エイズ患者におけるカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが原因となる疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究

文献情報

文献番号
201319002A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ患者におけるカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが原因となる疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究
課題番号
H23-エイズ-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 上田 啓次(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 藤室 雅弘(京都薬科大学 薬学部)
  • 今村 顕史(がん・感染症センター東京都立駒込病院 感染症科)
  • 照屋 勝治(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 上平 朝子(国立病院機構大阪医療センター 感染症内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
10,062,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、増加しているカポジ肉腫・KSHV感染症について、正確な実態を把握した上で、適切な治療法を検討し、その結果を「手引き」として提示すること、および、KSHV関連疾患の発症機構を解明し、ワクチンを含めたカポジ肉腫の新規予防・発症予知法を開発することを目的とする。
昨年度に当班では「診断と治療の手引き」を作成し、全国のエイズ拠点病院に配布した。しかし、症例数の少ない施設では、診断、治療の支援が必要である。難症例、特にドキシル耐性のカポジ肉腫症例や、多巣性キャッスルマン病 (MCD), primary effusion lymphoma (PEL)などの治療はどの施設でも困難であり、今後も適切な治療法を検討していく必要がある。
研究方法
ウイルスはKSHV、GFP発現組換KSHVを用いた。また、KSHV感染細胞として、TY-1, BCBL-1などを用いた。感染細胞の同定はLANAに対する免疫染色、またはフローサイトメトリーを用いた。ウイルスタンパクの検出はウエスタンブロット、フローサイトメトリーなどの方法を各分担研究の中で目的に応じて使用した。HIV感染者の血清中の抗KSHV抗体価は抗KSHV抗体検出用ELISA kit (Advanced Biotechnologies Inc)を用いて測定した。KSHV関連疾患の臨床的解析は、病変部位、検査所見、治療方針や経過などを、診療録を用いて後方視的に調査した。ヒト検体を用いた研究は当該施設の研究倫理委員会の承認を得て行われた。遺伝子組換え等の実験に関しては当該研究施設の遺伝子組換え実験倫理委員会の承認を得た上で実験を行った。蛍光色素を発現するウイルスはDNA組換えウイルスであり、使用に当たり、大臣確認を得た。
結果と考察
(1) KSHV関連疾患の発症機構の解明
KSHVの潜伏感染タンパクであるLANAの複製能の解析を行った。angiopoietin-1の発現制御機構に関わる約30bpの責任領域を同定した(上田)。KSHV関連疾患の病理組織におけるヒトmiRNAを含めた全miRNAの発現を次世代シークエンサーにより解析し、ウイルスのmiRNAではmiRK4の発現が高いこと、宿主のmiRNAではmiR-143がKSHV関連疾患で高発現していることが明らかになった。(片野)
(2) 新規予防・発症予知法の開発:
サンギバマイシン、ピロリジニウム型フラーレンのPEL細胞増殖抑制を示した。(藤室)
(3) カポジ肉腫・KSHV感染症の現状把握:
実際に経験されたカポジ肉腫を詳細に調査することによって、化学療法の適応や終了時期、難治症例における治療方針などについての検討を行った。 (今村)
カポジ肉腫症例について、最適な化学療法の投与回数についての臨床的検討を行った (照屋)。
カポジ肉腫患者において、血中のKSHV DNA量の検討を行なった。抗KSHV抗体の変化について検討し、推定感染経路が同性間性的接触であった症例で高い抗体陽転化率を認めた。KSHV関連疾患について、多施設調査を行い、PEL 5例、KSHV関連悪性リンパ腫 3例、KSHV関連血球貪食症候群3例、KSHV関連腹水貯留が1例の計11例を解析した。(上平)
(4) 治療ガイドラインの改訂および普及:
「AIDSに合併するカポジ肉腫等のHHV-8関連疾患における診断と治療の手引き」の改訂を行なった(今村、照屋、上平、片野)。また、本書に掲載された治療法の要点を、日本エイズ学会誌へ掲載した。
結論
基礎的研究の成果としては、LANAによるKSHV複製機構の解明をおこなったこと、miRNAの発現プロファイルからKSHV関連疾患に高発現するmiRNAを同定したこと、PEL細胞の細胞死を誘導する薬剤を同定したことが挙げられる。臨床面では、KSHV関連疾患の臨床例の検討を行ない、「治療の手引き」の記載を確認するデータを得た。さらに、血清中抗KSHV抗体の検索を行った。「診断と治療の手引き」第2版を作成し、普及につとめた。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201319002B
報告書区分
総合
研究課題名
エイズ患者におけるカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが原因となる疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究
課題番号
H23-エイズ-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 上田 啓次(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 藤室 雅弘(京都薬科大学 薬学部)
  • 今村 顕史(がん・感染症センター東京都立駒込病院 感染症科)
  • 照屋 勝治(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 上平 朝子(国立病院機構大阪医療センター 感染症内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(またはHHV-8)はカポジ肉腫、多巣性キャッスルマン病(MCD)や一部のリンパ腫の原因ウイルスであり、これらKSHV関連疾患は男性同性間の性的接触(MSM)にほぼ限局して発症している。日本の新規HIV感染者の7割がMSMであり、この数年でKSHV関連疾患は増加傾向にあることから、KSHV関連疾患への対策は急務である。肺や消化管などの深部臓器に発症したカポジ肉腫は治療困難である。カポジ肉腫に対する治療は抗レトロウイルス療法(ART)に化学療法(ドキシル、一般名リポゾーマルドキソルビジン)を併用する方法が標準化されつつあるが、現在のところ、ARTを考慮した病期分類や治療ガイドラインがない。また、KSHVには有効なワクチンや確実な発症予測法は開発されていない。カポジ肉腫は危険因子がはっきりしており(MSM)、早期治療が功を奏する疾患であるだけに、効果的な新規予防・治療法の開発が望まれる。本研究では以下のアプローチにより日本のカポジ肉腫減少を目指す。
(1) KSHV関連疾患の発症機構の解明: KSHVの潜伏感染機構の解析から分子標的を絞る(上田、片野)。
(2) ワクチンを含めたカポジ肉腫の新規予防・発症予知法の開発:粘膜ワクチン開発と分子標的を定めた新規治療薬、発症予測法を確立する(片野、藤室)。
(3) カポジ肉腫・KSHV感染症の現状把握:発症部位、治療法、ART導入との関連などを把握し、治療上の問題点を明らかにする(今村、照屋、上平)。
(4) 治療ガイドラインの作成:ARTを考慮した臨床的病期分類、ARTの開始時期とリポゾーマルドキソルビジン(ドキシル)の併用を考慮に入れた治療ガイドラインの作成を行う(今村、照屋、上平)。
研究方法
ウイルスはGFPまたはRFP発現組換KSHVを用いた。血清中HHV-8抗体検査はELISAにより検出した。その他、分子生物学的方法を各分担研究の中で目的に応じて使用した。アンケート調査は全国のエイズ拠点病院を対象に書面、またはインターネット(web)上で行なった。遺伝子組換え等の実験に関しては当該研究施設の遺伝子組換え実験倫理委員会の承認を得た上で実験を行った。蛍光色素を発現するウイルスはDNA組換えウイルスであり、使用に当たり、大臣確認を得た。ヒト検体を用いた研究は当該施設の研究倫理委員会の承認を得て行われた。
結果と考察
(1) KSHV関連疾患の発症機構の解明:潜伏感染タンパクLANAがKSHV複製には核マトリックスに局在することが重要であることを示した。またAngiopoietin-1がKSHV潜伏感染で高発現することを示し,その制御領域を同定した(上田)。次世代シークエンサーによりKSHV感染臨床検体を解析し、キーとなるウイルスmiRNAとして miRK3を同定、その機能を解析した。またKSHV感染で高発現する宿主miRNAを同定した(片野)。
(2) ワクチンを含めたカポジ肉腫の新規予防・発症予知法の開発:GFP発現組換えKSHVを用いたcell to cell感染(細胞間)実験系を立ち上げ、細胞接触によりKSHVが活性化すること、EphA2が細胞間感染に重要な受容体であることを明らかにした。また、ワクチン候補分子(K8.1)の有効性の確認を行った(片野)。MG132、Lactacystin、PSI、HSP90阻害剤(GA、17AAG、Radicicol),Sangivamycin, ピロリジニウム型フラーレンはPEL細胞にアポトーシスを誘導した(藤室)。
(3) カポジ肉腫・KSHV感染症の現状把握: 全国の拠点病院を対象としたアンケート調査を実施し、KS患者の2割およびMCD患者の4割が死亡していること、KSでは消化管病変の合併率が35.4%と高率であることを明らかにした(照屋、今村、上平)。難治例においては、パクリタキセルによる治療効果が期待できることも示された(今村、照屋)。KSとKSHVの抗体保有率、MCDと血中KSHV量の検討を行ない、HHV-8関連血球貪食症候群やPEL死亡例では高ウイルス量が検出されていた。(上平)。
(4) 治療ガイドラインの作成:「AIDSに合併するカポジ肉腫等のHHV-8関連疾患における診断と治療の手引き」の作成を行ない、H25年3月に全国の拠点病院に配布した(今村、照屋、上平、片野)。
結論
 PEL細胞の細胞死を誘導する薬剤を多数同定した。KSHV細胞間感染実験系を開発し、細胞間感染のメカニズムに迫った。KSHV感染疾患の全国調査を行い、実態を把握すると共に、「診断と治療の手引き」を作成、配布した。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201319002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
基礎的研究の成果として、KSHVがコードする潜伏感染タンパクLANAによるウイルス複製機構の解明をおこなったこと、miRNAの発現プロファイルからKSHV関連疾患に高発現するmiRNAを同定したこと、PEL細胞の細胞死を誘導する薬剤を同定したことが挙げられる。
臨床的観点からの成果
KSHV関連疾患の臨床例の検討を行ない、「AIDSに合併するカポジ肉腫等のHHV-8関連疾患における診断と治療の手引き」第2版の記載を確認するデータを得た。ドキシルの使用、ARTを考慮したカポジ肉腫の診断、治療の手引きは国際的にも他に例がなく、日本における治療の標準を示すことで、広く患者の利益となることが期待される。
ガイドライン等の開発
「AIDSに合併するカポジ肉腫等のHHV-8関連疾患における診断と治療の手引き」第2版を作成し、全国のエイズ拠点病院、中核病院に配布した。また、その治療法の要点をまとめたものを日本エイズ学会誌へ掲載した。
その他行政的観点からの成果
治療ガイドラインなどの成果はエイズ診療に直接の効果が望まれ、治療方針が全国の診療機関で統一されることが期待される。さらに、カポジ肉腫に対する疫学研究の結果はカポジ肉腫対策、ないしはMSMの間で広まるHIV感染症、KSHV感染を防ぐための施策を提言する科学的根拠の一端が示された。
その他のインパクト
PELの細胞死を誘導する薬剤が多数同定され、PEL発症の分子機構に迫る知見が得られた点は科学的に評価される。臨床的には、アンケート調査、実態調査により、KSHV感染症の現状把握がなされ、「診断と治療の手引き」の作成、配布まで完了し、さらに難治例集を加えた第2版も出すことができた。ARTを考慮した本手引きは、一定の診断、治療指針を示すものであり、とくに、症例数の少ない臨床医には有用な情報となることが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
22件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ota Y, Hishima T, Mochizuki M, et al.
Classification of AIDS-related lymphoma cases between 1987 and 2012 in Japan based on the WHO classification of lymphomas, fourth edition
Cancer Med , 3 , 143-153  (2014)
原著論文2
Wakao K, Watanabe T, Takadama T, et al.
Sangivamycin induces apoptosis by suppressing Erk signaling in primary effusion lymphoma cells
Biochem Biophys Res Commun , 444 , 135-140  (2014)
原著論文3
Nakano K, Katano H, Tadagaki K, et al.
Novel monoclonal antibodies for identification of multicentric Castleman's disease; Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus-encoded vMIP-I and vMIP-II
Virology , 425 , 95-102  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-06-03
更新日
2017-05-30

収支報告書

文献番号
201319002Z