高齢者の健康維持・増進支援システムの開発

文献情報

文献番号
199800253A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の健康維持・増進支援システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉武 裕(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 川久保清(東京大学)
  • 田中宏暁(福岡大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界保健機関(WHO)は、高齢者の健康の指標として生活機能における自立をもって当てはめることを提唱している。このことは、高齢者の健康づくりにおいては、活動余命の延長の重要性を示している。
活動余命の保持には、身体的自立が必須条件となり、それには体力は基礎的で重要である。特に、後期高齢者における体力の衰えは “体力の低下→身体活動量の低下→不活動身体機能の衰え→疾病の増大"といった悪循環を形成することになる。この悪循環は介護の必要な高齢者を増大させることになることから、高齢社会を迎えたわが国においては、75歳以上の後期高齢者の増大による脆弱な高齢者の増大が危惧されている。
しかし、後期高齢者一人ひとりの身体機能に応じた体力の維持・増進するためのシステムはないのが現状である。
そこで本研究班では、高齢者の健康寿命の延長を図るために、1)高齢者の身体活動量測定システム(吉武)、2)運動指導と安全確保のための負荷解析システム(川久保)、および3)高齢者の運動処方評価システムについて検討し、高齢者の健康維持・増進支援システムを開発することを目的とした。
研究方法
1)高齢者の身体活動量測定システム(吉武):20~70歳代の男女を対象に、試作した身体活動量測定システム(ヘルシーフィットシステム)を用いて、フロアー歩行時の歩行率、加速度を測定し、本システムの身体活動量(エネルギー消費量)測定器としての有用性について検討した。2)運動指導と安全確保のための負荷解析システム(川久保):既存の診断的運動負荷試験のデータベースを用いた。負荷試験停止アルゴリズムとして、①年齢別最大心拍数(220-年齢)の85%、②ST下降(0.2mV以上)、③収縮期血圧過大上昇(220mmHg)、④収縮期血圧下降(前値より20mmHg下降)の4条件とし、自動停止条件とその理由等について検討した。3)高齢者の運動処方評価システム(田中):中高年者を対象に、電動式自転車エルゴメータによるランプ負荷で自覚最大までと75%Vo2maxHRまでの2試験を実施した。そして、両負荷試験の時の血圧、心拍数を連続的に記録し、二重積屈曲点(DPBP)の測定と心電図の解析により、DPBPの出現とST下降の関係について検討した。
結果と考察
1)高齢者の身体活動量測定システム(吉武):通常歩行においては、男女とも同一の推定式において身体活動量(エネルギー消費量)の推定が可能であることが示唆された。2)運動指導と安全確保のための負荷解析システム(川久保):本アルゴリズムによる自動停止理由としては心拍数によるものがもっとも多かったが、実際の中止理由の中には自覚症状によるものがかなり含まれていた。一方、自動停止に該当せず負荷試験を終了した者の理由は大部分が下肢疲労などの自覚症状であった。
本アルゴリズムによる自動停止が医師による中止基準より早期にみられた例について検討した。その結果、自動停止理由が血圧上昇や血圧下降によるものは実際より3分以上、また心拍数やST下降によるものは1~2分程度早く自動停止基準に達していた。
3)高齢者の運動処方評価システム(田中):いずれの負荷試験法でもDPBPの発現がみられ、その時のST変化はいずれもDPBP発現以後にみられた。
考察
1)高齢者の身体活動量測定システム(吉武):通常歩行において、酸素摂取量と歩行率の関係式を青年と中高年者で比較した場合、男女とも有意な差は認められなかった。しかし、速歩においては年齢により異なる傾向がみられた。このことから、本システムの歩行率による日常生活の歩行時の身体活動量(エネルギー消費量)は同一推定式を用いて測定することが可能であることが示唆された。2)運動指導と安全確保のための負荷解析システム(川久保):本アルゴリズムを自動診断の負荷基準に採用した場合、本対象では44.4%において安全確保の上で問題が指摘された。しかし、これらは主観的運動強度などの自覚症状をモニターすることによって解決される可能性が示唆された。本研究において、実際の負荷中止基準より早く自動停止する例がみられた。心拍数の場合は、最大心拍数の設定基準が低かったためと考えられるが、平均1.2分と短く臨床的に問題はないと思われた。血圧の場合は、血圧測定エラーによるものが大部分を占めていると考えられることから、測定法の問題が考えられた。この解決法として、自動停止における血圧基準値を高く設定するか、あるいは血圧基準を負荷停止基準から除く必要性も示唆れた。3)高齢者の運動処方評価システム(田中):心電図自動診断システムとDPBP測定システムを1つのシステムとして運動負荷試験を実施した。その結果、ST低下はDPBPの発現以後に認められた。このことから、運動負荷中にリアルタイムに強度とDP、STレベルのトレンドをモニタリングできるシステムによって安全な運動強度を処方できるものと考えられた。
結論
高齢者の日常生活における歩行状況を把握し、その運動強度および運動量を把握するシステムとして、吉武の試作した身体活動量測定システムは有用であることが示唆された。運動負荷試験の自動停止システムにおいては、自動負荷停止の問題が指摘されたが、自覚症状をモニターすることによって改善の可能性が示唆された。また、川久保の心電図自動診断システムと田中のDPBP自動測定システムを1つのシステムにすることにより、高齢者の安全で有用な運動処方が可能になることが明らかにされた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-