マイクロRNAを標的とした新規抗C型肝炎ウイルス治療戦略の開発

文献情報

文献番号
201320027A
報告書区分
総括
研究課題名
マイクロRNAを標的とした新規抗C型肝炎ウイルス治療戦略の開発
課題番号
H23-肝炎-若手-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渡士 幸一(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、マイクロRNA (miRNA)等宿主因子を標的とした新規抗C型肝炎ウイルス(HCV)治療法の開発を目的とした。そのために(1) miRNA阻害剤TPFによるHCV複製抑制効果、(2) miRNA以外のHCV複製増殖に関わる宿主因子の同定、(3) (2) を標的とした抗HCV剤のリード化合物の同定、を主におこなった。
研究方法
 miR-122依存的HCV複製は、miR-122を過剰発現したHeLa細胞へのHCV RNA導入によるコロニー形成および、HCVレプリコンを有するHuh-7細胞を用いた。化合物スクリーニングは、HCV RNAを導入したHuh7-25細胞に化合物を72時間処理し、培養上清中のHCV感染力価を測定することによりおこなった。HCV coreタンパク質の細胞内局在は、免疫蛍光法によりさまざまなオルガネラマーカーと共検出することにより観察した。MA026の標的スクリーニングには、MA026を固相化したプレートおよびランダムペプチドライブラリーを表出するファージを用いたファージディスプレイ法を用いた。MA026とclaudin-1との結合は表面プラズモン共鳴により評価した。
結果と考察
 (1) miRNA阻害剤によるHCV複製抑制作用メカニズムの解析
 miRNA阻害剤TPFの処理によりHeLa細胞におけるmiR-122依存的HCV複製、およびHuh-7細胞内のレプリコン活性が減少した。この作用メカニズムの一つとして、TPFにより用量依存的にHCV翻訳活性の低下が認められた。
(2) 抗HCV効果を有する低分子化合物の探索
 感染性HCV (HCVcc)産生系を用いて抗HCV作用を有する化合物をスクリーニングした。その結果、感染性HCV産生を1/3以下に低下させるものとして17化合物が得られた。この際、いずれも細胞毒性はほとんど示さなかった。
(3) halopemideの宿主標的同定および抗HCV作用機序の解析
 halopemideはHCV RNA複製および粒子形成には影響を与えることなくHCV放出を有意に低下させた。またhalopemideの宿主標的の一つであるphospholipase D (PLD)に対するsiRNAを導入したところこの細胞からの感染性HCV産生が約1/3に減少した。PLD阻害によってアルブミン、アポリポタンパク質などの宿主分泌タンパク質の放出にはほとんど影響せず、またこの時、HCV coreタンパク質がゴルジに蓄積していることが観察された。
(4) MA026の宿主標的同定および抗HCV作用機序の解析
 pseudomonasより抽出された新規天然有機化合物MA026がHCV侵入を阻害することをHCVcc産生系で明らかにした。またファージディスプレイ法による標的分子探索により、claudin-1の細胞外ループと相同性を有するペプチドをMA026標的配列として得た。表面プラズモン共鳴によりMA026とリコンビナントclaudin-1タンパク質の結合が確認された。
(5) SCY-635のインターフェロン経路修飾作用機序の解析
 SCY-635を処理したHCV感染細胞ではISG15、MxAなどのIFN下流遺伝子のmRNA発現は変化することなく、これらのタンパク質量が増加することが明らかとなった。またSCY-635処理によってリン酸化PKRおよびリン酸化eIF2aの顕著な低下が認められた。このSCY-635のリン酸化PKR低下作用はシクロフィリンの阻害を介していることが示唆された。

 以上のようにmiRNA阻害剤TPFおよび他の宿主因子を標的とする抗HCV化合物halopemide, MA026, SCY-635の作用機序を解析した。その結果、halopemideはPLD阻害によりゴルジからのHCV輸送を阻害し、HCV放出を低下させることが示唆された。MA026はclaudin-1と結合する低分子化合物であることが明らかとなり、これはHCV侵入阻害効果を有することが示された。またSCY-635はこれまでHCV RNAを直接阻害することが報告されていたが、それに加えて今回の結果よりIFN下流遺伝子の発現上昇を介するHCV複製抑制作用も有することが示唆された。
結論
 以上のように本研究では、miRNAおよびそれ以外の宿主因子を標的とすることにより抗HCV作用を示す低分子化合物を同定した。これらの化合物を至適化することによりさらに良好な抗HCVプロファイルを持つ化合物が同定できると期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201320027B
報告書区分
総合
研究課題名
マイクロRNAを標的とした新規抗C型肝炎ウイルス治療戦略の開発
課題番号
H23-肝炎-若手-008
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
渡士 幸一(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、マイクロRNA (miRNA)等宿主因子を標的とした新規抗C型肝炎ウイルス(HCV)治療法の開発を目的とした。そのために(1) miRNAを標的とした戦略として、miRNA阻害剤trypaflavine (TPF)によるHCV複製抑制効果の検証、(2) miRNA以外のHCV複製増殖に関わる宿主因子を同定し、またこれを標的とした抗HCV剤のリード化合物の同定、を主におこなった。
研究方法
miR-122依存的HCV複製/翻訳活性は、感染性HCV (HCVcc)産生系およびレプリコンを用いて評価した。またmiRNAとargonaute 2 (AGO2)の結合は主にRNA precipitation assayで検出した。抗HCV化合物のスクリーニングおよびヒット化合物の評価には主にHCVcc産生系を用いた。HCV侵入過程および複製/翻訳過程の活性測定にはHCVシュード粒子系およびHCVレプリコンをそれぞれ用いた。化合物の標的探索にはファージディスプレイ法、化合物とタンパク質のin vitroでの結合は表面プラズモン共鳴により観察した。各種タンパク質はイムノブロット法で検出した。
結果と考察
 (1) miRNA阻害剤によるHCV複製抑制作用メカニズムの解析
miR-122によるHCV複製上昇作用にはAGO2が重要であることが示唆された。miRNA阻害剤TPFによるHCV複製の顕著な減少が認められたが、これはmiR-122とAGO2の結合減弱を伴っていた。またTPFはHCV翻訳ステップを阻害していた。
(2) miRNA以外の宿主標的をもつ抗HCVリード化合物の同定
 1. 抗HCV効果を有する低分子化合物の探索
HCVcc産生系を用いたスクリーニングにより、感染性HCV産生を1/3以下に低下させるものとして17化合物が得られた。
 2. halopemideの解析
halopemideはHCV放出過程を阻害することが示唆された。またこの作用は宿主phospholipase D (PLD)阻害を介していると考えられた。PLD阻害によってアルブミン、アポリポタンパク質などの宿主分泌タンパク質の放出にはほとんど影響しないが、HCV粒子放出特異的な減少が見られた。
 3. MA026の解析
pseudomonasより抽出された新規天然有機化合物MA026はHCV侵入を阻害することが示唆された。またMA026とリコンビナントclaudin-1タンパク質の結合が確認された。
 4. SCY-635の解析
HCV感染細胞においては、IFNによる下流遺伝子発現誘導が減弱していることが示された。しかしながらSCY-635は、IFNによる下流遺伝子のmRNA発現は変化させず、タンパク質発現を上昇させることが明らかとなった。またこれはSCY-635によるリン酸化PKRおよびリン酸化eIF2aの顕著な低下を介した作用であると示唆された。またこれらの作用は主にcyclophilin Aが担っていると考えられた。

 以上のようにmiRNA阻害剤TPFはmiR-122とAGO2を解離させることにより主にHCV翻訳を抑制することが示唆された。一方本研究において、miRNA阻害剤とは別系統の抗HCV剤を複数同定した。これらのうちhalopemideはHCV放出過程を、MA026はHCV侵入を阻害し、SCY-635はIFNによるHCV排除の促進効果を有することが明らかとなった。
結論
 以上のように本研究では、miRNA以外に創薬標的となり得る宿主因子およびこれを標的とするリード化合物を同定した。これはHCV生活環のさまざまなステップおよびこれを制御する宿主因子が低分子化合物の標的として機能し、HCV生活環全般を標的とする抗ウイルス剤開発が可能であることを示唆するものである。得られたリード化合物を至適化することにより、また同定された宿主因子と結合する低分子化合物を新たにスクリーニングすることにより、新たな抗HCV剤を同定できると期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201320027C

収支報告書

文献番号
201320027Z