安全かつ効果的な抗HIV療法開発のための研究

文献情報

文献番号
201319001A
報告書区分
総括
研究課題名
安全かつ効果的な抗HIV療法開発のための研究
課題番号
H23-エイズ-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
潟永 博之(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 太田 康男(帝京大学医学部内科学講座)
  • 杉浦 亙(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター感染・免疫研究部)
  • 吉村 和久(国立感染症研究所 エイズ研究センター第一室)
  • 川村 龍吉(山梨大学医学部附属病院 皮膚科)
  • 児玉 栄一(東北大学大学院医学系研究科 宮城地域医療支援寄附講座)
  • 横幕 能行(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科)
  • 本田 元人(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
  • 塚田 訓久(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
20,640,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗HIV療法は様々な新規薬剤の登場により複雑化している。感染者一人一人のHIVの薬剤感受性状況に基づいて抗HIV効果を予測し、生じ得る副作用・併用薬との相互作用などを考慮しながら、最適と思われる組み合わせを選び出すこととなる。本研究の目的は、日本人における副作用症例・薬剤耐性症例などの臨床症例を解析し、その原因となる機序の解明・新たな治療法を開発し、安全で効果的な日本人のための抗HIV療法を開発し実践可能にすることである。
研究方法
抗HIV薬による腎毒性の解析、抗HIV薬の骨代謝への毒性メカニズムの解明、抗HIV薬の心血管系への影響の解析、副作用回避のために新規薬剤に治療変更した症例の解析、新規薬剤に対する薬剤耐性の解析、多剤耐性症例に対する実際の治療戦略の開発、耐性HIVを克服する新薬の開発、抗HIV薬による非感染者のHIV感染予防効果の解析、抗HIV薬によるHBV感染予防効果の解析を行った。
結果と考察
テノホビルによる腎障害早期発見のためのマーカー検索として、尿中β2ミクログロブリン(b2M)、尿中α1ミクログロブリン(a1M)は適切なマーカーと考えられた。骨芽細胞に対するリトナビルの影響を解析したところ、分化抑制作用が認められた。抗HIV薬の心血管系への影響を解析したところ、CD4数低値が動脈効果のリスク因子となり得ることが示唆された。スタリビルドの治療成績は良好であった。マラビロク耐性HIVは、中和抗体に対して高度感受性になっていた。単球由来ランゲルハンス細胞へのin vitro HIV感染実験系によって、新規核酸系逆転写酵素阻害薬であるEFdA、およびマラビロクは、ランゲルハンス細胞へのHIV感染を強力に抑制することが明らかとなった。ラミブジンまたはテノホビルを含む治療を受けている期間のHBV曝露頻度は、抗HIV療法を受けていない期間や、抗HBV作用のある薬剤を含まない抗HIV療法を受けている期間のHBV曝露頻度に比較し、有意に低かった。
結論
テノホビルによる尿細管障害が予想される患者では、b2Mやa1Mの測定が推奨される。骨密度が低い患者ではリトナビルの投与を控えた方がよいと考えられる。抗HIV療法の早期導入は、心血管病変を抑えるためにも有用と思われる。スタリビルドは有用な薬剤であると考えられる。中和抗体の感受性から考慮しても、マラビロクは有用な薬剤と考えられる。感染予防薬として、EFdAとマラビロクが有用である。抗HBV作用のある薬剤を含む抗HIV療法は、HBV感染予防効果がある。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201319001B
報告書区分
総合
研究課題名
安全かつ効果的な抗HIV療法開発のための研究
課題番号
H23-エイズ-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
潟永 博之(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 太田 康男(帝京大学医学部 内科学講座)
  • 杉浦 亙(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
  • 吉村 和久(国立感染症研究所 エイズ研究センター 第一室)
  • 川村 龍吉(山梨大学医学部附属病院 皮膚科)
  • 児玉 栄一(東北大学大学院医学系研究科 宮城地域医療支援寄附講座)
  • 横幕 能行(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科)
  • 本田 元人(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
  • 塚田 訓久(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
抗HIV療法は様々な新規薬剤の登場により複雑化している。感染者一人一人のHIVの薬剤感受性状況に基づいて抗HIV効果を予測し、生じ得る副作用・併用薬との相互作用などを考慮しながら、最適と思われる組み合わせを選び出すこととなる。複数存在する治療ガイドラインは、主に欧米で行われた臨床試験の結果に基づいており、小柄な日本人にそのまま当てはめられるものではない。本研究の目的は、日本人における副作用症例・薬剤耐性症例などの臨床症例を解析し、その原因となる機序の解明・新たな治療法を開発し、安全で効果的な日本人のための抗HIV療法を開発し実践可能にすることである。
研究方法
日本人感染者における副作用の解析・毒性回避法の探索のために、抗HIV薬による腎毒性の解析、抗HIV薬の骨代謝への毒性メカニズムの解明、プロテアーゼ阻害薬およびアバカビルの心血管系への影響の評価、副作用回避のために新規薬剤に治療変更した症例の解析、感染個体内の進化に伴う薬剤感受性変化の解析、インテグラーゼ阻害薬などの新規薬剤に対する薬剤耐性の解析、マラビロクなどの侵入阻害薬に対する薬剤耐性の解析、多剤耐性症例に対する実際の治療戦略の開発、耐性HIVを克服する新薬の開発、抗HIV薬による非感染者のHIV感染予防効果の解析、抗HIV薬によるHBV感染予防効果を解析を行った。
結果と考察
テノホビルの腎毒性の解析については、低体重がリスク因子として重要であることを明らかにし、アバカビル投与群と比較し有意にeGFRが低下すること、尿細管トランスポーター遺伝子のSNPが関与している可能性を示した。アタザナビルは、腎結石を生じやすいため、腎障害を起こしやすいことを示した。日本人HIV感染者の約50%が骨減少症、約10%が骨粗鬆症であることを示した。ワーファリン投与患者において、ラルテグラビルが抗HIV療法のキードラッグとして安全に使用できることを報告した。CCR5-tropicからCXCR4-tropicへと変化する際のEnv V3領域に高頻度に見られる変異のパターンを同定した。T-20に耐性のHIV-1に対しても有効なfusion inhibitorを開発した。HSV2はLL-37を介してHIVのランゲルハンス細胞への感染を促進することを示した。、抗HBV作用を有する薬剤を含んだ抗HIV療法中の患者には有意にHBVの感染頻度が低いことを見出した。
結論
臨床現場に即座にフィードバックできる研究目標を掲げ、順当な成果を達成することができた。今後、日本人のための治療ガイドライン作成に大きく資することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201319001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
抗HIV療法の安全性・適格性に関して多数の英語論文を発表することができた。そのうち、いくつかのものは既に他の研究者による引用が始まっており、影響が大きい。
臨床的観点からの成果
現在の治療ガイドラインは、欧米で行われた大規模臨床試験に基づくものであり、日本人にそのまま当てはめられるものではない。本研究によって、日本人向けの安全性の高い効果的な抗HIV療法が提起された臨床的意義は大きい。
ガイドライン等の開発
研究成果の一部は、先進国で最も利用されている米国のDivision of Human Health Services のHIV治療ガイドラインにエビデンスとして引用されており、今後、世界中の治療に示唆を付与するものと期待される。
その他行政的観点からの成果
より安全でより効果的な抗HIV療法を提案することにより、抗HIV療法への患者の服薬アドヒアランスが向上され、他者への感染の可能性を減少させることにつながり、感染者数の抑制に役立つことが期待される。
その他のインパクト
抗HIV療法により、HIV感染者に合併の多いHBVへの罹患を抑制できるという、科学的にもインパクトの強い臨床研究成果が得られている。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
116件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
158件
学会発表(国際学会等)
78件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
2件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishijima T, Gatanaga H, Komatsu H etal
Renal function declines more in tenofovir- than abacavir-based antiretroviral therapy in low-body weight treatment-naïve patients with HIV infection.
PLoS One , 7 , e29977-  (2012)
原著論文2
Nishijima T, Komatsu H, Higasa K et al
Single nucleotide polymorphisms in ABCC2 associated with tenofovir-induced kidney tubular dysfunction in Japanese patients with HIV-1 infection: a pharmacogenetic study.
Clin Infect Dis , 55 , 1558-1567  (2012)
原著論文3
Honda H, Gatanaga H, Aoki T et al
Raltegravir can be used safely in HIV-1-infected patients treated with warfarin.
Int J STD AIDS , 23 , 903-904  (2012)
原著論文4
Gatanaga H, Hayashida T, Tanuma J et al
Prophylactic effect of antiretroviral therapy on hepatitis B virus infection.
Clin Infect Dis , 56 (12) , 1812-1819  (2013)
原著論文5
Koga I, Yoshino Y, Kitazawa T et al
Prevalence and risk factors for loss of bone mineral density in male Japanese patients with HIV.
J Acquir Immune Defic Syndr , 62 , e25-27  (2013)
原著論文6
Nishizawa M, Hattori J, Shiino T, Matano T et al
Highly-Sensitive Allele-Specific PCR Testing Identifies a Greater Prevalence of Transmitted HIV Drug Resistance in Japan.
PLoS One 8(12 , 8 (12) , e83150-  (2013)
原著論文7
Shibata M, Takahashi M, Yoshino M et al
Development and application of a simple LC-MS method for the determination of plasma rilpivirine (TMC-278) concentrations.
JMI , 60 (1-2) , 35-40  (2013)
原著論文8
Nii-Trebi NI, Ibe S, Barnor JS et al
HIV-1 Drug-Resistance Surveillance among Treatment-Experienced and -Naive Patients after the Implementation of Antiretroviral Therapy in Ghana.
PloS one , 8 (8) , e71972-  (2013)
原著論文9
Jahanbakhsh F, Hattori J, Matsuda M et al
Prevalence of transmitted HIV drug resistance in Iran between 2010 and 2011.
PloS one , 8 (4) , e61864-  (2013)
原著論文10
Maeda Y, Yoshimura K, Miyamoto F et al
In vitro and In vivo Resistance to Human Immunodeficiency Virus Type 1 Entry Inhibitors.
AIDS Clin Res  (2012)
S2:004. doi: 10.4172/2155-6113.S2-004
原著論文11
Harada S, Yoshimura K, Yamaguchi A et al
Impact of antiretroviral pressure on selection of primary HIV-1 envelope sequences in vitro.
Gen Virol , 94 , 933-943  (2013)
原著論文12
Matsuzawa T, Kawamura T, Ogawa Y et al
EFdA, a Reverse Transcriptase Inhibitor, Potently Blocks HIV-1 Ex Vivo Infection of Langerhans Cells within Epithelium.
J Invest Dermatol  (2014)
in press
原著論文13
Li X, Qian H, Miyamoto F, Naito T et al
A simple, rapid, and sensitive system for the evaluation of anti-viral drugs in rats.
Biochem Biophys Res Commun , 424 , 257-261  (2012)
原著論文14
Hachiya A, Marchand B, Kirby KA
HIV-1 reverse transcriptase (RT) polymorphism 172K, suppresses the effect of clinically relevant drug resistance mutations to both nucleoside and nonnucleoside RT inhibitors.
J Bio Chem , 287 , 29988-29999  (2012)
原著論文15
Michailidis E, Ryan EM, Hachiya A et al
Hypersusceptibility Mechanism of Tenofovir-Resistant HIV to EFdA.
Retrovirology  (2013)
10: 65 doi:10.1186/1742-4690-10-65
原著論文16
Hachiya A, Reeve A, Marchand B et al
Evaluation of combinations of 4'-ethynyl-2-fluoro-2'-deoxyadenosine with clinically used antiretroviral drugs.
Agent Chemother , 57 , 4554-4558  (2013)
原著論文17
Fujisaki S, Yokomaku Y, Shiino T et al
Outbreak of Infections by Hepatitis B Virus Genotype A and Transmission of Genetic Drug Resistance in Patients Coinfected with HIV-1 in Japan.
J Clin Microbiol , 49 (3) , 1017-1024  (2011)
原著論文18
Kitamura S, Ode H, Nakashima M et al
The APOBEC3C crystal structure and the interface for HIV-1 Vif binding.
Nat Struct Mol , 9 (10) , 1005-1010  (2012)
原著論文19
Shibata M, Takahashi M, Yoshino M et al
Development and application of a simple LC-MS method for the determination of plasma rilpivirine (TMC-278) concentrations.
JMI , 60 (1-2) , 35-40  (2013)
原著論文20
Katano H, Yokomaku Y, Fukumoto H et al
Seroprevalence of Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus among men who have sex with men in Japan.
J Med Virol , 85 (6) , 1046-1052  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-06-03
更新日
2018-06-06

収支報告書

文献番号
201319001Z