自然リンパ球の活性化を介した肺炎球菌ワクチン開発

文献情報

文献番号
201318075A
報告書区分
総括
研究課題名
自然リンパ球の活性化を介した肺炎球菌ワクチン開発
課題番号
H25-新興-若手-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
金城 雄樹(国立感染症研究所 真菌部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 肺炎球菌は市中肺炎をおこす原因菌として最も頻度の高い細菌である。肺炎は特に高齢者の主な死亡原因であることから、高齢化社会を迎えた我が国の国民の保健医療向上にとって、肺炎球菌感染症の予防は重要である。肺炎球菌は90種類以上の血清型が存在するため、多くの血清型の菌に対して有効なワクチンの開発が求められている。本研究では、多くの肺炎球菌株に対して有効な新しいワクチンの開発を目指し、新規肺炎球菌併用ワクチンの効果をマウスモデルで解析した。また、肺炎球菌多糖ワクチンの認識及び抗体産生機構の解明に関する基礎的研究を行った。
研究方法
 本研究では主なワクチン抗原として多くの肺炎球菌株に共通して存在する蛋白抗原を用い、ワクチン効果を誘導するための免疫賦活剤として糖脂質抗原を併用した。その肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用ワクチンの効果をマウスモデルで解析した。肺炎球菌蛋白・糖脂質併用ワクチンをマウスに経鼻接種し、複数の肺炎球菌株を用いて感染防御効果を解析した。また、感染防御効果発現機序の解明を目的として、血中の抗体価の測定及び組織における抗体産生細胞の誘導について解析を行った。
 また、肺炎球菌多糖ワクチン抗原の認識及び抗体産生機序の解明に関する研究では、Dectin-2という糖鎖認識分子に着目して解析を行った。肺炎球菌多糖抗原ワクチンによるIgG抗体産生を野生型とDectin-2欠損マウスで比較解析した。また、多糖抗原に対するIgG抗体産生におけるIFNγの役割を明らかにするため、抗IFNγ抗体を投与してIgG抗体産生への影響を調べた。さらに、IgG抗体産生におけるNKT細胞の関与についてサイトカイン産生などを指標にして解析を行った。
結果と考察
 肺炎球菌蛋白・糖脂質併用ワクチンをマウスに経鼻接種し、肺炎球菌感染防御効果を解析したところ、複数の肺炎球菌株の感染において生存率の有意な増加、肺内菌数の有意な減少などの感染防御効果を認めた。また、肺炎球菌蛋白・糖脂質併用ワクチン接種マウスでは、血中の蛋白抗原特異的IgG抗体価の有意な上昇及びリンパ節における蛋白抗原特異的IgG抗体産生B細胞の誘導を認めた。肺炎球菌の感染部位で感染防御に必要な免疫応答が誘導されることから、肺炎球菌蛋白・糖脂質併用ワクチンは肺炎球菌感染症を予防するのに有効であることが示唆された。
 野生型マウス及びDectin-2欠損マウスに肺炎球菌多糖抗原ワクチンを接種して、血中の多糖抗原に対する総IgG抗体価及びIgG3抗体価を測定したところ、Dectin-2欠損マウスでは、血清3型の多糖抗原に対する抗体価の低下を認めた。同様に、6B型、14型、19F型及び23F型の多糖抗原に対する抗体価の低下も認めたから、Dectin-2が肺炎球菌多糖抗原の認識及びIgG抗体産生に重要であることが示唆された。 
 また、抗IFN-γ抗体投与によりIgG抗体の産生低下を認めたことより、IFN-γがIgG抗体産生誘導に重要であると考えられた。肺炎球菌多糖抗原ワクチン接種後に野生型マウスとDectin-2欠損マウスの脾臓のNKT細胞の活性化を解析したところ、Dectin-2欠損マウスではNKT細胞の表面に発現するCD69という活性化マーカーや細胞内IFN-γの発現低下を認めた。さらに、Dectin-2欠損マウスにNKT細胞を活性化する糖脂質やIFN-γ、またはIFN-γを誘導するインターロイキン12を投与することにより、IgG抗体産生が回復した。以上の結果より、Dectin-2欠損マウスにおける多糖抗原に対するIgG抗体の産生にNKT細胞などによって産生されるIFN-γが重要であることが示唆された。
結論
 肺炎球菌蛋白抗原と糖脂質抗原の併用ワクチンは、蛋白抗原に対するIgG抗体産生の誘導により、感染防御効果をもたらすと考えられた。本併用ワクチンでは糖脂質抗原による免疫の活性化により、IgG抗体産生B細胞の誘導を促進すると考えられた。本併用ワクチンは経鼻接種を行ったが、所属リンパ節においてIgG抗体産生B細胞が検出されることから、肺炎球菌性肺炎及び侵襲性肺炎球菌感染症を予防するのに有効であることが示唆された。
 また、肺炎球菌多糖抗原ワクチン抗原の認識及び多糖抗原特異的IgG抗体産生の誘導にDectin-2という分子が重要であることも明らかにした。また、肺炎球菌多糖ワクチンによる抗体産生においてもNKT細胞が重要な役割を担うことが分かった。
 以上の結果から、NKT細胞の糖脂質抗原を免疫賦活剤として用いることは、肺炎球菌ワクチンの効果を増強するうえで有用であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-02-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201318075Z