移動・移乗システム

文献情報

文献番号
199800251A
報告書区分
総括
研究課題名
移動・移乗システム
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
土肥 健純(東京大学工学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田中理(横浜市総合リハセンタ)
  • 原徹也(東京都リハ病院)
  • 数藤康雄(国立身障者リハセンタ研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
移動は日常生活の中でも重要な活動であり、これが在宅で自立できることで高齢者のQOL(生活の質)は大きく向上する.この移動を支援するために現状で用いられている機器・用具としては杖、歩行器、車いす、リフトなどがあるが、一般の日本家屋では段差が多く通路も入り組んでいるなどのために使いにくい場合が多い.そこで本研究では高齢者が在宅で有効に利用できる自立支援機器として、移動介助用ロボットアームの開発を目的としている.
研究方法
移動支援においては、まず残存する身体能力の有効活用を考慮する必要がある.本研究では支えられれば歩ける程度の高齢者を対象としている.本研究では天井走行を利用することで、段差の多い家屋内でも確実に目的地まで到達できるシステムの実現を目指しており、剛性の高いアーム機構で高齢者の身体を支持する移動介助用ロボットアームを開発している.初年度は移動介助用ロボットアームについて機構と制御方法の概念設計、及び実験的なアーム装置の試作を行った。ロボットアームの機構設計に関してはベットや椅子等と組み合わせて用いることを考慮した。また、ソフトウェア面では起立から歩行を経て着席にいたる一連の動作を中断なく行うための制御手法を検討した。また、昨年度は機械的動力源をレール内部に移し、ロボットアームを軽量化する方法について研究した。具体的には機械的動力を内蔵したレールとそこから動力を引き出す機構を考案した。気候の考案にあたっては、ロボットアームがレール走行、回転、上下動の各動作を行うことから、これらの複数の動作をレール内部の単一動力源によって行わせることを目標とした。さらに実験機を設計・試作して考案した機構の有効性を検討した。本年度は、天井走行レール部分を、移動介助だけでなく、屋内の搬送など多目的に利用可能とすることで、天井走行レールの導入コストに見合うだけのメリットを、高齢者に提供することとした.体的には、天井走行ロボットアームを、可能な限り汎用化し、移動介助や食事搬送など個々のタスクに特化して最低限必要な部分のみを交換するデザインを検討した.共通化する部分としては、天井レールに沿っての走行、アーム部分の回転と上下動とした.そして個々のタスクに特化した交換アーム部分の開発については、移動介助用と食事搬送用の2タイプを用いることとした.以上にもとづく実験機を設計・試作し、高齢者用モデルハウスにて試用評価を行い、考案した機構の有効性を検討した。
結果と考察
汎用化されたロボットアームについては、さまざまな用途に用いられることから、すべての自由度を動力化し、制御用パソコンより、遠隔動作されるものとした.汎用部分に要求される機能として、レール走行とアーム部分の上下動および軸周りの回転がある.このうち、走行と上下動については、これまで開発してきたロボットアームにおいてACサーボモータにより動力化されていたが、回転については、電磁ブレーキによるロック機構のみであった.すなわち、移動中の回転時には、ブレーキをはずしてユーザが自分の足でゆっくりと向きを変えていた.しかし、移動介助だけでなく食事搬送にも用いるためには、回転動作についても動力化しなくてはならない.本年度は、これまでのレール走行、上下動に加えて回転までも行う機構部分を新たに開発した.食事搬送用アームとしての利用を.移動介助用の支持アーム部分を、食事を乗せるトレイに交換したことで、戸棚などから必要な物品を、ユーザのベッドサイドまで運ぶことができる.また、精神面への影響を考慮し、テレビ電話システムもとりつけた.モニタに映し出された遠隔の介護
者と会話しながら利用することで、ロボット機器使用に関する心理的抵抗感をなくすとともに、コミュニケーションの機会を提供することで物理面だけでなく、精神的な面からも高齢者をサポートできることが期待される.試作した機構部分と移動介助用アーム部分とを組み合わせ、国立身体障害者リハビリテーションセンター内の高齢者用モデルハウスにて試用実験を行った.20代健常男性を被験者として、移動介助の動作実験を行った.試用では、各々の介助動作を安全かつ確実に行えることを確認した.起立および着席動作を介助している際に、被験者人体とロボットアームの動き、いすとロボットアームにかかる力の4つを計測した. ロボットアームの上下の動作に追従して、被験者の腰の高さが変化しているが、特に、動作終了近くに大きく変化している.また、荷重については、起立の開始時と、着席の終了時に、いすによる支持とロボットアームによる支持が急激に交代している.起立および着席は、座位と立位の2つの定常状態の間での過渡的な現象であるが、試作した移動介助ロボットアームは、その変化の過程を通じて、被験者身体を適切に支持していたことがわかる.本年度は、汎用化された天井走行部分と、タスクにあわせて交換可能なアーム部分とにわけた設計を行った.実際に用いる際には、どのような状況でこれらを交換するかが課題となる.本ロボットアームでは、日常での個々の介助作業のたびにとりかえるのではなく、高齢者の身体状況の変化によって交換するのが最適であると考えられる.すなわち、身体能力の低下が軽い場合には、移動介助ロボットアームとして、支えられながら自分の足で動くために用いる.能力低下がすすみ、支えられても歩行移動が困難となった場合には、アーム部分をとりかえて食事搬送などに用いるという使い方で、同じ天井走行レールを、高齢者の身体状況変化にあわせて長く使いつづけられるようにするのである.これにより、従来の福祉機器で指摘されていた「体の状態が変化すると使えない」という問題に対処できることになる.今後の福祉機器は、このように高齢者の状態にできるだけ柔軟にあわせていく工夫が必要となると考えられる.
結論
高齢者の在宅自立生活の支援のための、天井走行方式による移動介助用ロボットアームの開発として、食事搬送など多目的に応用可能な汎用の天井走行部分と、個々のタスクに特化した交換可能なアーム部分とに分けて設計、試作した.実験機を試作し、高齢者用モデルハウスにて、歩行移動、起立、着席の基本的な動作の介助について試用評価を行った.その結果、本年度に考案した、汎用的な機構部分と、タスクに特化して交換可能なアーム部分にわけての設計により、コストの大きな天井走行レール導入に見合うだけの利用価値を提供可能となることが明らかとなった.

公開日・更新日

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