在宅高齢者の健康自動計測システム

文献情報

文献番号
199800250A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅高齢者の健康自動計測システム
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
戸川 達男(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石島正之(東京女子医科大学)
  • 山越憲一(金沢大学)
  • 太田茂(川崎医療福祉大学)
  • 川原田淳(富山大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
従来の医療技術は病院等の医療施設における疾病の診断、治療が中心であったが、社会の高齢化、医療費の増大、QOLの追求などの社会的要請に応えるには、健康の維持管を徹底し、医療の必要を減らすとともに、健康をよりよい状態に保つことが望ましい。本研究は、この要請に応えるために、高齢者の日常の健康情報を自動計測してデータを保存し、健康に関係する各種パラメータを抽出し、各個人について正常値を決定し、健康管理に役立つ情報を提供するとともに、疾病の発症時にはデータを過去に遡って読み出すことのできるシステムの開発を目的とした。
研究方法
次の5項目を5人の班員が分担して研究を行った。浴槽に設置するシステム(戸川)、ベッドに設置するシステム(石島)、トイレに設置するシステム(山越)、行動のモニタリングシステム(太田)、実験住宅における評価(川原田)。1. 浴槽に設置するシステム-浴槽内壁に電極を設置することによって心電図を記録できることをすでに示したが、それに加えて循環の指標となる脈波の自動計測を試みた。脈波の検出には光電脈波センサを用い、浴槽に入ったときに臀部が接する位置にセンサを設置した。2. ベッドに設置するシステム-ベッドシーツおよび枕に導電性の布(布帛電極)を逢着し、枕と下肢部の電極から心電図を、また胸部の電極の電気容量変化から呼吸を検出した。また、雑音除去のための信号処理法の開発を試みた。3. トイレに設置するシステム-便器に密着して設置し、便座にかかる荷重と床荷重の和から体重を計測し、その変化から、排尿量、排便量、排尿速度、心拍数を計測した。また、トランスポンダーを装着させることによる個人識別を試みた。さらに、便座からの血圧計測の可能性について検討した。4. 行動のモニタリングシステム-焦電型赤外センサを住宅の各部屋に設置し、人の動きを検知して行動パタンを自動検知し、その情報を中央監視用のコンピュータに蓄え、別居している家族が任意にアクセスできるシステムの構築を試みた。5. 実験住宅における評価-高岡市に建設されているウェルフェアテクノハウスを利用し、ベッド、浴槽、トイレに本研究班で開発したセンサを設置し、若年者および高齢者に実際に生活してもらい、システムの評価を行った。
結果と考察
1. 浴槽に設置するシステム-浴槽中の脈波計測のために製作した光電脈波センサを浴槽の底面の臀部が接する位置に設置して、脈波の計測を行った結果、良好な脈波記録ができることが示された。同じ姿勢で浴槽外計測した場合にはほとんど脈波は記録できなかったが、浴槽内では末梢循環が良くなることと、水の浮力によりセンサにかかる体重の影響がほとんどなくなるために、計測が容易になることが確認された。また、心電図との同時計測により、脈波伝搬時間が計測できることを示した。2.ベッドに設置するシステム-心電図、呼吸ともに良好な記録が得られることを確認した。体動によって大きな雑音が発生するが、信号処理により雑音の影響を軽減することができ、就寝中の約90%の時間について信号が記録できた。また、雑音の出現は体動によることから、雑音を体動情報として利用できることを示した。3.トイレに設置するシステム-トイレに設置する体重計測用のロードセルにより、自動的に体重を計測するとともに、データをコンピューターに読み込むシステムが確実に動作することを確認した。複数の人がトイレを使用する場合の個人識別の一方法として、無電池式のトランスポンダーを手首に装着させ、個人の識別情報を自動的に読みとり、各個人ごとの情報としてデータを記憶できることを確認した。また
、排尿と排便の区別の自動化を試みたが、これについては体重変化だけでは誤認を避けることは困難であった。排尿については、排尿量および排尿速度の自動計測が可能であることを確認した。便座における自動血圧計測については、基礎的実験結果から、その可能性を示唆する結果を得た。4.行動のモニタリングシステム-焦電型赤外センサによって行動の検知が可能なことはすでに確認しているので、その情報を中央監視装置に送り、随時データをアクセスして行動軌跡を読み出して画面表示するシステムを構築してその動作を確認した。実験は学内LANを用いたが、これはインターネットに置き換えることができるので、遠隔地に住む家族からアクセスすることも可能であることを示した。5.実験住宅における評価-高岡市のウェルフェアテクノハウスにおいて、被検者の夜間滞在実験により、システムの評価を行い、浴槽内心電図、ベッド心電図、トイレでの体重の自動計測が支障なくできることを確認した。若年者と高齢者の比較実験では、排尿量および排尿速度に顕著な違いが認められることなどを確認した。 家庭に設置して健康管理のための生体情報を無意識のうちに自動計測しようという構想は、本研究班の研究によりきわめて有望であることが示された。今年度までにには各分担者それぞれが長期のモニタリングデータを提示することができ、計測システムが確実に機能することが確認された。長期間のデータはまだあまり多くはないが、それでも、毎日の排尿量と排尿速度のトレンドを記録することなどのように、従来の検査法ではまったく検知できないと思われる興味あるデータが得られており、今後長期間のデータを蓄積していくことによって、多くの新しい知見が得られることが期待される。
結論
本研究班で開発した個々のシステムは、そのまま一般家庭に設置して使用するにはまだ完成度が十分ではないが、企業がこれらを一つのシステムとして製品化できる可能性は高く、次の段階は、統一した規格の装置を実際に多数の家庭に設置して試験使用することであろう。自動計測されてデータを健康管理に応用するには、健康管理のアルゴリズを開発しなければならないが、そのためにも長期のデータを収集していかなけらばならない。さらに、生体情報の自動計測には多くの高度技術を導入する可能性が残されている。本研究でとりあげた便座における血圧計測も高度技術を要するが、このほか、においセンサ、ベッドでの心磁図計測、自動微量採血、食物摂取量の計測、画像による個人識別など有望な多くの技術が考えられ、研究分野としてはきわめて大きな可能性に満ちている。本研究班が開発を進めてきた研究は産業界からも注目されており、多くの問い合わせや資料請求、講演依頼などがあり、新しいビジネスの創成としての関心も高くなっている。また、家庭での生体情報の自動計測は、この研究班が世界に先がけて進めてきた研究であり、最近多くの国の研究者からも注目されるようになってきた。そのうちの多くの研究者は本研究班の研究者に協力を求めて来ており、この分野は今後国際協力による飛躍的な発展が期待される。

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