高齢者の屋外モニタリングシステム

文献情報

文献番号
199800249A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の屋外モニタリングシステム
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田村 俊世(国立療養所中部病院長寿医療研究センター老人支援機器開発部)
研究分担者(所属機関)
  • 牧川方昭(立命館大理工学部)
  • 田中志信(金沢大学工学部)
  • 下岡聡行(北海道大工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の日常行動中の身体活動量、循環動態や行動形態を知ることは、運動量を客観的に把握でき、健康管理、疾病の予防に役立つ。また、行動形態が自動的に監視できれば、徘徊が問題となっている痴呆老人の徘徊に至る過程が解明され、介護の面でも有益な指針を与えることができる。屋内での計測では、行動形態、生理量を無拘束に計測することが可能となっている。しかし、屋外での計測を考えた場合、何らかの方法で計測対象者に装置を携帯させる必要が生じる。そこで、限りなく少ない拘束で、安全でかつ信頼性が高く、行動量、活動量、循環動態が計測できる装置の開発をすすめ、高齢者の日常の行動形態を計測し、介護の指針、痴呆を防止する方法を検討する。さらには、徘徊が生じた場合の探索システムの開発をすすめる。
研究方法
1.超小型データロガーによるエネルギー代謝量の推定(田村)、2.日常生活における関節運動モニタ方法の検討(牧川)、3.循環動態計測システム(田中)、さらに 4.徘徊探索システムの開発(下岡)を試みた。
1.超小型データロガーによるエネルギー代謝量の推定:高齢者の日常生活では手を使う運動が比較的顕著に現われることを考慮して昨年度試作した3軸加速度を内蔵した腕時計型のデータロガーを用いてエネルギー代謝量の推定を酸素摂取量測定を基準として比較検討した。具体的には、手首部と腰部に加速度センサを装着し、平地と坂道での歩行・走行を行い、加速度原波形を検出し、単位時間あたりの積分値、頻度などいくつかのパラメータを設定して酸素摂取量との相関を求めた。
2.日常生活における関節運動モニタ方法の検討:加速度センサ回転軸両近傍装着方式による関節運動の計測によって詳細な動作のモニタリングを検討している。この方法では、2つの加速度センサを計測対象とする関節軸の両側かつ近傍に装着する。このように装着することによって、この関節軸回りの回転運動によって生じる回転加速度と遠心加速度はほとんど無視することができ、2つの加速度センサの出力の違いから関節角度を求めることができる。昨年度は肘関節のような1軸関節の計測方法を明らかにしたが、本年度は、肩などの3軸関節運動のモニタ方法について検討を加えた。
3.循環動態計測システム:高齢者の健康の維持、疾病の予防には日常の活動水準を高レベルに維持することが重要で、その客観的指標の一つとして循環系の機能評価が挙げられる。今年度は被験者が高齢者である点を考慮し、計測時の肉体的負担を極力軽減すべくシステム全体の小型・軽量化を図った。また計測部位に関しては、前年度の装置では手指基部のみを対象としていたが、両手の自由が確保できた方が日常生活が支障無く送れ、かつ拘束感も軽減されることから、計測部位として新たに頭部動脈(浅側頭動脈)を対象に加えた。
4.徘徊探索システム:バイオテレメトリにおける生体の位置追跡手法の原理に基づいて電波を用いて徘徊老人の位置や動きを無拘束的に探査・追跡するシステムの開発は、大きく介護者側パーソナルコンピュータ、および対象老人が携帯する応答器に分けられる。応答器は、GPS衛星からの電波を受信し測位を行うGPS受信機としての役割と、その測位結果を介護者のもとに返信する移動電話端末としての役割を果たす。本年度は、前年度までに得られた改良型試作システムの特性を明らかにするとともに、その実用化に向け実際的検討を行った。とくに、高齢者が携帯する応答器の小型軽量化の可能性を追求した。
結果と考察
1.超小型データロガーによるエネルギー代謝量の推定: 3軸加速度センサを内蔵した腕時計型のデータロガーを用いて手首部と腰部の加速度波形と酸素摂取量を比較検討した結果、速度変化に対してすべての被験者で腰部加速度、手首部加速度のパワーは酸素摂取量と高い相関を示した。傾斜角度変化に対しては、速度変化に比較してより特徴的な変化は見られなかった。その結果、平地歩行・走行においては、単位時間の加速度の積分値、パワーが高い相関を示したが、傾斜角(坂道歩行・走行)に対したは相関が得られなかった。日常の行動で坂道運動はわずかであり、平地運動で高い相関が得られたことは、小型のデータロガーを携帯することによりエネルギー代謝量をある程度予測できることが示された。時計型のデータロガーは従来睡眠の評価などに用いられていたが、日常活動量を評価するために感度、データ圧縮などの新しい方法を考案したことにより、エネルギー代謝量を推定できることが示された。
2.日常生活における関節運動モニタ方法の検討:2つの3軸加速度センサから得られる信号をフィルタリングすることにより重力加速度成分から回転角を算出することにより関節運動を計測することが可能となった。上肢を例に複数の関節運動の計測と、計測結果からの被検者運動をパソコン上でスティックピクチャとして再現することができた。センサの装着方法や皮膚表面のねじれなどの問題があるが、ほぼ満足のいく結果が得られた。本手法は画像処理、磁界センサのような大がかりな設備を必要としないので、手軽に装着でき、移動を伴う関節運動の計測が可能となる。日常生活動作を記録し、高齢者の1日の詳細な動作をパソコン上でプレイバックすることが最終目標となる。
3.循環動態計測システム: 試作したシステムを用いて、健常成人を対象としフィールド試用の結果、日常生活下の一心拍毎の血圧値が計測可能であこと、並びに取得データを解析することにより、従来困難であった日常生活下における自律神経系を介した血圧調節機構の評価が可能で、日常生活下における高齢者の循環機能評価に十分適用可能であることが確認された。今後は無拘束連続血圧測定により循環系の様々な指標と加齢との関連あるいは日常の活動性と循環機能との関連を検討し機能低下の予測、廃用症候群への防止となる最低限の活動レベルの指標を得たいと考えている。
4.徘徊痴呆老人探索システム:  既存技術を用いたGPS受信機ならびにデータ通信端末を小型軽量化することにより、ほぼ実用化できる可能性が示された。また、定位精度にについては、複数個の通信の情報を得ることにより大きな劣化が見られないことが明らかとなった。すでに民間レベルで徘徊システムの実用化が進んでいるので、それらシステムとの比較をも含めて早期の実用化を図る考えである。
結論
今年度の研究成果より、日常活動量を評価するために時計型のデータロガーの感度、データ圧縮などの新しい方法を考案することにより、エネルギー代謝量を推定できること、加速度センサを関節近傍に取り付けることにより、関節運動をモニタする方法を検討し、上肢を例に複数の関節運動の計測と、計測結果からの被検者運動をパソコン上でスティックピクチャとして再現することができたこと、無拘束連続血圧測定の試作システムによる日常生活下の一心拍毎の血圧値が測定可能であること、並びに取得データを解析することにより、従来困難であった日常生活下における自律神経系を介した血圧調節機構の評価が可能となり、日常生活下における高齢者の循環機能評価に十分適用可能であることが確認された。
また、探索システム実現のためのに既存技術により、GPS受信機ならびにデータ通信端末を小型軽量化でき、定位精度にも大きな劣化が見られないことが明らかとなった。

公開日・更新日

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