。そのため、新たにCell ELISAを利用したCL binderスクリーニング系を構築した。今後は本スクリーニグ系等を用いることでHCV感染阻害活性を有するCL-1 binderの取得を試みる。
臨床的観点からの成果
肝癌に対する根治療法として肝移植が実施されているものの、肝癌患者の90%以上がHCV陽性のため、移植片に対するHCV感染は不可避であり、移植後5年以内に30%の患者で肝硬変まで進行しているのが現状である。そのため、本研究で実施を試みたHCV感染阻害法の開発はC型肝炎治療において重要課題の一つとなっている。本研究では、HCV感染阻害活性を有するCL-1 binderの作製法に関する様々なノウハウの蓄積に貢献したと考えられる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
25件
学会発表(国際学会等)
29件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Li X., Kondoh M., Watari A., et al.
Effect of 70-nm silica particles on the toxicity of acetaminophen, tetracycline, trazodone, and 5-aminosalicylic acid in mice.
Pharmazie , 66 (4) , 282-286  (2011)
原著論文2
Abe Y., Yoshikawa T., Inoue M., ey al.
Fine tuning of receptor-selectivity for tumor necrosis factor-α using a phage display system with one-step competitive panning.
Biomaterials , 32 (23) , 5498-5504  (2011)
原著論文3
Narimatsu S., Yoshioka Y., Watanabe H. et al.
Lysine-deficient lymphotoxin-α mutant for site-specific PEGylation.
Cytokine , 56 (2) , 489-493  (2011)
原著論文4
Narimatsu S., Yoshioka Y., Morishige T., et al.
Structure–activity relationship of T-cell receptors based on alanine scanning.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 415 (4) , 558-562  (2011)
原著論文5
Yamashita T., Okamura T., Nagano K., et al.
Rho GDP-dissociation inhibitor alpha is associated with cancer metastasis in colon and prostate cancer.
Pharmazie , 67 , 253-255  (2011)
原著論文6
Yoshioka Y., Tsunoda S., Tsutsumi Y.
Development of a novel DDS for site-specific PEGylated proteins.
Chem. Cent. J. , 5 (25) , 1-6  (2011)
原著論文7
Takahashi A, Kondoh M, Suzuki H., et al.
Pathological changes in tight junctions and potential applications into therapies.
Drug Discov Today.  (2012)
原著論文8
Watari A, Yagi K, Kondoh M.
A simple reporter assay for screening claudin-4 modulators.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 426 (4) , 454-460  (2012)
原著論文9
Yamashita T., Nagano K., Kanasaki S., et al.
Annexin A4 is a possible biomarker for cisplatin susceptibility of malignant mesothelioma cells.
Biochem. Biophys. Res. Commun. , 421 (1) , 140-144  (2012)
原著論文10
Morishige T., Yoshioka Y., Narimatsu S., et al.
Mutants of lymphotoxin-α with augmented cytotoxic activity via TNFR1 for use in cancer therapy.
Cytokine , 61 (2) , 578-584  (2013)
原著論文11
Yamagishi Y., Watari A., Hayata Y., et al.
Hepatotoxicity of sub-nanosized platinum particles in mice.
Pharmazie , 68 (3) , 178-182  (2013)
原著論文12
Iida M., Yoshida T., Watari A., et al.
A baculoviral display system to assay viral entry.
Biol. Pharm. Bull. , 36 (11) , 1867-1869  (2013)
原著論文13
Nagano K., Kanasaki S., Yamashita T., et al.
Expression of Eph receptor A10 is correlated with lymph node metastasis and stage progression in breast cancer patients.
Cancer Medicine , 2 , 972-977  (2013)
原著論文14
Yamashita T., Kamada H., Kanasaki S., et al.
Epidermal growth factor receptor localized to exosome membranes as a possible biomarker for lung cancer diagnosis.
Pharmazie , 68 , 969-973  (2013)
原著論文15
Nagano T., Higashisaka K., Kunieda A., et al.
Liver-specific microRNAs as biomarkers of nanomaterial-induced liver damage.
Nanotechnology , 24 , 405102-405109  (2013)
原著論文16
Li X., Saeki R., Watari A., et al.
Tissue distribution and safety evaluation of a claudin-targeting molecule, the C-terminal fragment of Clostridium perfringens enterotoxin.
Eur. J. Pharm. Sci. , 14 (52) , 132-137  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
2017-01-20

収支報告書

文献番号
201320028Z