HIV持続感染成立機構とその防御機序に関する研究

文献情報

文献番号
201319012A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV持続感染成立機構とその防御機序に関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
俣野 哲朗(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 保富 康宏(医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
  • 森川 裕子(北里大学 北里生命科学研究所)
  • 高折 晃史(京都大学 大学院医学研究科)
  • 吉村 和久(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 寺原 和孝(国立感染症研究所 免疫部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
42,570,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界のHIV感染拡大は未だ深刻な状況にあり、本邦でも感染者数増大が続いている。感染拡大の抑制に向けてグローバルな視点での取り組みが必要であり、早期診断・治療の推進に加え、ワクチン開発が国際的重要課題である。そこで本研究では、HIV持続感染成立機構とその防御機序の解明を目的とし、HIV持続感染防御法開発に結びつく科学的論理基盤の構築を目指すこととした。具体的には、HIV持続感染阻止に結びつく有効な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)および抗体反応のプロファイルとその誘導機序解明に向け、以下の解析を推進した。(1)HIV特異的T細胞反応に関する研究:HIV増殖抑制能の低いCTLの誘導は、抑制能の高いCTLの誘導を阻害するリスクがあることから、HIV持続感染阻止のためには有効なCTLを特定し選択的に誘導することが重要と考えられる。そこで平成25年度には、各抗原特異的CTL誘導がウイルス複製に及ぼす影響を検討した。また、HIV特異的CD4陽性T細胞はHIV感染標的となることが示唆されていることから、ワクチンで誘導されるCD4陽性T細胞のウイルス感受性に関するプロファイルを解析した。(2)HIV特異的抗体反応に関する研究:持続感染抑制に寄与する抗体のプロファイルを知る目的で、感染急性期の各種抗体の受動免疫の比較検討を行った。また、多様なHIV Envについて各種抗体パネル感受性情報を蓄積した。
研究方法
エイズモデルにおいて、非ワクチン接種群、Gagワクチン(DNAプライム・Gag発現センダイウイルス[SeV]ベクターブースト)接種群、Vif・Nefワクチン(DNAプライム・Vif・Nef発現SeVベクターブースト)接種群の感染免疫動態を比較検討した。また、以前のGag発現SeVベクターワクチン接種・感染実験で得られた凍結サンプルを用い、感染前後のCD4陽性T細胞の抗原特異的CD107a・MIP-1β・IFN-γ・TNF-α・IL-2反応を比較検討した。一方、以前に行った感染急性期中和抗体受動免疫実験の対照実験として、非中和抗体受動免疫実験を行い、比較検討した。また、薬剤耐性HIV env変異が中和抗体感受性に及ぼす影響を知る目的で、CCR5阻害剤耐性誘導により得られた変異envを組込んだ組換えパネルウイルスの各種抗体感受性の検討を継続・推進した。
結果と考察
非ワクチン接種群は全例で持続感染を示したが、ワクチン接種群の半数以上では持続感染が阻止された。感染急性期の抗原特異的CTL反応の解析で、効率良いGagあるいはVif特異的CTL反応を示した個体が持続感染阻止に至ったことが判明した。感染急性期のGag・Vif特異的CTL反応は、感染1年後の血漿ウイルス量と逆相関を示した。これらの結果は、Gagに加えVifも有効なCTLの標的抗原であることを示すとともに、予防ワクチンによるサブドミナント・エピトープ特異的CTLメモリー誘導の有効性を示すものである。また、抗原特異的CD4陽性T細胞の解析では、CD107a以外のマーカー反応(CD107a陰性亜集団頻度)は感染後に有意に低下したが、CD107a陽性亜集団は感染前後で有意な変化を示さず、感染抵抗性であることが示された。本結果は、ワクチンによるHIV特異的CD4陽性T細胞誘導が曝露後のHIV複製増幅に結びつくリスクを支持しており、ワクチンデザインに重要な知見を提供するものである。一方、中和抗体と同程度の粒子結合性およびADCVI活性を有する非中和抗体の受動免疫実験では、以前の中和抗体受動免疫実験で認められたようなウイルス複製抑制効果は認められなかった。この結果は、抗体のHIV持続感染抑制効果における中和能の重要性を支持するものである。また、中和抗体標的に関する情報蓄積に結びてけるべく、各種変異envについて各種抗体の感受性情報を蓄積し、抗体感受性の責任部位決定を推進した。
結論
Gagに加えVifも有効なCTLの標的抗原であることを示すとともに、ワクチンによるサブドミナント・エピトープ特異的CTLメモリー誘導の有効性を示す結果を得た。また、ワクチン誘導CD4陽性T細胞のうちCD107a陽性分画はHIV感染に抵抗性であり、CD107a陰性分画は多くがHIV曝露後に死滅することを示す結果を得た。本研究成果は、Gag・Vifサブドミナント・エピトープ特異的CTLメモリー誘導の有効性およびHIV特異的CD4陽性CD107a陰性T細胞誘導を避ける戦略の合理性を示すしており、エイズワクチンを初めとするHIV持続感染防御法の開発に結びつく論理基盤として極めて重要である。一方、抗体のHIV持続感染抑制効果における中和能の重要性を支持する結果を得た。また、中和抗体の誘導機序解明に向け、HIV Envの中和抗体標的に関する情報蓄積を進めている。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319012Z