2012年に発生した新型ヒトコロナウイルス侵入に備えた診断、治療法確立のための動物モデル開発とSARS-CoVとの鑑別に関する研究

文献情報

文献番号
201318074A
報告書区分
総括
研究課題名
2012年に発生した新型ヒトコロナウイルス侵入に備えた診断、治療法確立のための動物モデル開発とSARS-CoVとの鑑別に関する研究
課題番号
H25-新興-若手-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 奈織子(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中東呼吸器症候群ウイルス(MERS-CoV)は、2012年に中東で発生が確認された新しいコロナウイルスで、重症呼吸器症状が主徴とされている。その症状から重症急性呼吸器症候群(SARS)との鑑別診断が必要で、今後の流行に備えて診断、治療、防疫対策が急務である。そこで本研究ではMERS-CoVの病原性と病態の解明を目的として、感染動物モデルの開発を行う。さらに、これを利用して診断、治療および予防法の検討を行い、MERS-CoVの侵入に備える。そこでMERS-CoVに対する病原性の解明、ワクチンなどの有効性試験やウイルス増殖部位の同定、免疫応答を詳細に検討するため感染動物モデルの確立を試みる。
研究方法
MERS-CoVに対するマウスおよびラットでの感受性を解析するため、5週齢および半年齢のBALB/cマウス、F344ラットあるいは新生仔のddYマウスとLewisラットにMERS-CoVを接種した。接種経路は5週齢および半年齢は経鼻から、死後24時間以内の新生仔は腹腔内、頭蓋内あるいは生後3日に経鼻から行った。5週齢および半年齢のマウスとラットは接種後1、3、6、10日で解剖し、肺洗浄液と肺のウイルス価の測定を行い、諸臓器は病理解析用にホルマリン固定した。最終解剖日の血清は中和抗体価測定に用いた。新生仔は接種後3、7、21日で解剖し、経鼻接種を行った動物では接種後3日の肺でウイルス価の測定を行った。諸臓器は病理解析用にホルマリン固定した。最終解剖日の血清は中和抗体価測定に用いた。
結果と考察
5週齢および半年齢のBALB/cマウスはMERS-CoV接種後、体重変化や臨床症状は見られなかった。そして接種1日目の肺洗浄液から低い値のウイルスが検出されたが、肺ではウイルスは検出されなかった。また病理学的解析においても諸臓器に変化はなく、中和抗体の産生も見られなかった。新生仔ddYマウスの腹腔内および経鼻接種群では諸臓器に病変は見られず、また中和抗体の産生も確認できなかった。しかし、頭蓋内接種を行った群では接種21日目の脳で6匹中3匹に髄膜脳炎が見られ、この脳組織からリアルタイムRT-PCRでウイルスゲノムが検出された。そして炎症が見られなかった個体を含め一部のマウスに中和抗体価の産生が見られた。一方、5週齢および半年齢F344ラットではBALB/cと同じく体重変化や臨床症状は見られなかった。また肺洗浄液および肺からウイルスは検出されなかった。しかし、諸臓器の病理解析では接種3日目以降の半年齢のラットの肺で、肺胞壁に軽度の炎症細胞浸潤が見られた。しかし、その組織からウイルスゲノムは検出されなかったため、炎症反応とウイルスとの関連性は分からなかった。肺以外の臓器に著変は見られなかった。興味深い事に、半年齢のラットではウイルス1回接種で非常に低い値の中和抗体が産生されていたため、5週齢と半年齢のF344ラットにMERS-CoVを2回感染させた結果、半年齢ラットのみ、9匹中3匹で1:4から1:16の中和抗体の産生が見られた。一方、新生仔Lewisラットは腹腔内、頭蓋内、経鼻接種のどの群においても、体重変化、臨床症状は見られず、経鼻接種群の肺のウイルス検出は陰性で、諸臓器にも変化は見られなかった。さらに全ての群の新生仔ラットで、接種後19-20日の血清で中和抗体の産生は見られなかった。
これらの結果から、マウスは週齢差の影響はなく、頭蓋内接種を行った新生仔マウス以外は感受性を示さない事が明らかとなった。頭蓋内接種をしたマウスでは一部のマウスの脳で髄膜脳炎が見られ、また脳炎の見られなかったマウスでも中和抗体の産生が確認された。この事から、MERS-CoVは新生仔マウスの脳で増殖が可能であると推察された。一方、ラットでは週齢において感受性にわずかな差が見られた。半年齢のF344ラットでは肺に軽度の炎症細胞浸潤とMERS-CoVの2回感染により、中和抗体の上昇が見られた。これに対して5週齢のF344ラットと新生仔Lewisラットでは諸臓器に病理学的変化は見られず、中和抗体産生も確認できなかったことから、感染に至っていないことが明らかとなった。半年齢のF344ラットについても病変組織からウイルスゲノムは検出されておらず、炎症とMERS-CoVとの関連性が不明なため、中和抗体の産生は自然感染とは異なった様式で起こっている可能性がある。
結論
本研究ではマウスおよびラットはMERS-CoVの動物モデルに適さない事が明らかとなった。今後、MERS-CoVレセプター発現トランスジェニックマウスの開発を行う必要がある。また、新生仔マウスのMERS-CoV頭蓋内接種によるウイルスの分離を行い、マウス馴化株の樹立が可能か検討を行う。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
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収支報告書

文献番号
201318074Z