中和抗体を用いたHIV感染症の「機能的治癒」をめざす新規治療法の開発

文献情報

文献番号
201319035A
報告書区分
総括
研究課題名
中和抗体を用いたHIV感染症の「機能的治癒」をめざす新規治療法の開発
課題番号
H25-エイズ-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松下 修三(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 玉村 啓和(国立大学法人 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 )
  • 五十嵐 樹彦(国立大学法人 京都大学 ウイルス研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
19,580,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の最終目的は、中和抗体を用いたHIV-1感染症の「機能的治癒」をめざした治療法の開発である。抗ウイルス療法(cART)の進歩により、HIV-1感染症の予後は著名に改善したが、長期治療の過程で様々な慢性合併症が起こる。その病態には、残存するウイルス増殖と慢性炎症の関与が考えられ、残存ウイルスの排除をめざす「治癒に向けた研究」は本領域で最も重要な研究である。我々は、化血研と共同で、HIV-1のV3-tipに対するヒト型単クローン抗体KD-247の第I相B臨床試験を行い、ヒトにおける安全性と有効性を確認した。注目すべきはKD-247の投与が終了し、血中濃度低下後もHIV-RNAのリバウンドが見られない症例が観察された点で、KD-247はHIVの中和ばかりでなく、慢性感染細胞を排除し、セットポイントを下げた可能性が示唆された。本研究班では、KD-247の臨床試験で明らかになった課題に取り組み、真に革新的な治療法に近づけるための非臨床研究を行う。
研究方法
1)臨床研究に向けた抗体療法の最適化の研究:抗体療法の対象症例の選定のため、HIV感染症例のエンベロープの配列を決定し、中和エピトープをスクリーニングした。臨床分離株のパネルやHIV感染症例よりクローニングしたエンベロープを用いたpseudovirusを作成し、抗体パネルとYYA-021の効果をスクリーニングした。2)CD4 mimic化合物としての新規骨格の構築:芳香環とオキサミドの一部をインドール骨格に置換する事で平面性を付与しつつ、分子全体としてのエントロピーの減少を目指した新規骨格を持つCD4 mimic化合物を合成した。3)霊長類モデルでのPOC試験: H22-政策創薬-一般-007で用いたのと同一の系を用いた。SHIV KS661株10,000 TCID50をインド産アカゲザルに静脈内接種した。16 mg/kgのKD-247をウイルス接種24時間、8および15日後に静脈内投与した。ウイルス接種前より経時的に採血し、血漿よりRNAを抽出、逆転写反応後、ウイルスgag遺伝子領域を増幅するリアルタイムPCR法により、血中ウイルス量を評価した。投与抗体の血中動態および抗イディオタイプ抗体の検出を試みた。
結果と考察
我が国における中和抗体療法の対象症例選択の第一歩として、subtype B感染症例117例のエンベロープ蛋白(Env)のV3配列を検討した。KD-247の臨床試験で用いたgenotypeの基準を用いると、臨床試験の候補となるのは31例(26.5%)であった。抗体による治療の対象症例拡大をめざし、候補抗体パネルを用いて、中和活性を増強する低分子CD4 mimic化合物YYA-021の存在下または非存在下で広範囲の臨床分離株に対する有効性を検討した。一連の実験の中で、subtype Bウイルス株に対する0.5γの効果を調べたところ、解析できたウイルス株の約80%に交差中和活性及びYYA-021による中和増強効果を認めた。CD4 mimicの新規骨格を検討し、構造の異なる有用化合物の創出研究を行った。CD4 mimicの芳香環部位とオキサミド部位に平面構造を付与しつつ構造固定化のためにインドール骨格含有化合物群を合成した。また、逆に構造固定化をしないオキサミド部位の還元型化合物群を合成し、有望な化合物を得た。霊長類モデルを用いた研究で、KD-247単独投与によるin vivoでのウイルス増殖阻止を検討した。SHIV-KS661曝露後ウイルス複製抑制効果はYYA-021との併用投与と同等の効果が観察された。使用した用量でYYA-021の効果が確認できなかった理由として、in vivoにおける薬物動態の関与が示唆された。これらの結果の中で、新たな治療用抗体候補の0.5γが、多くの臨床分離株を含む広範囲のウイルスに反応したこと及びYYA-021とは基本骨格の異なるCD4 mimicが同定されたことは特筆すべきであり、今後の抗体を用いた治療法の開発を促進するものである。
結論
今回、霊長類のPOC試験に用いたCD4 mimic (YYA-021)は、in vivoにおける薬物動態上の問題から、抗体との併用効果が判定ができなかった。一方、基本骨格の異なるCD4 mimicの作成に成功しており、in vitroの成績を蓄積して霊長類を用いたin vivo試験につなげる必要がある。これらを用いた「機能的治癒」をもたらす治療戦略が、現実のものになれば、我が国ばかりか、世界の保険、医療、福祉の向上に役立つ成果が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319035Z