血友病とその治療に伴う合併症の克服に関する研究

文献情報

文献番号
201319010A
報告書区分
総括
研究課題名
血友病とその治療に伴う合併症の克服に関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 洋一(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 窓岩 清治(自治医科大学 医学部)
  • 大森 司(自治医科大学 医学部)
  • 小澤 敬也(自治医科大学 医学部)
  • 水上 浩明(自治医科大学 医学部)
  • 嶋 緑倫(奈良県立医科大学小児科)
  • 菱川 修司(自治医科大学 医学部)
  • 長谷川 護(ディナベック株式会社)
  • 瀧 正志(聖マリアンナ医科大学)
  • 稲葉 浩(東京医科大学臨床検査医学講座)
  • 竹谷 英之(東京大学医科学研究所附属病院)
  • 柿沼 章子(社会福祉法人はばたき福祉事業団)
  • 村松 慎一(自治医科大学 医学部)
  • 峰野 純一(タカラバイオ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
108,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は血友病患者の合併症を克服するため、製剤投与に頼らない遺伝子治療を開発する。さらに治療を阻害するインヒビター発症要因の同定とその対策を講じ、本研究の双方向性を担保するQOL調査研究・聞き取り調査により患者支援ニーズを抽出する。
研究方法
1、遺伝子治療:アデノ随伴ウイルス(AAV)8型ベクターによる血友病B遺伝子治療技術を確立した。本遺伝子治療は末梢静脈からのベクター投与により、肝臓から凝固因子産生が可能となる。平成25年度はヒト臨床試験を想定した日本製ベクターを作製する。本治療には、抗AAV抗体の存在が鍵をにぎる。この抗AAV抗体の保有率を実際の血友病患者で検討する。過去に抗AAV抗体回避技術を開発したが、実験ブタで、この手法の安全性を評価する。患者数の多い血友病Aに本法を適応するため、サル体内でヒトFVIIIを検出する測定系を開発する。本研究班で開発した血友病関節障害に対するFVIII遺伝子導入間葉系幹細胞の関節内投与法の効果・安全性を確立する。
2、インヒビター対策:血友病患者に凝固因子インヒビターが生じると治療抵抗性となる。線溶抑制因子PAI-1制御、iPS由来胸腺上皮細胞投与によるインヒビター抑制効果をマウスで検討する。実際の患者インヒビターの凝固阻害機構を同定し、インヒビター活性測定法の標準化を進める。前方視的コホートへの患者登録を進め、インヒビター発生に関わる治療関連要因の解明を全国的規模で展開する。
3、QOL向上のための調査研究: QOL評価表SF-36を回収し、本邦の患者QOLを阻害する因子を抽出する。HIV感染被害血友病患者とその家族参加型のアクションリサーチを施行し、ファクトシート改訂や遺伝相談を展開する。これにより支援経験評価、遺伝に関わる心理検査に関する分析を実施する。以上の遺伝子治療開発、動物実験、臨床研究は国の法律・指針と各大学・施設の規定を遵守する。
結果と考察
血友病BはGMPグレードAAVベクターが作製し得れば臨床試験を開始できる。GMPグレードAAVベクターをより安価に効率よく生産できる新たなバキュロウイルスによる製造システムを開発した。新規作製法を開発したことは、高品質ベクターの安定した供給体制を自国で整備する意義として大きい。本治療の成功の鍵となる抗AAV中和抗体は患者の3-4割に陽性であった。抗AAV中和抗体回避法(門脈内ベクター投与法)を開発し、実験ブタのシミュレーションで安全性を確認した。サルでヒトFVIII(サルと98%以上相同性)を区別しうる測定系を開発し、血友病Aに対する遺伝子治療効果をサルで検討する目処がついた。QOL阻害因子である関節障害に対する細胞治療法は、ヒト間葉系幹細胞による凝固因子発現を確認した。PAI-1ノックアウトマウスではFVIIIに対するインヒビターが減じ、PAI-1抑制薬によるインヒビター制御法の可能性を見出した。抗FVIII-A2ドメイン抗体が存在すると重症血友病Aよりも凝固能が阻害されること、バイパス製剤APCCが微量のFVIIIを限定分解し初期の凝固促進に寄与することを示した。実臨床ではインヒビター測定の標準血漿を作製し検査手法の確立に近づいた。新規血友病患者に関するコホートは40施設219例の登録を完了し、臨床的情報と分子生物学的情報の2つの側面から検討を開始した。インヒビター治療法の開発や、データベースを用いた我国のインヒビター発症要因の解明は、今後の実臨床におけるインヒビター対策に寄与すると考えられる。SF-36を用いたQOL調査票の回収を終え、一次解析を開始し、定期補充療法群では出血、及びインヒビター発症が少ないことが判明した。計39件の薬害HIV感染被害者・家族等に面接調査・集合調査、及び30件の質問紙調査を実施し、準備性指標を評価することで保因者の支援経験に関するニーズを予測するモデルを作成した。保因者の支援経験や健康予防行動に個人差があり、個別支援の必要性が明らかとなった。以上より、本研究の3つの柱から,我が国において,総合的に血友病患者の合併症を克服するための基盤・体制が構築されつつある。
結論
AAVベクター臨床研究の基礎的技術、ならびにベクター大量作製の効率化技術の開発に成功した。今後、本技術を用いて血友病B臨床研究を行う。さらに、より多くの患者が恩恵を受けられるよう、本治療の血友病Aへ応用、並びに、関節局所を標的とした細胞治療の開発を継続する。これら遺伝子細胞治療だけでなく、凝固因子インヒビター発症の機序解明・制御手法の開発、さらに調査研究による患者自身のニーズ抽出という、3つの研究結果を有機的に統合することで、日本における血友病患者・HIV薬害患者を取り巻く環境を改善し、合併症の克服に結びつけるように研究を継続させる。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319010Z