高齢者の介護の省力化・自動化に関する研究

文献情報

文献番号
199800248A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の介護の省力化・自動化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
辻 隆之(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 藤元登四郎(社団法人藤元病院)
  • 鈴木真(東京電機大学超伝導応用研究所)
  • 嶋津秀昭(杏林大学保健学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
全介護を必要とする重度高齢障害者(寝たきり老人)の排泄、入浴、移載・搬送時の単純肉体労働を省力化できる介護支援機器を開発する。
研究方法
1)排泄センサ:オムツカバー内でオムツ外から持続的に大気をエアポンプで吸引し、新しく開発されたパルス駆動型酸化スズ半導体排泄センサに吹気し排泄検出を試みた。さらに盲端のポリテトラフルオロエチレンチュ-ブをオムツ内に留置し、タイマで活性炭ろ過後室内大気と交互に酸化亜鉛半導体センサに同様に吹気し、介護施設で試用した。
2)排泄処理システム:本人が自分で排便を希望した場合やセンサでオムツ内への排便が検出された場合に、昼夜を問わず居室から排泄処理室に搬送し、自立排泄または排泄処理するための装置を試作した。すなわち、腰部、股関節部や膝部など7軸同時制御できる機能を持つNC装置である。上半身をマジックテープで固定し安定させて両下肢を膝部で支持して開脚し、臀部が全くフリーになる状態で容易に陰部を清拭介護できる排泄処理チェアを健常者で試用した。
3)入浴介助システム:寝たきり老人を専用ストレッチャで水平位にある二重浴槽の内槽に搬入し、注湯しつつ浴槽を立位にして身体を浮力で維持し、お湯を内外槽間で循環させる立位式入浴システムを試作した。一定時間入湯後にお湯を抜きながら再び水平位にしてストレッチャで出槽させる。本システムでは排水時一定水位を維持すると起立訓練が行える起立訓練機能を有する。一号機浴槽を金属製で、二号機浴槽をFRPで試作した。
人工肺ホローファイバを応用した高炭酸泉製造装置を用い、特殊浴槽に高炭酸温水を満たし、重度高齢障害者を入浴させ、その効果を検討した。
4)自立走行システム:被介護者が居室から食堂や浴室に安全に自走できる簡便な搬送誘導システムと安定軽量な搬送機を車椅子を利用して試作した。すなわち、LED光源を廊下の天井に適当な間隔をおいて設置し、それをCCDカメラで逐次追跡して走行する方法を採用した。左折右折の場合には中央部と左折右折方向の2カ所に光源を設けた。進路上の障害物は超音波で検出する。それ施設内で試験運用した。
6)自走型ベッド:被介護者の移載移乗が不必要な、ベッド自身が車イス様に変形して自走できる軽量高機能ベッドを設計した。
結果と考察
結果は以下のようであった。
1)排泄処理システム:酸化スズ半導体センサでは排尿と排便でともに高信号値を示した。排尿では短時間で前値に復したが、排便では高止まりした状態が清拭しない限り遷延した。パルス駆動型の新センサではオムツ内大気ではなく、オムツ外でオムツカバー内であれば、同様の特性を示した。すなわち感度が著しく向上した。酸化亜鉛センサでは排便時の出力値は排尿時の出力値に比べて高く、信号出力値で両者を識別できることがわかった。
2)入浴介助システム:入浴者毎にお湯を交換する個別入浴方式なので、清潔感が得られた。FRP製浴槽は金属製浴槽に比べて接触感が良好であった。足台の設置で姿勢の安定性がえられたが、個別の入浴者に対応する迅速な工夫を要した。
特浴を利用した高炭酸浴では、浴槽の開水面の顔面付近で二酸化炭素ガス濃度を計測したところ、300ppm以下であった。養護老人ホームでの使用では褥瘡を持つ入浴者はなかったので、褥瘡の治癒効果は不明であるが、褥瘡を来した入浴者もいなかった。しかし、最近の一般病院脳神経内科で寝たきり褥瘡患者に使用したところ顕著な褥瘡の治療効果がを認めた。
3)自立走行システム:昼間の太陽光が入射する場合でも光をセンシングでき車椅子を走行できた。左折右折が可能であった。前方の障害物がなくなるまで停止した。
4)自走型ベッド:被介護者の移載移乗が不必要な、ベッド両サイドを折り畳みベッド自身を介護者が人力で移動させるもっとも簡単なデザインを開発した。
考察 パルス駆動型酸化スズ半導体センサではオムツとオムツカバーの間に吸引チューブ先端を置いても臭気信号をセンシングでき、その時間的傾向から排尿、排便の区別がつくことがわかった。チューブが排便などで汚れないので、使用しやすい。しかし、出力値の設定だけでは判定できない。それに対して酸化亜鉛半導体センサではチューブ先端をオムツ内に留置する必要はあるが、出力値から両者を判定できることが大きな特徴である。ともに現状でも在宅介護には有効であろう。
様々な程度の寝たきり老人を収容している施設では排便を訴えることができる高齢者が自分で本チェアを操作して自立的に排便できれば、そのQOLに与える効果は大きい。
立位型浴槽は試作したFRP浴槽がやや大きすぎ、大量(700L)の湯を必要とした。高炭酸水を供給する観点からも容積の減少が必要であろう。
LEDを天井に設ける自立走行誘導方式は走行ルートの容易な設置変更が可能で、超音波で障害物を検出でき安価で簡単な制御システムでバッテリ駆動できる車椅子は現場のニ-ズが高い。
自走型ベッドは試作機を製作する必要がある。
結論
重要な排泄・入浴・搬送の介護業務にコンピュータや機械技術(メカトロ)を導入すれば介護の質を落とすことなく介護者の肉体的負荷を軽減しつつ自動化・省力化できる。それにより発生する介護者の余力を被介護者の精神的介護に振り向けることができ、それが結果的に被介護者のQOLの向上に繋がると考えられる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-