小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握とワクチン戦略の再構築に関する研究

文献情報

文献番号
201320024A
報告書区分
総括
研究課題名
小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握とワクチン戦略の再構築に関する研究
課題番号
H25-肺炎-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
須磨崎 亮(筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 乾 あやの(済生会横浜市東部病院こどもセンター)
  • 井上 貴子(公立大学法人名古屋市立大学大学院)
  • 内田 茂治(日本赤十字社中央血液研究所)
  • 惠谷 ゆり(大阪府立母子保健総合医療センター)
  • 清原 知子(国立感染症研究所ウイルス第二部第五室)
  • 久保 隆彦(独立行政法人国立成育医療研究センター・産科)
  • 黒川 真奈絵(聖マリアンナ医科大学大学院)
  • 滝川 康裕(岩手医科大学)
  • 田中 純子(広島大学医歯薬保健学研究院)
  • 福島 敬(筑波大学医学医療系)
  • 村田 一素(国立国際医療センター肝炎・免疫センター)
  • 森島 恒雄(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 佐々木 美香(岩手医科大学・医学部小児科学講座)
  • 高野 智子(大阪府立急性期・総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
36,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
B型肝炎(HB)ワクチン定期接種化の検討のため重要な3課題を研究した。1小児期のB型肝炎ウイルス(HBV)感染の実態把握、2HBワクチンの効果とくに接種後のHBs抗体陽転率とHBs抗体持続期間、3genotypeの異なるウイルスに対するHBワクチン効果。本年度の厚生労働省通知で新生児期からHBワクチン接種が承認され、4HBV母子感染予防処置の新たな指針を定めた。
研究方法
課題1:小児生活習慣病予防検診と国立感染症研究所の感染症流行予測調査を利用し健常小児疫学調査実施。(1) 茨城県小児生活習慣病予防検診を受けた小学4年生の残余血清を用いHBs抗原とHBc抗体の検査実施。(2) 国立感染症研究所の血清銀行検体で、HBs抗原とHBc抗体の検査した。(3) 日本小児感染症学会アンケート調査、大阪小児科医会の調査に基づき小児B型肝炎の発生数を推計。課題2:(1) HBV未感染かつHBワクチン未接種の岩手医科大学と筑波大学の医療系学生にHBワクチンを3回接種し1か月後にHBs抗体を測定し陽転率を調査。(2) 筑波大学附属病院でHBV感染リスクの高い医療従事者対象にHBs抗原HBs抗体HBc抗体検査実施。HBs抗原陽性者は二次検診を行い感染経路を調査。HBs抗原陰性者は以前のHBs抗体価と比較。課題3:Genotype C由来ワクチン、ビームゲンを接種したボランティアの末梢血から精製したモノクローナルHBs抗体のうち抗原決定基aのループ構造部を認識する抗体2種でヒト肝細胞キメラマウスでHBV感染防御試験を実施。キメラマウス肝細胞の三次元培養系を用いin vitroで HBV感染中和試験を実施。
結果と考察
課題1:(1) 小児生活習慣病予防検診の受診者3,549名のうち97,7%で保護者の同意を得て検査実施。HBs抗原陽性者は0名、HBc抗体陽性者は18名(0.52%、95%CI 0.28-0.76%)。HBVキャリアに比しHBc抗体陽性者は多く地理的に散在していて幼児期から学童期にかけHBV一過性感染が家族内など小集団で起こっている可能性が推測された。(2) 15府県の健康小児(4-9歳)2,000名でHBs抗原検査実施結果、3名(0.15%)HBVキャリアでうち2名同一感染源と推定。また10代の小児200名でHBc抗体検査し4名(2%)がHBc抗体陽性。(3) 日本小児感染症学会の調査で、母子感染による小児のHBV感染数は全国で107例/年、水平感染も含め小児B型肝炎発生者数は150人/年。大阪小児科医会の調査で小児B型肝炎診療数は小児人口10万人あたり7.8例/年(0.008%)。この2調査を平均すると小児B型肝炎キャリア率は0.011%小児B型肝炎の発生数は全国で年間120人程度と推計。課題2:(1) 392名のワクチン接種者は10 mIU/ml未満(Non responder)は24名(6%)、10~100 mIU/ml(Low responder)は113名(29%)、100 mIU/ml以上(Responder)は255名(65%)。HBV母子感染予防処置のためにワクチン接種を受けた乳児は90~98%がResponderで若年成人は明らかに乳児よりHBs抗体産生能が低い。(2) 医療従事者676名に調査を行いHBs抗原陽性のHBV感染者は10名。二次検診により4名で一過性のHBV職業感染が疑われた。感染者10名を除く666名の医療従事者は過去のHBワクチン3回接種してもHBs抗体陰性者(10 mIU/ml未満)が150名(23%)いた。これらの人にHBワクチンの追加接種し免疫記憶の有無を調べる予定。課題3:日本で市販の genotype C由来のHBワクチンより得られたヒトモノクローナル抗体はgenotype AのHBVに対してもgenotype Cと同等に感染防御能があった。課題4:(1)当班が中心に作成した「B型肝炎ウイルス母子感染予防のための新しい指針」が小児科、産科の関連学会から出され標準的なHBV母子感染予防法の詳細を定めた。(2) 出産前から使用できるHBV母子感染予防専用のワクチン予診票を作成した。


結論
健常小児のHBV キャリア率はいずれの調査でも極めて低いが対象集団によって幅がみられた。また散発的で小規模なHBV一過性感染の存在が推測され水平感染の正確な頻度を把握する事の重要性が再確認された。HBワクチンの接種効果は若年成人は乳児より低かった。定期接種化の対象年齢を定める上で参考にすべき点である。genotype C由来のHBワクチン接種によって得られたヒトモノクローナル抗体はgenotype A genotype Cとほぼ同等に感染防御能を有る事が確認できた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201320024Z