文献情報
文献番号
201320015A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルスの複製増殖および病原性発現機構と薬剤感受性の解析
課題番号
H25-肝炎-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
脇田 隆字(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
- 土方 誠(京都大学 ウイルス研究所)
- 飯島 沙幸(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
- 森石 恆司(山梨大学大学院 医学工学総合研究部)
- 池田 正徳(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
- 大西 俊介(北海道大学大学院 医学研究科)
- 萩原 正敏(京都大学大学院 医学研究科)
- 三浦 直行(浜松医科大学 医学部)
- 八木 清仁(大阪大学大学院 薬学研究科)
- 水口 裕之(大阪大学大学院 薬学研究科)
- 石井 孝司(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
- 杉山 和夫(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
肝炎ウイルス感染症は我が国における最も重要な疾患のひとつであり、その対策を迅速に進める必要がある。近年開発中の抗HCV薬に対する感受性や耐性変異などウイルス学的研究が必要である。さらに薬剤耐性HBVの出現およびそのコントロールが問題である。また、近年我が国土着の人獣共通感染症としてHEV感染症が問題となってきた。特に老人における感染では重症化・劇症化する場合がある。これらの肝炎ウイルスに関する問題点を解決するためには、ウイルス複製増殖機構や病原性発現機構を理解することが重要である。
研究方法
新規ウイルス培養系の開発と、ウイルス培養系を利用して、ウイルス複製増殖過程と病原性発現機構を解析した。さらに、抗ウイルス薬に対する感受性を解析した。ウイルス培養系を利用してウイルスライフサイクルの各過程を標的として研究を進めた。さらに、必要な宿主因子を明らかにして、新規感染動物モデルの開発を試みた。また、最近著しい進歩をとげている細胞リプログラミング技術を利用して、肝炎ウイルス感染感受性を有する新たな培養細胞モデルの開発を進めた。
結果と考察
(1)遺伝子型3のHCV感染モデルを確立した。遺伝子型3のHCV感染細胞における脂肪滴とコア蛋白質の局在を検討した。
(2)構造領域をトランスに供給し、トランスパッケージングされるHCVサブゲノムレプリコンを樹立した。キメラHCV(1b/2a)の持続感染細胞および再持続感染可能な治癒細胞を樹立した。
(3)HEV株の全長クローンを構築し、合成したHEV RNAが培養細胞で増殖した。HEVの構造蛋白領域をレポーター遺伝子に置き換えたレプリコンを作成し、増殖阻害剤のスクリーニングを開始した。複数の阻害活性を有する化合物を同定した。
(4) Lカルニチン投与により、HCV増殖抑制、肝脂肪化抑制、酸化ストレス抑制効果を確認した。また、Genotype1b TPF クローンISDR変異株の培養細胞における増殖を確認した。
(5) ミツバチのプロポリスの主成分であるCAPEおよびその類縁化合物がHCVゲノム複製阻害活性を有した。IFNα、Daclatasvir(抗NS5A)、VX222(抗NA5B)に対して相乗効果を示したが、NS3プロテアーゼ阻害剤(Telaprevir, Danoprevir)にアンタゴニスト効果を示した。
(6) 抗酸化蛋白発現を指標とし、肝炎ウイルス増殖阻害物質を複数見出すことに成功しており、その他にも抗HCV薬1骨格、抗HBV薬1骨格について薬効評価およびスクリーニングを実施している。
(7) GGTase IIを構成するRab Escort Protein (REP)-2がHCV感染に必須であることを明らかにした。また、感染のステップではRab蛋白質のなかでRab13が重要であることを明らかにした。
(8) ウイルス複製効率の著しく異なるgenotypeを用いてCP領域部位のキメラウイルスを構築した。これらキメラウイルスについて複製効率、蛋白発現等について解析し、関与する領域の絞り込みを行った。
(9)HCVの全ゲノムRNAに対するcDNAをP1 プロモーターで発現するトランスジェニックマウスを作成した。マウス血液中には感染性を有するウイルスが106 copies/ml検出できた。
(10) HCVの感染が可能な培養細胞を作成するために、独自に樹立したヒト肝幹細胞を成熟した肝細胞に分化させる方法の開発をおこなった。また、組換え体HCV(JFH1)の感染をレポーター遺伝子発現によって検出するシステムを開発した。
(11) ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導過程を5段階に分け、それぞれRNA発現量を 網羅的に測定したデータに関して解析を行い、HCV侵入・複製に関わる宿主側因 子候補の絞り込みを行っている。
(12) 種々のiPS・ES細胞におけるIL28B遺伝子領域の一遺伝子多型を検討したところ、全てメジャーアリルであった。またiPS細胞由来分化誘導肝細胞において、HCV感染に関する自然免疫関連因子が、ヒト初代肝細胞と同程度発現していた。
(2)構造領域をトランスに供給し、トランスパッケージングされるHCVサブゲノムレプリコンを樹立した。キメラHCV(1b/2a)の持続感染細胞および再持続感染可能な治癒細胞を樹立した。
(3)HEV株の全長クローンを構築し、合成したHEV RNAが培養細胞で増殖した。HEVの構造蛋白領域をレポーター遺伝子に置き換えたレプリコンを作成し、増殖阻害剤のスクリーニングを開始した。複数の阻害活性を有する化合物を同定した。
(4) Lカルニチン投与により、HCV増殖抑制、肝脂肪化抑制、酸化ストレス抑制効果を確認した。また、Genotype1b TPF クローンISDR変異株の培養細胞における増殖を確認した。
(5) ミツバチのプロポリスの主成分であるCAPEおよびその類縁化合物がHCVゲノム複製阻害活性を有した。IFNα、Daclatasvir(抗NS5A)、VX222(抗NA5B)に対して相乗効果を示したが、NS3プロテアーゼ阻害剤(Telaprevir, Danoprevir)にアンタゴニスト効果を示した。
(6) 抗酸化蛋白発現を指標とし、肝炎ウイルス増殖阻害物質を複数見出すことに成功しており、その他にも抗HCV薬1骨格、抗HBV薬1骨格について薬効評価およびスクリーニングを実施している。
(7) GGTase IIを構成するRab Escort Protein (REP)-2がHCV感染に必須であることを明らかにした。また、感染のステップではRab蛋白質のなかでRab13が重要であることを明らかにした。
(8) ウイルス複製効率の著しく異なるgenotypeを用いてCP領域部位のキメラウイルスを構築した。これらキメラウイルスについて複製効率、蛋白発現等について解析し、関与する領域の絞り込みを行った。
(9)HCVの全ゲノムRNAに対するcDNAをP1 プロモーターで発現するトランスジェニックマウスを作成した。マウス血液中には感染性を有するウイルスが106 copies/ml検出できた。
(10) HCVの感染が可能な培養細胞を作成するために、独自に樹立したヒト肝幹細胞を成熟した肝細胞に分化させる方法の開発をおこなった。また、組換え体HCV(JFH1)の感染をレポーター遺伝子発現によって検出するシステムを開発した。
(11) ヒトiPS細胞から肝細胞への分化誘導過程を5段階に分け、それぞれRNA発現量を 網羅的に測定したデータに関して解析を行い、HCV侵入・複製に関わる宿主側因 子候補の絞り込みを行っている。
(12) 種々のiPS・ES細胞におけるIL28B遺伝子領域の一遺伝子多型を検討したところ、全てメジャーアリルであった。またiPS細胞由来分化誘導肝細胞において、HCV感染に関する自然免疫関連因子が、ヒト初代肝細胞と同程度発現していた。
結論
肝炎ウイルスの複製増殖機構および病原性発現機構の解析によるに対する新たな治療法の開発は患者の予後を改善する可能性がある。また、薬剤感受性の解析によりより適切な治療選択を可能とすることが期待できる。さらに最近ウイルス性肝炎患者を広く検診で拾い上げ、治療が必要な患者に対して適切な治療を行うことが社会的な要請であり期待である。この要請に応えるためにはより効果の高い治療法を低コストで実施できるよう開発していく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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