外国人におけるエイズ予防指針の実効性を高めるための方策に関する研究

文献情報

文献番号
201319024A
報告書区分
総括
研究課題名
外国人におけるエイズ予防指針の実効性を高めるための方策に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
仲尾 唯治(山梨学院大学 経営情報学部)
研究分担者(所属機関)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所 内科)
  • 樽井 正義(慶応義塾大学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,203,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国に在住する外国人のHIVの現状についての実態把握に基づき、全国の自治体ならびにエイズ診療拠点病院が改正エイズ予防指針に沿った施策の推進を実現できるための方策について検討を行う。
研究方法
都道府県ほか全国の自治体への質問紙郵送調査、全国の拠点病院への質問紙郵送調査、外国人コミュニティ調査、国際社会情報調査。
結果と考察
研究方法のうち、初年度に中心課題とした2つの質問紙郵送全国調査(第1次調査)について取り上げる。

<自治体調査>(回収自治体121: 86.4%):(a) 予防指針改正を受けての外国人対応に関する計画変更について「すでに現行の計画で対応できている」(14.9%)と答えている自治体の実際の「対応」がどのようなものか、その実態について吟味を要する。というのも、たとえば「すでに・・・対応できている」という認識における実態が、後に触れるように外国人住民の抗体検査に際し、最も回答が多かった「言葉のわかる家族や知人同伴の元での実施」ということだからである。従って、回答による「認識」がそのまま実態(対応できているという)を表していると考えるのは危険であり、それを把握するには何らかの操作が必要になろう。(b) 「外国人においては、対応に困難な部分がある」を理由にあげ、新しい予防指針に対応できていないと答えた自治体(19.8%)については、その「困難な部分」を解明し、自治体を支援していくことが予防指針の実現やHIV 陽性外国人対応につながると考えられる。また、外国人へのHIV 対策上の必要認識度を項目別に見ると「検査・相談(カウンセリング)体制の充実」「普及啓発・教育の充実」「医療通訳等確保による多言語対応の充実」が高かった。この中で、「検査・相談(カウンセリング)体制の充実」は最も高率を獲得した項目であり、これは特に課題として残っている点との認識とも読める。このことは、他の個別施策層に比べ外国人の場合、著しく保健所での検査・相談が実現できておらず、受検の障害や遅れによる外国人人口の感染状況把握の困難や、免疫が著しく低下してからの受診の発生と関連する点とも考えられ、迅速かつ慎重な対応が求められる。(c) 外国人住民の抗体検査に際し、過半数の自治体が何らかの対応をしているものの、その対応の内容で最も多かったのは「言葉のわかる家族や知人同伴の元での実施」ということであり、先行研究班から勧奨を続けている方法が、残念ながら実現できていないことが明らかになる結果となった。この対応では、受検者のプライバシーが守れず、さまざまな人権侵害に陥ったり、これらの情報が広まることにより、他の外国人住民への受検行動の阻害要因となることが先行研究からも明らかとなっているからである。この点は<拠点病院調査>においても同様の傾向が見られた。

<拠点病院調査>(回収施設253: 66%):(d) 今回の調査によって、拠点病院を受診したHIV 陽性外国人の出身国(地域)の分布が明らかになった。これによると、従来の調査で4割前後を占めていたタイ人の割合が18.8%と著しく減少し、ブラジル人に次いで2位に後退した。これには、出身国側での対策の成功による有病率の低下や、在留資格が不安定な外国人の減少などが大きく影響していると考えられる。同時に、この間タイ人・アフリカ出身者等への啓発や通訳の確保に力が入れられてきたことの成果も無視することができない。このほか、中国・フィリピン・インドネシア・ベトナムなどの出身者の割合が急増しており、HIV 診療の現場で必要な言語が大きく多様化していることも指摘できる。(e) 大多数の拠点病院が、英語も日本語も不自由な外国人の診療に大きな困難を感じているが、現実には多くの拠点病院を非英語圏の外国人が受診している。外国人の療養支援に詳しいソーシャルワーカーがいることや、外部の医療通訳の活用ができることが外国人の診療の困難を軽減するのに効果があると示唆された。だが、医療通訳の確保は一部の医療機関に限られており進んでいない。外国人の診療が困難である最も大きな理由としては、大多数の病院が言語の問題をあげており、医療費の支払いなど他の問題は優先順位が低かった。これは近年、HIV 陽性外国人の多くが安定した在留資格を持っている住民となっていることの影響と考えられるが、これを確認するためには受診者のプロフィールを把握する2次調査の実施が必要である。
結論
予防指針の実効性を高める具体的方策の提起には、自治体・拠点病院からの更なる情報収集が必要である。限られた財源を有効に活用するためにも、医療機関、行政、NPO などの相互の連携を強化し、診療体制の強化や早期受診の実現のための施策を効率的に実施していくことが必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,613,000円
(2)補助金確定額
8,613,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 705,218円
人件費・謝金 4,668,414円
旅費 977,767円
その他 1,857,648円
間接経費 410,000円
合計 8,619,047円

備考

備考
補助金確定額と実際の支出額に僅差が生じたことによる、自己負担の発生があったため。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-