リレンザ純化学合成技術を基盤とした薬剤耐性新型インフルエンザウイルス出現に対応する新規抗ウイルス薬の開発 

文献情報

文献番号
201318071A
報告書区分
総括
研究課題名
リレンザ純化学合成技術を基盤とした薬剤耐性新型インフルエンザウイルス出現に対応する新規抗ウイルス薬の開発 
課題番号
H25-新興-若手-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
熊谷 直哉(公益財団法人微生物化学研究会 微生物化学研究所 有機合成研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 滝沢 直己(公益財団法人微生物化学研究会 微生物化学研究所 )
  • 藤原 俊伸(名古屋市立大学大学院薬学研究科)
  • 野本 明男(公益財団法人微生物化学研究会 微生物化学研究所)
  • 高田 礼人(北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター)
  • 高木 智久(京都府立医科大学消化器内科)
  • 河野 憲司(長瀬産業株式会社研究開発センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、インフルエンザウイルスに対する主要な治療薬はリレンザ・タミフル等のノイラミニダーゼ(NA)阻害剤である。しかし、近年タミフル耐性ウイルスが同定され、タミフル依存型治療の脆弱性が問題となっている。本研究では、リレンザ純化学合成技術、保有する全NAサブタイプを基盤として、リレンザの大量製造法の確立・誘導体創出、臨床分離株も含めた徹底的スクリーニング、迅速診断キットの開発を展開する。新型・耐性ウイルスの流行を先回りした研究展開により強力なインフルエンザ対策を構築する。
研究方法
タミフル耐性ウイルスが爆発的に蔓延した際の第一選択薬がリレンザとなるが、現行法のシアル酸からの安価・安定供給には限界がある。一方で、我々の純化学合成技術では安価・大量入手可能なアルデヒドとニトロブテンを原料に、独自に開発したNd/Na 2核金属不斉触媒を用いるanti-選択的不斉ニトロアルドール反応により、合成鍵中間体を光学活性体として供給可能である。本反応は廃棄物を一切副生せず、大量合成・誘導体合成法の基盤技術として展開可能である。
また、Nd/Na触媒は不斉触媒としては非常に希な不均一触媒として機能するため、将来的に連続フロー合成による効率的大規模合成への応用が期待できる。合成鍵中間体からのリレンザへの各合成ステップの徹底的最適化を行い、安価な大量供給法として確立させる。同時に、リレンザ誘導体の合成検討を開始する。現行法では高コストもさることながらシアル酸類似誘導体しか得ることができない。一方で、我々の純化学合成法では原理上あらゆる構造特性を有する多様な誘導体が創出可能であり、現行法に比べて圧倒的な優位性がある。大量合成法の検討過程で得られた反応最適化の知見を活用し、極めて迅速に多種多様な化学構造を有するリレンザ誘導体ライブラリーの構築が可能となる。リレンザ誘導体の活性評価で得られた系統的データは、その構造特性と絡めて考察し、合理的デザインにより目的誘導体の創出を迅速化する。
 合成研究と併行し、リバースジェネティクスの手法を用いてN1からN9までのNAサブタイプのインフルエンザウイルスをそれぞれ作製する。NA以外のウイルスタンパク質の影響を排除するためにNAをコードする分節以外はA/WSN/33の分節を使用する。作製したそれぞれのウイルスについて低濃度リレンザ存在下で継代を繰り返し、リレンザ耐性株の単離を行い、変異部位の決定を行う。変異部位の立体構造から耐性ウイルスに対して幅広く効果が期待できるリレンザ誘導体の構造予測を行う。
結果と考察
リレンザの純化学合成技術に関する研究では、その基本根幹技術であるanti-選択的不斉ニトロアルドール反応の抜本的改良を行った。本研究計画における合成計画では、合成経路の第一ステップに独自の不斉触媒反応を組み込むことで一挙に二つの不斉炭素を導入し、その二つの不斉点が残りの不斉点を誘導的に構築していく効率的な合成経路を立案している。故に、この第一反応ステップの効率が全体の合成効率を規定するため、触媒の高性能化を行うこととした。anti-選択的不斉ニトロアルドール反応は、アルデヒドとニトロアルカンの原子効率100%の不斉炭素-炭素結合形成反応であり、生成しうる4つの立体異性体のうち望みの1つのみを高い選択性で与える反応である。
併行して、2年目以降に必要となるウイルス株の単離を進めている。リレンザ誘導体のNA阻害効果検討時にNA以外のウイルスタンパク質の影響を排除するために、NAをコードする第6分節のみを各種ウイルス由来の分節に入れ替え、他の分節はWSN株由来のウイルス株の構築を行った。ヒトN1、N2、トリN1~N9を持つ組換えウイルス20種をリバースジェネティクスの方法で作製し、リレンザ感受性について確認を行った。確認の結果、すべての組換えウイルスでリレンザ感受性が確認できた。現在、今回作製した各種ウイルスについてリレンザ耐性株の単離を行っている。
 不斉触媒反応が工業的スケールでの大規模合成に利用される事例は未だに希であり、その要因は厳密な反応制御の必要性と不斉触媒のコストに由来する。今回開発した固相触媒は、共有結合を使わずに不斉触媒を固相担持することが可能なため、従来の固相担持触媒と比較して極めて簡単に触媒調製を実施できる。また、得られる固相担持触媒は再利用が可能であり、工業的に好ましいフロー系での反応実施も可能であることから、上記問題を解決する実践的有用性の高い触媒と言える。
結論
3年計画の1年目として、光学活性中間体合成の為の不斉触媒の大幅な改良に成功した。また、リレンザ耐性インフルエンザウイルス株の単離を進めており、リレンザ誘導体のスクリーニングを開始する準備が整いつつある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201318071Z