HIV母子感染の疫学調査と予防対策および女性・小児感染者支援に関する研究

文献情報

文献番号
201319008A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV母子感染の疫学調査と予防対策および女性・小児感染者支援に関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
塚原 優己(国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター産科)
研究分担者(所属機関)
  • 喜多 恒和(奈良県立奈良病院 周産期母子医療センター/産婦人科)
  • 外川 正生(大阪市立総合医療センター 小児総合診療科・小児救急科)
  • 吉野 直人(岩手医科大学 医学部微生物学講座)
  • 大島 教子(獨協医科大学 医学部産科婦人科学講座)
  • 明城 光三(国立病院機構仙台医療センター 情報管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
29,034,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国のHIV感染妊娠例の臨床データ集積、予防対策の充実と徹底による母子感染の完全阻止、HIV感染妊婦・出生児の支援体制の整備。
研究方法
吉野班:(1)全国産婦人科標榜病院施設対象の妊婦HIV検査実施率とHIV感染妊婦の診療経験調査。(2)全国小児科標榜病院施設対象の感染妊婦より出生した児の診療経験調査。喜多班:(1)吉野班調査で抽出された産婦人科診療施設からHIV感染妊婦の臨床情報の集積解析。(2)再妊娠したHIV感染女性の臨床的・社会的情報の抽出解析。外川班:(1)吉野班調査で抽出された小児科診療施設から母児の臨床情報を集積解析。(2)妊婦・新生児に投与された抗ウイルス薬の影響に関する長期予後調査。(3)女性HIV陽性者による女性HIV陽性者の為のエンパワメント。 喜多/外川/吉野班合同:産婦人科小児科統合データベースに昨年度新規症例を追加。塚原班:(1)「HIV母子感染予防対策マニュアル」の改訂(第7版)。(2)HIV母子感染予防の普及・啓発。(3)妊婦HIVスクリーニング検査偽陽性に関する再調査(大島班と共同)。明城班:エイズ拠点病院と周産期母子医療センターに対し地域連携に関するアンケート調査。大島班:(1)「妊婦HIV検査栃木方式」の実施状況調査。(2)栃木県内のHIVスクリーニング偽陽性とHBVキャリア妊婦の頻度、出生児のフォロー状況の調査。(3)全国エイズ拠点病院と一般産科施設を対象に、妊婦HIVスクリーニング検査偽陽性に関する再調査と平成16年度調査との比較。
結果と考察
1.妊婦HIV検査実施率は、産婦人科病院調査では全国平均99.7%(前年比0.2%減)。全例HIVスクリーニング検査実施していない理由は、「HIV検査を希望しない妊婦がいたため」が最多。2.産婦人科小児科統合データベース:平成24年12月末までに妊娠転帰が明らかとなったHIV感染妊娠は803例(前年+26例)で出生児数は550児。HIV感染妊娠報告数は1995年以降毎年30例~40例前後でほぼ横ばい。都道府県別報告数も変動なく地方への分散傾向は増加せず。この10年間で日本国籍例が約45%を占めるまで増加。分娩様式は選択的帝切分娩が定着し、経腟分娩は年間1例程度。2000年以降の分娩直後までに陽性が判明した(妊娠前の陽性判明も含む)341例の母子感染率は、(1)抗ウイルス療法+選択的帝切:0.4%、(2)抗ウイルス薬なし+選択的帝切:5.8%、(3)抗ウイルス療法+経腟分娩:0%、(4)抗ウイルス薬なし+経腟分娩:20%、(3)は3症例。この5年間でHIV感染妊娠の妊娠転帰場所の90.2%がエイズ拠点病院でエイズ拠点病院がHIV感染妊娠を取り扱う傾向。年次報告では新規HIV感染妊婦の報告は20%以下に減少し80%以上が再妊娠。人工妊娠中絶が増加傾向。この現状に対してHIV感染と妊娠に関する教育・啓発を推進すべき。3.小児科調査(30例対象):新生児期に認められた異常は貧血22例、新生児仮死1例、早産+超低出生体重+子宮内胎児発育遅延+無顆粒球症が1例、早産+低出生体重+新生児一過性多呼吸が2例(双胎)、新生児ミオクロニーが1例、HFDが1例。4.非感染児長期予後追跡調査:対象39施設中7施設からの報告は、感染例0例、非感染例17例。5.妊婦HIVスクリーニング検査偽陽性に関する再調査:偽陽性の発生率、陽性的中率は前回(平成16年度)調査とほぼ同等。また今回の調査では紹介妊婦の動揺の報告が減少している印象。6.エイズ拠点病院と周産期母子医療センターを対象とした地域連携に関するアンケート調査:HIV陽性妊婦取り扱い困難な施設の89%が近隣の搬送先施設を把握しており連携は良好。7.医療者向け普及啓発活動:「平成25年度HIV母子感染予防対策マニュアル第7版」を発刊。第27回日本エイズ学会学術集会で、HIV母子感染撲滅に向けた現在の課題についてのシンポジウムを開催。8.一般市民向け普及啓発活動:「第20回AIDS文化フォーラムin横浜」、「第3回AIDS文化フォーラムin京都」にて市民公開講座を開催。
結論
わが国のHIV母子感染の動向に変化はない。妊娠中の抗ウイルス薬の影響が考えられる児の重篤な異常の報告もない。妊婦HIV検査実施率が100%に至らないことと、母子感染例が発生し続けていることは一連の動向と考えられる。今年度調査では検査実施率が低下しており、全例実施に向けた問題点を抽出し対策を検討する必要がある。日本人妊婦と日本人同士カップルの占める比率が年々増加している。HIV感染を知った上での妊娠やその後の妊娠中絶が増加傾向にあることが危惧される。国民に対して、HIV感染に対する関心や正確な知識が決して希薄化しないように、積極的な普及・啓発活動の展開が喫緊の課題である。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201319008Z