免疫機能を保持したヒト肝細胞キメラマウスによる慢性肝炎モデル作出

文献情報

文献番号
201320026A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫機能を保持したヒト肝細胞キメラマウスによる慢性肝炎モデル作出
課題番号
H23-肝炎-若手-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
紙谷 聡英(東海大学 創造科学技術研究機構)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルス性肝疾患の治療法研究が困難な理由として、ウイルスの種特異性によりマウス・ラットといった簡便な実験動物による研究が困難な点がある。免疫機能を保持したまま肝細胞をヒト化できる系の確立が、肝炎ウイルスによる慢性肝炎の動物モデル作成を通じた新規治療法開発のために必須である。
本研究では、これまでの免疫不全動物モデルではなく、免疫系の完成していない胎生期や新生児期のマウス肝臓にヒト肝幹・前駆細胞を移植して自己免疫寛容を誘導する。生体内では自己抗原を認識する免疫細胞を排除する選択システムが存在する。胎生・新生児期にヒト細胞を移植し、ヒト細胞をレシピエントの免疫系に自己と認識させ免疫寛容を促すことで生着を可能にする系を構築する。
研究方法
HBV, HCV由来の慢性肝炎モデル作成に必要な免疫系を保持したヒト肝細胞キメラマウスの作出技術を確立を目的として、次の研究を遂行する。
・ヒト繊維芽細胞からの肝前駆細胞の分化誘導系の構築、
・肝障害誘導マウス胎児および新生児肝臓への肝前駆細胞の移植による、ヒト肝細胞キメラマウスの作出
・作成したキメラマウスにおける免疫系の評価および肝炎ウイルスの感染実験

結果と考察
ヒト胎児線維芽細胞に、レトロウイルスベクターを用いて、HNF4AおよびFoxA2に加えて、Mist1, Bcl6, HLFの強制発現を行った。肝細胞増殖培地で培養したのちに肝細胞マーカーであるアルブミンの発現をリアルタイムPCRにて解析することで網羅的なスクリーニングを行った。その結果、Bcl6を発現させたときのみ、HNF4AおよびFoxA2との相加効果を示し、肝分化を促進できることがわかった。一方、マウス線維芽細胞の時と異なり、Mist1, HLFでは肝機能遺伝子の発現誘導などは見られなかった。以上の結果から、ヒト細胞の新規肝分化誘導因子としてBcl6を同定した。
また、移植後に肝障害の誘導できるマウスモデルとして、ジフテリアトキシン受容体を肝細胞特異的に発現するマウスの開発を行った。Cre依存的にジフテリアトキシン受容体を発現するiDTRマウスはJAXマウスより購入した。また、肝細胞特異的にCreを発現するAlbAFPCreマウスはDr. Kaestnerより供与されたものを使用している。両トランスジェニックマウスを掛け合わせたダブルトランスジェニックマウスでは、ジフテリアトキシン刺激による肝障害を発症する。そこで、まずさまざまな濃度でジフテリアトキシンを注射し肝障害の程度を観察することで、適切な濃度を設定した。次に、GFPトランスジェニックマウス由来の肝前駆細胞を分離し、脾臓経由で移植したのちにジフテリアトキシン添加により肝障害を誘導した。その結果、ジフテリアトキシン添加によりレシピエント肝細胞の細胞死が誘導されることで、ドナーの肝前駆細胞の増殖・生着が促進されることを見出した。
結論
1) ヒト線維芽細胞から肝前駆細胞を分化誘導するために必要な遺伝子群の探索を行い、既知の分化誘導因子であるHNF4AおよびFoxA2、3に加えて、新規の肝分化誘導因子としてBcl-6を同定した。

(2) ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞をモデルとして、2方向の分化能を維持したまま長期間培養できる条件を決定した。

(3) 新規肝障害モデルマウスとしてiDTR・AlbAfpCreマウスを作製した。得られたマウスに肝前駆細胞を移植し、ジフテリアトキシン添加による肝障害誘導を行うことで、移植細胞の生着が可能なことを見出した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201320026B
報告書区分
総合
研究課題名
免疫機能を保持したヒト肝細胞キメラマウスによる慢性肝炎モデル作出
課題番号
H23-肝炎-若手-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
紙谷 聡英(東海大学 創造科学技術研究機構)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型、C型肝炎ウイルス(HBV, HCV)の感染は免疫・炎症反応を介して慢性肝炎を発症し、肝硬変・肝癌の原因となる。HBV, HCVは種特異性から、マウス等の実験動物を用いた感染実験が困難である。近年開発された免疫不全ヒト肝キメラマウスでは、HBV, HCVのin vivoでの感染・増殖が可能だが、免疫細胞が欠損しており感染後に生じる慢性肝炎が再現されない。そこで本研究では、免疫系の完成していない胎生期や新生児期のマウス肝臓にヒト肝幹・前駆細胞を移植し、ヒト細胞をレシピエントの免疫系に自己と認識させることで免疫寛容を促す。これにより、免疫不全動物を使用せず異種移殖に対する免疫拒絶反応を抑制することで、免疫系を保持した状態でのヒト細胞の生着を可能としたキメラマウスを作成し、in vivoにおける肝炎ウイルスの感染・増殖に伴う炎症反応の再現系を構築する。
研究方法
本研究では、(1)ヒト線維芽細胞を肝細胞系へと分化誘導する新規因子の同定、(2)ヒト肝前駆細胞の長期培養系の構築、(3)マウス新生児への肝前駆細胞の移植系の構築、の3点に関して解析を行なう。

結果と考察
HNF4AおよびFoxA2に加えて発現させることで、肝分化をより促進できる因子の探索を行った結果、HLH型核内因子の一つであるMist1を強制発現した際にアルブミンが強く誘導されることを見出した(PCRおよび免疫染色)。さらに、チトクロームP450 (CYP)3A11等の成熟肝細胞のマーカー遺伝子の発現誘導も観察された。また、Bcl-6およびHepatic leukemia factor (HLF)といった転写因子に関しても、HNF4AおよびFoxA2と同時にマウス線維芽細胞に発現することで、アルブミンやチロシンアミノトランスフェラーゼ等の肝細胞マーカー遺伝子の発現が強く誘導されることを見出した。以上の結果から、既知因子(HNF4AおよびFoxA2)に加えてMist1, Bcl6, HLFをマウス新規肝分化誘導因子として同定した。さらにヒト細胞で同様の実験を行った結果、Bcl6を発現させたときのみ、HNF4AおよびFoxA2との相加効果を示し、肝分化を促進できることがわかった。一方、マウス線維芽細胞の時と異なり、Mist1, HLFでは肝機能遺伝子の発現誘導などは見られなかった。
 マウス胎仔および新生仔への移植系の構築では、どのような移植系が有用かの検討を行っている。マウス新生仔の眼底静脈を経由した移植では、細胞の一部が肝臓へ効率的に移行する一方で、肺への細胞の侵入・吸着も多く見られた。今後、このような条件下でマウス肝幹・前駆細胞がどのような挙動を示すのか解析するとともに、本年度より作製している新規肝障害マウスモデル等を用いて検討を行う予定である。

結論
(1) ヒト線維芽細胞から肝前駆細胞を分化誘導するために必要な遺伝子群の探索を行い、既知の分化誘導因子であるHNF4およびFoxA2、3に加えて、新規の肝分化誘導因子としてBcl-6を同定した。

(2) ヒトiPS細胞由来肝前駆細胞をモデルとして、2方向の分化能を維持したまま長期間培養できる条件を決定した。

(3) 新規肝障害モデルマウスとしてiDTR・AlbAfpCreマウスを作製した。得られたマウスに肝前駆細胞を移植し、ジフテリアトキシン添加による肝障害誘導を行うことで、移植細胞の生着が可能なことを見出した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201320026C

収支報告書

文献番号
201320026Z