情報・通信技術を応用した高齢者支援システム

文献情報

文献番号
199800252A
報告書区分
総括
研究課題名
情報・通信技術を応用した高齢者支援システム
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小笠原康夫(川崎医科大学)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医科大学)
  • 吉原博幸(宮崎医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会を迎え、高齢者がQOL(quality of life)の面でも充実した日常生活を送るためには、まず健康面での支援をはかることが望まれる。このためには高齢者の日常時の健康に関する適切な情報を収集し、保健・医療・福祉の関係機関や関係者へ伝達可能とすることにより、健康状態の把握や疾病管理に役立てることが要請される。しかし現状では、特定の目的のものを除き、こうした高齢者の健康情報の収集・記録・伝送と、これに基づく関係者間での情報交換を迅速・円滑に可能とする手段は、ほとんど見られない。そこで本研究では、最近、発展の著しい情報・通信技術の応用により、在宅や施設の高齢者の各種健康情報の収集・記録・伝送・処理を容易・的確また迅速に可能とし、保健・医療・福祉関係機関や関係者間で、これら情報の伝達・共有・交換の円滑実施を可能とする4つのシステムを開発しようとする。そして、これらのシステムの試用を通じて実用化をはかり、保健・医療・福祉面から高齢者の日常生活の支援を行おうとするものである。
研究方法
上記の研究目的のもとに、昨年度までに実施した各システムの設計・試作などに基づき、各システムについて次のような研究開発を進めた(かっこ内は分担研究者名)。
1.保健・福祉情報の収集・伝送システム(稲田):在宅高齢者の健康情報としてのバイタルサインを収集し、かかりつけ医のいる医療機関などへ伝送可能なシステムを開発するべく、本年度は、昨年度に試作した心電図・身体活動度収集ユニットと動脈血酸素飽和度(SpO2 )収集ユニットに分けた第1次プロトタイプの試用と評価に基づき、2つのユニットを一体化するとともに、SpO2 プローブの改良や収集するデータ項目の変更などを加えた第2次プロトタイプの設計・試作を行った。そして、この第2次の試用により得られたデータの統計処理結果から、被験者の健康状態の変化の把握が可能かどうかを検討した。
2.高齢者の循環機能評価のための微小血管動態観察・処理システム(小笠原):高齢者を対象としたアクセスが容易な顕微鏡システムを構築・応用し、ヒト舌下部微小循環に対する各種薬剤の反応を直接観察・解析して、加齢に伴う臓器機能の診断や病態の解明を行おうとした。本年度は、昨年度までに開発した画像計測システムと画像解析法を用いた微小循環計測・解析に関する研究として、開発した顕微鏡システムを応用し、ヒト舌下部微小循環に対する血管拡張剤ニトログリセリンの投与反応を直接、観察・解析した。
3.高齢者の健康管理のための問診システム(吉田):本研究では、高齢者のQOL の向上を目標に、在宅高齢者に対して適切な健康情報を提供するため、昨年度までに開発したインターネットホームページを介しての専用の問診項目に対する回答の収集をはかった。本年度は、在宅高齢者からの健康情報収集手段として、昨年までのものに加え、公衆電話回線を用い、電話を端末として情報を収集する方法を開発した。このため、高齢者に親和性の高い情報端末であるプッシュホンによる入力を受け付ける音声認識方式を導入した。
4.広域ネットワークを利用した健康情報支援システム(吉原):高齢者とその介護者、訪問看護婦・保健婦など保健・医療関係者と、専門の医療機関とのコミュニケーションを高め、健康情報の共有により在宅医療における諸問題の解決をはかるべく、昨年度までに通信サーバを構築し、WWW サーバと実験的なデータベースサーバを構築するとともに、電子機器に不慣れなユーザ用インターフェイスを設計・検討した。本年度は昨年度に引き続き、患者個別の問診情報の管理、電子カルテシステムとの連携などについて検討した。
結果と考察
上述の各システムに関する本年度の研究について、得られた主な結果を記す。
1.保健・福祉情報の収集・伝送システム:バイタルサイン収集サブシステムの第2次プロトタイプでは、収集するデータとしてSpO2 、脈拍数、身体活動度、イベント心電図波形にしぼり、指先装着式SpO2 プローブの外光の影響を除くようにした。データ伝送は、電話回線、モデム、小型ノートパソコンによるものを基本とし、携帯電話など移動通信メディアによる戸外での伝送も可能とした。さらに、第2次プロトタイプを用い、一定時間内に収集したデータを睡眠中のものと日常活動中のものに分け、各データのトレンドグラム、対象区間のSpO2 の累積ヒストグラム、脈拍数の分布比率などを求め、解析した結果、少数例の検討ではあるが、被験者の健康状態の変化を把握しうることの可能性が窺われた。
2.高齢者の循環機能評価のための微小血管動態観察・処理システム:ニトログリセリン(GTN )を舌下に散布投与し、CCD 生体顕微鏡のニードルプローブを舌下粘膜に圧迫をかけないよう注意深く接触させ、観察した。観察部位は舌下動静脈の近位部・舌小帯・ワルトン管で囲まれる範囲内を走行する微小血管とした。対照時の微小血管像を記録後、血行動態の安定を再確認し、GTN スプレー0.3 mgを舌下噴霧した後の舌下部微小血管の拡張反応を30秒毎に5分間観察した。GTN の微小血管への作用は、小動・静脈、細動・静脈ともに拡張させたが、細動・静脈がより拡張した。本システムは今後の改良により、各種領域の微細循環構造の把握や薬剤耐性など病態生理学的な解明の手段としての有効性が窺われた。
3.高齢者の健康管理のための問診システム:収集された情報は、一定のアルゴリズムで分析し、インターネット端末利用者には画面で、プッシュホン利用者にはファックスにより結果を返還した。一方、分析結果を保健・医療・福祉関連機関に提供することにより、一元的に高齢者の健康情報を把握しうる。健診機関については高齢者健診の問診の代用となり、また福祉機関については、身体症状や精神面での問題の早期発見の手段として活用可能で、それぞれの対策に有用であり、医療機関については、福祉機関と連携をはかることにより、高齢者に対して必要な医療提供レベルを決定しうるものと期待された。
4.広域ネットワークを利用した健康情報支援システム:宮崎医科大学で実験的に稼働中の電子カルテシステムに診療情報を搭載し、別途、作製した問診サーバに患者の主病名に応じた問診データを設定して、患者が定期的にこれらのシステムにアクセスする実験を行った。患者がアクセスすると、患者ごと(主病名)に最適化された問診が行われ、入力データは自動的に電子カルテシステムに登録される。このデータは、医師の設定した基準に基づき自動的に評価され、異常のある場合は自動的に電子メールで担当医師に連絡される。このように本システムは、在宅患者と施設医療の橋渡しの役割を果たすものと考えられた。
以上のように、本年度はこれまでの成果をさらに進め、昨年度までに試作したシステムの改良や新機能の付加を行うとともに、各システムの本格的な試用実験を進めた。その結果、それぞれのシステムとも当初、目標とした機能をほぼ達成しうる見込みが得られた。しかしながら、いずれのシステムについても、高齢者を被験者とする実験の症例数は十分とはいえない上、システムの対象である高齢者とのインターフェイスにもまだ問題が残っていると思われた。したがって、今後、各システムの実用化をはかり、真に高齢者を支援するシステムとして役立つものとするには、引き続き研究を進め、高齢者を対象とした試用実験に基づき、実用化のための改良を重ねる必要があると考えられた。
結論
在宅や施設の高齢者を保健・医療・福祉の面から支援するため、高齢者の保健・医療情報の収集・記録と関係機関への伝送・処理、および関係者間での情報の共有を可能とする4つのシステムを開発するべく、昨年度までの成果に基づき、試作システムをほぼ完成させた。試用実験の結果、システムの機能はいずれも当初の目標を満足していることが窺われた。しかし、実用化のためには、今後も研究を継続し、改良を進める必要があろう。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-