高齢障害者の立位・歩行に関するリハビリ訓練の為の支援機器に関する研究開発

文献情報

文献番号
199800247A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢障害者の立位・歩行に関するリハビリ訓練の為の支援機器に関する研究開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山本 敏泰(富山県高志リハビリテーション病院)
研究分担者(所属機関)
  • 矢野英雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢障害者において、立位・歩行能力を改善し、その維持・向上をはかることは非常に重要である。昨年度に引き続き、本研究では、脳卒中片麻痺者の為の表面電極型ハイブリッド訓練用電気刺激システムの研究を進める。電気刺激の最大の特徴は、なめらかな随意運動出力(異常動作を含む)が比較的困難な状況において人工的に自然な動作に近い運動を作り出せる事であり、様々な訓練におけるフィードバック情報としてリハビリテーションに新たな展開を与える可能性を有している。昨年度まで侵襲性を伴わない表面電極を利用した電気刺激手法の有用性を示してきた。またReciprocal gait orthosisの概念を電気刺激システムに組み入れた片麻痺者のためのハイブリッド型電気刺激システムの第1試作を進めてきた。
本年度においては上記システムの改良を更に進め、片麻痺者の歩行準備及び歩行訓練への応用に関する実用化研究を推進する。具体的な実施内容は以下の通りである。
1) 刺激電極システムと、電気刺激パターン生成方法に関する研究
2) 片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具に関する研究開発
3) 訓練用電気刺激システムの臨床試用に関する研究
研究方法
上記の課題について、以下のような方法で検討を行った。
1) 刺激電極システムと、電気刺激パターン生成方法に関する研究
表面電極型刺激における被刺激筋の筋力出力特性と、その活動量などの基礎的検討を行う。被刺激筋の定量的筋力出力評価には、改良型3次元トルク計測システムを用いて股関節周囲筋の実験的等尺性筋出力について評価する。被刺激筋の活動量の評価はMRIを利用し刺激前後におけるT2値の変化に着目した検討を進める。歩行準備及び歩行訓練時における刺激パターンについては、筋骨格モデル等を活用した方法を更に展開する。又歩行速度による歩行動作学的データ、筋放電パターンとの比較検討を行う。
2) 片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具に関する研究開発
昨年度に開発した片麻痺者用の空気圧式股関節軸付きreciprocal装具の評価を実施する。又多様な障害状況に対応するため、直接的に健足の運動を利用したレシプローカル装具(股関節継手無し)を開発試作しその基礎的評価を行う。
3) 訓練用電気刺激システムの臨床試用に関する研究
現在までのハイブリッド型電気刺激システムの臨床試用を実施することを目的に、個別の事例による実際のリハ訓練への導入の可能性を検討する。
結果と考察
各検討項目について以下の結果を得た。
1) 刺激電極システムと、電気刺激パターン生成方法に関する研究
刺激電極については、皮膚表面上の下肢表在筋のMotor Pointと筋線維の分布形状に合わせて採型した新しい電極の有用性を示した。現在の電極は、銀織布と(水の分子を閉じこめた)粘着パッドから構成されている。また表面電極の場合には皮膚表面からの刺激効果が重要である。MRIを利用した筋活動度の評価については、開発され刺激電極を用いた時の刺激前後のT2値の変化から活動量の変化を調べた。結果は被刺激筋はその深部にまで活動が及んでいることを示し、当該刺激方法が実用に耐えうることが判った。
3次元トルク計測システムによる被刺激筋の筋力評価については、計測装置センサー部の改善を図り、主に股関節周囲筋の関節出力トルク等の評価を行った。具体的な被刺激筋の分類は皮膚表面から分離可能なものとした。H9年度来実施してきた筋骨格モデルによる推定結果と上記トルク推定実験結果を比較照合しながら、モデルの各筋の幾何学的パラメータなどの検討を行い、等尺性状態におけるモデルの有用性を確認した。また歩行時の動作分析データを併用して、実際の歩行用刺激パターンの生成について検討を加えた。
以上表面電極型刺激電極の刺激効果について検討し、有用性を確認することができた。又電気刺激パターンの生成方法については、等尺性収縮時における実験データから筋骨格数学モデルのパラメータについて検討を加えた。歩行時における推定結果は実用化への可能性を示した。今後は基本的な検討事項として、被刺激筋の筋力出力の安定性、被刺激筋の活動量とその深層周囲筋への影響等について調べる。又筋骨格数学モデルを改良して、各筋間の出力特性行う必要がある。
2) 片麻痺者用ハイブリッド化歩行補助装具に関する研究開発
昨年度に開発された片麻痺者用の股関節軸付きの患側空気駆動式装具の評価を行った。。対象者は発症から2年以上経過した男性(50才程度)で、12週間実施した。訓練前後における動作分析の結果、歩幅増大や内反尖足軽減などの効果は得られたが、分回し歩行は改善されなかった。reciprocal機能を十分生かした装具、及びインタフェース改善の必要性が示唆された。
一方我々は、健足が立脚位伸展運動を3倍程度拡大して直接患足振り出しに活用する(股関節継手無し)装具の開発試作を実施した。牽引は患足振り出し時のみとし、制御インターフェースは(牽引)力センサーを用いて歩行周期を算出し同期を採る方法を導入した。結果については、伝達される力は充分ではないが、正確なreciprocal動作タイミングが得られると共に、電気刺激による運動生成を安定化させるのに役立つことが確認できた。今後は実用化を進め臨床試用を実施する。
3) 訓練用電気刺激システムの臨床試用に関する研究
現在までのハイブリッド型電気刺激訓練システムを評価するため、実際のリハ訓練の場でその応用の可能性を検討した。片麻痺者では比較的早期からの訓練への導入も重要であると考え、発症から約3週間弱の事例に報告する。訓練では通常のリハ訓練を併用した。結果については、端座位が取れる状態から訓練を開始して2ヶ月強を経た段階では、時々右骨盤後退・膝関節のlocking、遊脚期には膝のsnapping・足部内反尖足が認められる程度に回復した。これは平常の訓練が同時に進行しているものであり、電気刺激の効果とは一概に言えない。しかしながらリハ訓練進行において平行棒歩行の膝折れや内反尖足を防止した訓練可能となり、少なくとも全体の訓練計画をスムースに進行させるのに非常に有効であった。比較的早期の導入は、歩行パターンの再学習、残存筋力等の面でも効果的であるように感じられた。電気刺激の最大のメリットの1つである、比較的複雑な運動を人工的に作りだし訓練の進行を促すと共に、新しいフィードバック情報を提供するという目的は充分に生かされたように思う。一方実施に当たり立位など様々な歩行準備訓練用の刺激パターン、バイオフィードバック情報の提示などの必要性が指摘され検討を加えた。今後は刺激パターン調整用センサー等と共に、刺激電極システムの実用化研究を進めていく。
結論
片麻痺者の歩行能力を改善するハイブリッド電気刺激訓練システムの研究開発において、以下の結論を得た。
① 筋の分布形状の基づいた銀織布表面電極による電気刺激の効果が、被刺激筋深部にまで充分に達していることを示した。
②実験的に推定された関節トルク値を利用して筋骨格数学モデルを改良した。歩行動作分析結果を併用して歩行訓練用の電気刺激パターンを生成した。
③ハイブリッド化歩行補助装具については、臨床試用を実施し改良を進めた。健足の運動を活用したレシプロ機能を有する新しい装具を開発し、実用化の可能性を示した。
今後は電気刺激パターンの推定方法、電気制御インターフェースの改良を実施し、実用化を目指した臨床応用研究を進めると共に、運動生理、神経生理学的側面を含めた評価方法の検討を実施していく。

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