HIV陽性者における進行性多巣性白質脳症に対する高精度検査技術の開発および診断への応用

文献情報

文献番号
201319031A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV陽性者における進行性多巣性白質脳症に対する高精度検査技術の開発および診断への応用
課題番号
H24-エイズ-若手-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中道 一生(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,214,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy, PML)は、JCウイルス(JCV)に起因する致死的な脱髄疾患であり、HIV陽性者を中心とした免疫不全患者等において発生する。PMLの診断では、脳脊髄液を用いたJCVゲノムDNAのリアルタイムPCR検査が主流となっている。この検査手法は極めて鋭敏であるが、病原性のない持続感染型JCVの混入、もしくは検体間の汚染によって偽陽性を生じる危険性を有している。髄液PCR検査における偽陽性はPMLの診断や治療に悪影響を与えるリスクが大きく、脳組織を用いたJCVの確認検査は侵襲性が高い。そのため、脳脊髄液を用いたJCVのPCR検査において、偽陽性およびウイルス変異の有無をモニターするための新たな検査技術の開発が必要である。本研究は、「高解像度融解曲線分析(High-Resolution Melting analysis, HRM)法を用いて、JCVのゲノムDNAに生じるランダムな変異を迅速に識別するための検査系を確立し、PMLの高精度診断技術へと応用すること」を目的とする。
研究方法
健常人に持続感染している非病原性のJCVのゲノム配列は安定している。一方、PMLを引き起こすJCVのゲノムDNAは、ウイルス遺伝子のプロモーター領域(調節領域)においてランダムな変異を生じる。この性質を応用し、本検査系はリアルタイムPCR法によって調節領域を増幅した後、配列の相違に伴うDNA断片の解離温度の差をHRM法によって測定することを原理としている。標準DNAおよびJCVクローンのパネル、試薬等については、前年度と同様の材料もしくは製品を用いた。検出系としては、前年度において確立した4種類の系を用いた。また、脳脊髄液中に存在する微量のJCVを検出するケースを想定し、鋳型DNAを前増幅するステップを各々の検出系に追加し、その感度を向上させた。次に、PML疑い患者の脳脊髄液検体(約500検体)を対象として、4系統のリアルタイムPCR-HRM系の評価を行った。このバリデーションでは、①脳脊髄液中のJCVのゲノム型(持続感染型、変異型)を判別しうること、②個人レベルで生じるJCVのランダムな変異を識別しうること、③JCV陰性の脳脊髄液を検査に用いた場合に非特異的増幅による偽陽性が生じないこと、を選定での判断基準とした。なお、本研究は、国立感染症研究所ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会の承認を受けた後、適切な配慮のもとに実施された。
結果と考察
クローン化されたJCV-DNAのパネルを用いた解析の結果、4種類のリアルタイムPCR-HRM検出系のうち、調節領域の全長を標的とした検出系において高い変異識別能が認められた。また、本検出系は、PML疑い患者の脳脊髄液を用いたバリデーションにおいても、配列の相違を鋭敏に検出しうることが分かった。また、標的配列を前増幅した後のサンプルを鋳型DNAとして用いることで、本検出系の感度が飛躍的に向上した。PML患者およびその他の患者の脳脊髄液を対象として、JCVゲノムのタイピングに使用されるNested-PCR法と本法とを比較したところ、その感度および精度は同程度であった。また、本検出系は、JCV陽性検体中のウイルスゲノムの変異の有無を検出するだけでなく、患者個人レベルで検体を識別することが可能であった。PML型のJCVは、ゲノムの調節領域にランダムな変異を生じるというユニークな性質を有しており、検査結果の確認等を目的として調節領域の配列を解析するというアプローチが古くから実施されている。しかし、PML患者の脳脊髄液には複数のJCV変異体が含まれているため、その解析にはウイルスDNAのクローニングや多サンプルのシーケンシングが必要である。また、これら一連の工程には、煩雑かつ長期間の作業、および大きな経済的コストを要する。本検査系は、変異型JCVのゲノムを患者個人レベルで迅速に識別することが可能であり、PMLの診断や治療時のフォローアップにおける簡便かつ精度の高い検査技術となりうる。
結論
PMLを引き起こすJCVはウイルスゲノムにランダムな変異を有する。これらの変異をリアルタイムPCR-HRMによってスキャンし、検体中に含まれているJCVの変異パターンを患者個人レベルで識別するための検査技術を開発した。また、多数の患者の脳脊髄液を用いて本検査系のバリデーションを実施し、その実用化に成功した。本検査技術は、ウイルスの病原性および偽陽性の有無を解析する上で有用であり、より確実なPMLの診断に貢献する。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319031Z