国内で流行するHIVとその薬剤耐性株の動向把握に関する研究

文献情報

文献番号
201319023A
報告書区分
総括
研究課題名
国内で流行するHIVとその薬剤耐性株の動向把握に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
杉浦 亙(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 吉野宗宏(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 薬剤科)
  • 豊嶋崇徳(北海道大学大学院医学研究科)
  • 渡邊綱正(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 貞升健志(東京都健康安全研究センター 微生物部病原細菌研究科)
  • 近藤真規子(神奈川県衛生研究所微生物部)
  • 南留美(独立行政法人国立病院機構九州医療センター 免疫感染症科臨床研究部)
  • 松下修三(熊本大学エイズ学研究センター)
  • 古賀道子(東京大学医科学研究所先端医療研究センター 感染症分野)
  • 渡邊大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センターエイス先端医療研究部HIV感染制御研究部室)
  • 健山正男(琉球大学大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科学)
  • 石ヶ坪良明(横浜市立大学大学院医学研究科病態免疫制御内科学)
  • 潟永博之(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 西澤雅子(国立感染症研究所エイズ研究センター)
  • 加藤真吾(慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室)
  • 椎野禎一郎(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 森治代(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 太田康男(帝京大学医学部・内科学)
  • 田邊嘉也(新潟大学医歯学総合病院第二内科)
  • 伊藤俊広(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター)
  • 上田幹夫(石川県立中央病院 免疫感染症)
  • 内田和江(埼玉県衛生研究所)
  • 藤井輝久(広島大学病院 輸血部)
  • 山元泰之(東京医科大学医学部・臨床検査医学講座)
  • 高田清式(愛媛大学医学部付属病院総合臨床研修センター・感染症内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
54,344,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では全国を網羅する調査ネットワークを活用して、本邦のHIV感染動向を把握する事を目的とし、新規HIV/AIDS感染者の分子疫学調査研究、至適治療を実現するための薬剤血中濃度モニタリング研究、そして収集したHIV遺伝子情報や疫学情報より感染予防策や新薬開発に有益な情報の抽出を目指す情報分析研究に取り組む。
研究方法
(1) 分子疫学調査研究:新規に診断されるHIV/AIDS症例を対象とする。
①薬剤耐性検査:プロテアーゼ、逆転写酵素領域、インテグラーゼ領域の遺伝子配列解析を実施。②指向性検査:env C2V3領域の配列解析から指向性の推測を行う。③サブタイピング:env C2V3領域およびgag p17領域の配列からサブタイプを決定する。④薬剤耐性検査の外部精度管理:収集する遺伝子配列の質的担保のために各施設における検査法の確認と検査精度の評価を行う。⑤微少薬剤耐性集属の検出高感度PCR法もしくは次世代シーケンサーによる解析を実施する。
⑥合併する感染症の調査:HIVに合併するB型肝炎(HBV)の有病率、遺伝子型、肝炎病態進展の検討について本邦の状況を把握するための調査を行う。
(2)薬剤血中濃度モニタリング研究:抗HIV薬剤の血中濃度を指標にした至適治療を実現するために、ホームページ(HP)を利用した血中濃度測定検査、新規抗HIV薬の日本人における体内薬物動態のデータを収集し解析する。
(3)情報分析研究:遺伝子配列データベースを設置する。公的データベースへの配列登録と一般公開、ベイズ理論によるHIV感染ネットワークの構造探索、HPを介して本研究班の調査、薬剤血中濃度測定に関する情報の提供を行う。
結果と考察
本年度は以下の成果を上げた。
(1)分子疫学調査研究:新規HIV/AIDS診断症例569例が収集された。同時点の捕捉率は37%であった。何らかの薬剤耐性変異を有するものは47例(8.3%)確認された。薬剤クラス別内訳では核酸系RT阻害剤:25例(4.4%)、プロテアーゼ阻害剤: 15例(2.6%)、非核酸系RT阻害剤:7例(1.2%)であった。インテグラーゼ阻害剤:1例(0.2%)見いだされた。本調査症例より新たなBとCRF01_AE(AE)の組換え体が同定され流行株として感染が広がりつつある事が確認された。この新しい組換え体はLos Alamos HIV Sequence Database より確認•承認され、CRF69_01Bという番号を発行された。
外部精度管理に関しては2012年に実施した精度管理の再分析の結果、使用するプライマー配列による影響が強い事が明らかになり、推奨法のプライマーは流行株の変遷を見極めながら、常に更新していく事が必要と思われた。
HIVに重複するウイルス性肝炎についてはHBsAg陽性率が8.4%、HCV-Ab陽性率は2.2%であった。
(2)薬剤血中濃度モニタリング研究:HPアクセス数は累積16642回に達している。血中濃度測定件数はH25年10月時点で、269例であった。HIV/HCV重複感染症例の検討から抗HIV薬と抗HCV薬の併用に際しては血中濃度のモニタリングが必須と考えられた。
(3)情報分析研究:本邦における各サブタイプの流行形成の過程について4393例の遺伝子配列を用いて分析を試みた。その結果、Bは1990年代後半に現在のMSMを主体とする流行の形態が形成され、AEに関しては1990年代と2000年頃の2波の国外からの流入株により形成されている事が推定された。また、envelopeから見た本邦における流行株の形成の分析からは中和抗体の標的であるgp120V3領域のcodon usageから、流行株を二つに大別出来る事が明らかにされた。遺伝子情報の公開については2012年までの登録を完了している。
結論
今後我が国においても早期治療の環境が更に整備され、いずれは診断と同時に治療を開始するようになると予想されるが、この影響が薬剤耐性株の伝播にどのように影響するかを見極めていく事が重要である。またWHOのHIV Drug Resistance Reportに見る様に先進諸国における治療患者の薬剤耐性HIVの情報は明らかに不足しており、日本における治療患者の薬剤耐性HIVの現状調査により得られる情報は貴重である。収集した膨大な遺伝子情報の分析のためには国内国外のbioinformatics研究者等との更なる連携が必要と思われる。薬剤血中濃度測定に関しては、今後は抗HCV薬との相互作用を考慮する事が重要であり、特に汚染凝固製剤で感染した症例ではHCVの合併率が高く、十分なモニタリングが必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319023Z